バトルロイヤル・バレンタイン

作:Gogatea

「ねーねーはるるんはるるん、お願いがあるんだけど」
「なに?二人して」
「あのね、亜美真美、バレンタインチョコ作ろうと思うんだけど教えてくんない?」
「いいよ。んで、誰にあげるの?」
「んっふっふ〜、それはヒミツ〜」
「あら面白そうね、私も参加しようかな」
「うっうー、律子さんが手作りチョコ作ろうなんて意外ですー」
「ナニよその言い方、文句ある?アタシはキャンペーンに使えるかどうか実験するだけよ」
「あらあら〜、みんな面白そうな相談してますね〜」
「あずささんは手作りチョコ作ったことあるんですか?」
「ええ、高校の時に。でも・・」
「?」
「バレンタインに間に合わなくて、結局渡せなかったんです〜、ふふっ」
「ははっ、あずささんらしいや。ボクも女の子らしく今年はやってみようかな。
いつもは学校の女の子たちから貰ってばっかりだから」
「手作りなんて安っぽいのは趣味じゃないんだけど、みんながやるなら参加してみようかしら。
ま、ワタシのが1番でしょうけど、にひひっ」
「千早ちゃんは?」
「チョコレート、ですか?カロリーが高くて手軽なのでダンスレッスンの前にかじったりする
程度ですが」
「千早ちゃん、登山家?な、なんでもないですぅ」
「んじゃ千早も雪歩も今年は作ってみたら?みんなの作ったのを比べてみても面白そう」
「あ、律っちゃんナイスアイデア!んじゃ手作りチョコレートコンクール、やろっ!」
「おー!」「おー!」「あらあら、みんな元気があっていいわね〜」
「………」「え、え、私もですかぁ」「よーっし、ボクもガンガンに気合入れて作るぞぉ」
 かくて765プロ10名(その場に居合わせたばかりに巻き込まれた若干名含む)による
バレンタインチョココンテストが始まったのだった。 


数日後、甘い香りが事務所の応接室を支配していた。
「んじゃ、最初は雪歩から」
「え、私からですかぁ。えと、えと、自信ないですぅ」
「はいそこ、スコップ出さないでチョコ出しなさいっ」
「律子さんてこーゆーの仕切らせると上手いですよね」
「なんかメガネも輝いてるよね」
「なに?」「わわっ、何でもありませぇん」
 雪歩の作ってきたのはちんまりとした抹茶チョコ。
「んじゃ試食試食、っと」
 われ先に手を伸ばすアイドル達。
「お、けっこうおいしいじゃん」「ゆきぴょん、センスいい〜」
 とりあえず応接室の床に新しい穴があく事態は避けられたようである。

「じゃ次は、あずささんお願いします」
 あずさが取り出したのはきれいにお椀型の結構大きめなチョコ。
「私が好きなミルクたっぷりのチョコにしてみました〜」
 お椀型…ミルク…たっぷり…全員の視線があずさに、正確にはあずさのある一点に集中していた。
「くっ」と小さな声が聞こえたのは気のせいだろうか?

「それじゃ、高槻やよい3番いきまーっす」
 雷おこしのようなチョコ。よく見るとナッツのようなものが入っている。
「えーっと、これは何が入ってるのかな?」
「はいっ、節分で残った福豆ですっ」
 大豆〜はタンパクしーつ♪と歌い出しそうになるのをこらえる9人。
「なんでそんなのが入ってるのよっ」
「でもでも、食べ物を残して賞味期限が切れたりしたらもったいないですよ」
「せめてこの薄皮は取り除いて欲しかったわね」 


「千早の作ったチョコは?」
「他人に見せるようなできではないだけれど」
 確かに、箱から出て来たのは不揃いでイビツな褐色のカタマリである。
「でも、でもこーゆーのは中身で勝負よね、千早ちゃん」
 とりなすように1個口に入れた春香が妙な顔になる。
「私はあまり甘いのは好きではないので」
「っていうか、全然甘くないよこれ」
「ホントだ〜、これが大人の味ってヤツ?」
 千早も1個取って首をかしげる。
「ねぇねぇ千早ちゃん、これって純チョコ使ってお砂糖入れなかったでしょ?」
「くっ…いえ、私はこういう苦いのが好みなの」
 間違いではなかった、と主張したいようである。
(相変らず頑固で不器用なんだから)と何人かが思ったとかそうでないとか。

「じゃあ私の番かな」
 律子が取り出したのはいかにもな手作りチョコ。アラザンやチョコスプレーが
トッピングされたのもある。
「律子さんがこんな女の子らしいの作ってくるのって意外ですね」
「そお?私だってやればできるのよ、と言いたいところだけど、実は自信なくてコレ使ったのよね」
 取り出したのは「ホームメイドキット はじめてのバレンタイン」という箱。
「当店おすすめ!」「ご奉仕価格!税込980円」の文字が輝いている。
「父のところにメーカーさんがサンプル持ってきてね、それ使ってみたの。
けっこうイイでしょ?良かったらみなさんもどうぞ」 
 ちゃっかり親の商売の宣伝までしている。

