ある日の風景1.5

作:426

オフの日を使って、やよいを俺の地元にある大型ディスカウントストアに連れて来た。

「うわぁー♪プロデューサー!ジュースが一本29円ですよ29円っ」
「ああ。主に季節限定で売れなかった商品が流れてきてるんだが…凄いだろう?」
「あぁあっ!?こっちは洗剤が159円でっ!…いつもこんなに安いんですか?」
「そうだな、いつもこんな感じだ。俺もカップラーメンとかよく買いに来るんだ。やよいもどうだ?」
「うっうー…カップラーメンは一人用だし、ゴミも出るから…あんまり買わないんですよ。
それに、袋ラーメンをまとめ買いした方が安いし、野菜を入れたりみんなで分けたり出来るでしょ?」
「やよい…… 」

【日用品コーナーに行ってみるか?】←(ピッ)
                  【カップラーメンの魅力を教えてあげよう】  

   【そこまで大変なのか?】

「…日用品コーナーもあるぞ。行ってみるか?」
「行きたいですっ!歯ブラシやトイレットペーパーとか安かったら、買っても良いですか?」
「ああ。今日は俺の車があるから少しくらい買いだめしてもいいぞ」
「1ロールだけでいいですよ。こういうのはお一人様一つがルールですから。それに…」
「……それに?」
「えっと……最初から閉店間際の値引きを狙うって、なんかちょっと気持ちがトゲトゲしちゃって…
安いんだけど、安かったら何でも良いって訳じゃなくって…うっうー…上手く言えないかも」

【その気持ちを大切に、な】←(ピッ)
                  【安物買いの銭失い、って言葉もあるしな】

  【やよいらしくないなぁ】 


「その気持ちを大切に、な。……実は、俺が今日やよいを連れて来たのは、それを教えたかったんだ」
「え?……どういう事ですか?」
「生活が苦しいのは仕方ないけど、心まで貧しくなったらダメだよ、ってことさ」
「うっうー……やっぱりよく分からないかも」

「つまりな……安さだけに目を向けていると、ここの物価が当たり前になってくるだろ?
そうすると、普通のスーパーやコンビニのものが滅茶苦茶高く感じたりするんだ。
むしろあっちが普通で、ここが安すぎるんだけどな」
「うーん……確かに、毎日ここで買い物してたら、感覚変わっちゃうかも」

「ああ。そして……だんだんありがたみを感じられなくなって来るんだ。恐ろしい事にな。
感性が鈍るというか……貧しくなってしまうんだ。
アイドルって、人に夢や元気をあげる仕事だろ?
心が貧しい人は、自分の事しか考えられないからな……安く買えるのは良い事だけど、
それがどうして安売りされているのか、それも考えて欲しいんだ」

「うっうー……そうですよね。半額のお惣菜とかも、売れ残って捨てちゃうよりましだから、
安くなるんだし……新鮮なうちに食べてもらえないのは、ちょっと可哀想……」
「そうだな。でも、安心したよ。やよいは……ずっと心の豊かな娘だったし」
「へ…?」
「ちゃんと他のお客さんの事も考えてただろ?安いからって自分だけ買い占めたりしたくないって」
「それは……当たり前の事だと思うから。トクベツに意識したことなんて、無かったですよぅ…」

「でも、それが大事なことなんだ。やよいはきっと、トップアイドルになれるし、俺がしてみせるさ!」
「え、えぇえっ!?……プロデューサー、いきなり何を?」
「改めて確信したよ。やよいはどんなに売れっ子になっても、油断したり手を抜いたりしない娘だ。
そんな娘をプロデュースできるんだから、俺は幸せモノさ。
だから……今よりもっともっと頑張るよ。やよいを幸せにしてあげたい」
「ぷ、プロデューサー……」
「ん、どうした?」
「あ…あははは、あのっ!私……衣料品コーナーも見てきますね!
弟達の服とかあったら買っておきたいし!」

【おい、走るとあぶないぞ!?】←(ピッ)
                  【じゃ、俺は雑貨でも見ておくよ】

   【もう少し食料品も見ておいた方が…】 


「お、おい……危ないから店内を走るんじゃない」
「あ!ご、ごめんなさいっ!……でもでも、こっちも安いですよぅー!靴下が5足で500円だって!?
あぁっ!?これ…Tシャツも4枚1000円!ほらほら、凄いですよプロデューサー!」

(しっかり『お姉ちゃん』してるよなぁ……でも、どうして急にあんなに慌ててるんだ?)

「これとこれ、あとこれと……っ!?こ、これは……サイクルヒット級の目玉発見ですっ!」
「おいおい、一体何が………て、うおっ!?」
「ほら、これ!ジュニア用ショーツ4枚500円っ!?綿100%で縫い目もしっかりしてるし、
ワンポイントのリボンが可愛くって……って、っひやぁあっ!ご、ごめんなさいっ!
変なもの見せちゃってっ!?」
「あ、いや!俺こそすまんっ!……その…気が利かなくて」
「そんなっ……プロデューサーは悪くないですよ!わたしが……」
「あー……ひとまずソレをずっと握りしめるのはやめなさい。一人で買ってこれるよな?」
「あ、は……はいっ!大丈夫ですっ、いってきまーすっ!」

(ふぅ……やれやれ。まだ中学生とはいえあんなものを見せられるとドキッとしてしまうな。
ただ、ステージ衣装にああいう安い下着はどうかと思うし……
後で律子か音無さんに頼んで、ステージ衣装の一部って事で、経費で買ってもらおう)

「プロデューサー!お待たせしましたっ♪これだけ買っても4760円ですよー」
「分かったけど、大声で金額を言うもんじゃありません!……じゃ、車に積み込むか」
「はーいっ!プロデューサー、今日はありがとうございましたっ!」

(……やよいの優しさも改めて分かったし、彼女にも良い思い出ができたみたいだ)

    〜グッドコミュニケーション〜 



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