「じゃ次は私ね!他のとは違うわよ、ベルギーから本場のチョコ取り寄せたんだから」
「あー、亜美それ知ってる!」「真美も昨日TVで見たー!くちゅくちゅぺー、ってヤツ」
「むっきーっ、幼稚園児がハミガキしてるんじゃないのよ!クーベルチュ―ルって言うのよ。
ク・ウ・ベ・ル・チュ・ウ・ル」
「くー・べろちゅー…外国のオトナの味なんですね?うっうー」
「ホンモノを知らない連中はこれだからっ!食べてみれば違いが分かるわよ」
 と取り出したのはさしわたし50センチはある巨大なハート型チョコ。
「ちゃんと私からのメッセージも入れといたんだから!」
 なるほど、チョコの表面にでかでかと文字が書かれている。
『世界征服!』と。 


「じゃ亜美と真美の出すねー」「もう、チョーバリバリかっこいいチョコ作ってきたんだよ」
 最初から付く形容詞間違ってないか?
「じゃーんっ!レインボーチョコ亜美真美スペシャル!」
 ぴったりハモりながら二人が出したチョコ、確かに色とりどりである。
「はるるんに借りた本に載ってたんだよ。漢字わかんないトコもあったけど」
「ああ、アレかぁ。私も作りたかったけど食紅とかウチになくてできなかったのよね」
「ショクベニ?ねぇはるるん、それなんかのカイジン?」
「え?こういうのってホワイトチョコに着色料入れて作るんじゃ」
 その瞬間、色とりどりのチョコをかじったアイドル達の手が止まる。
「えっとね、赤はとんがらし、オレンジはニンジン、黄色はカラシで色つけたの」
「緑は青汁!紫は理科の実験で作った紫キャベツの絞り汁。へへー、ナイスアイデアでしょ」
「ねぇ亜美ちゃん真美ちゃん、青は何をいれたのかしら〜?」
「うんとね、パパが前外国で買ってきた青いケチャップ!」
「…雪歩、悪いんだけどお茶いれてくれない?全員分、大盛りで」
(ちなみに青いケチャップは、アメリカで本当に某ハイ○ツから発売されてました)

 続いては真。ちょっと大ぶりで形も不揃いだが、なかなかいい色合いである。
「へっへー、疲れた時には甘い物っていうでしょ?そこでこれっ、真特製スタミナチョコ!」
 チョコでスタミナ?数人が疑問を持ったものの、全員口に放り込んだ後だった。
「う…」「あら?」「ぐっ」
「真ちゃん、これって何が入ってるの?」
「えーっと、ハチミツとスッポン、あとガラナエキスとヤツメウナギの粉」
 その後やよいがのぼせあがるわ、雪歩が興奮の余りぶっ倒れるわ、ガソリン満タン状態の双子が
いつもにも増してハイテンションになるわの大騒ぎになったのは言うまでもない。

「最後は春香かぁ。まぁお菓子作りが趣味だし、今度は地雷踏んだりしないでしょ」
「なんか核弾頭みたいなのもあったけど」
「えへへ、今回はいろいろチャレンジしてみましたっ!いっぱい作ったのでみんなでどうぞ」
「いっぱい?」
 春香は足元に置かれた巨大なスポーツバッグを開ける。もちろんその中には、ぎっしりと
チョコレートが詰まっていたのだった。
「えへへ、いろいろ試したらちょっと多く作りすぎちゃって」
「ちょっとって…」
 キロ単位で計った方がよさそうなチョコの山。
「これ、みんなで食べたら今の衣装着られなくならない?」
「確実にね…」 


次の日、プロデューサーが事務所につくと机の上にはカラフルな包みが9個載っていた。
「ああ、今日はバレンタインか」
 添えられたカードには「これからもよろしくお願いします」「お印ですから♪」
「ホワイトデー、待ってますね!」「義理よ義理、カン違いしないでねっ!」
「兄(c)、もらえないとかわいそうだしあげるYO ≧▽≦」
「みんなが心をこめて作ったんだから全部食べてくださいね?」
等々と書かれている。
「みんな、ありがとう。もちろん全部頂くよ」
 そううなずいて最初の包みを開けるプロデューサーは心底嬉しそうな顔をしていた。
それを周囲の物陰から覗く20個の瞳。期待に輝き、あるいは意地悪な微笑を浮かべ、
または同情するような視線に彼が気付く事はなかったのである。もちろん机の下に置かれた
リボンつきのスポーツバッグにも…。
                              (完) 



上へ

inserted by FC2 system