Succeeded dreams

作:名無し

「社長、**テレビの常務さんからの接見を求められていたのですが、
明日はオフの日でしたので断っておきました」

そう言ってくれたのは、事務職の音無小鳥君
今では私の秘書みたいな仕事も平行してやってもらっている

「ありがとう小鳥君」

「でも珍しいですね? いつもは日曜も出勤して、完全皆勤な社長が休むなんて」

「明日はどうしても外せられない大事な日なんだ」
とはいえ、常務には悪いことをしたな 今度埋め合わせを用意しておかねばな

「会計がらみのことは秋月君にも応援を頼んでいる、
つらいだろうと思うけど私が不在でも頑張ってくれたまえ」

「はい!」
元気に答える小鳥君
この笑顔を見せる時の彼女は、どんなことでもやり遂げられる
この分なら心配はないだろう

いつもなら、会社を放って、外出するなんて事はしないが
明日だけは特別だった・・・・・
そう、明日だけは 


そして、次の日
私は、小さな田舎町に向かう電車に乗っていた

この電車に乗るたびにいつも疑問に思っていたことがある、
大切な人の夢を受け継ぐ形でとはいえ、私は成り行きで芸能会社の社長をやっていた・・・
でも、このまま目標がないまま続けていてもいいのだろうかと?

しかしながら、そんな疑問を持っていたのは去年までだった。
今年は違う、とても大切な目標があるのだから。
そんな疑問がなくなったためか、窓に映っている今までとは違う景色が広がっていたような気がした。

到着した田舎町の小さな駅を降りた私は近くの花屋で菊の花を買うと郊外に向かった

郊外の小さな寺にある墓地
私がそこについた時、既にとある墓標に向かって
手を合わせていた男がいた

私はこの人物を知っている・・・いや、忘れるはずもない、
かつて「相棒」と呼んだ男なのだから 


「高木か?」

男が私に気づくと、私の方に振り返りながらそう言った。

「ああ、1年ぶりだな、荻原」
「よせ、その芸名はもう捨てたんだ・・・今は萩原だ」

「相変わらず変わってないな、萩原、たまには合わせてくれてもい」

「お前のペースに合わせていると1年中振り回されるのは目に見えているからな」

「でも、今ではこうやって1年に一度、この場所で会うだけになったがね」

そう、私と萩原の付き合いは今となっては毎年この日に合うだけだった
ある人物にお願いすればすぐにでも連絡を取ることができるかもしれない
しかしながら、それを行うのも戸惑いがあった。

「そうだな、昔なら一緒に頂点を目座せられると思っていた仲だったのにな
 今はお前は芸能会社、俺は建築会社の社長にそれぞれなった
 たぶん、あの出来事がなければまた違った結果も見えてきただろうが・・・」


『頂点』『あの出来事』
それらの言葉を聞くたびに胸が痛くなる 


そう、私と萩原は昔
2人でユニットを組んでいた。
彼がギター担当、私がボーカル兼ハーモニカ
私が曲を担当し、彼が作詞を行う
当時の若者が好むような音楽を武器にそこそこの人気を得ることができた。

中堅の壁、音楽にかかわる者なら誰でも体験する大きな障害
当然ながら我々もそこで躓いてしまった。

最初は中堅の壁が越えられなかった私たちだったが
一人のプロデューサとの出会いですべてが変わっていった

そのプロデューサーの名前は歌見さん
我々の足りなかった点を指摘し、彼の指導のもと、
練習と新曲のリリースを続けていくうちに人気も少しずつ上がっていき、
気がつけばメジャーアーティストの仲間入りをはたしていた。
そして、この調子で行けば必ず頂点に立つことができる!
私も萩原もそして歌見さんもそう確信していた。 


そんなある日、歌見さんと萩原はギターの演奏方法に関して口論になっていた
結局、話し合いが決裂したままその日は別れたのだが、
不機嫌そうに部屋を出る歌見さんの姿を見たのが最後の思い出となってしまった。

次の日、私と萩原の耳には歌見さんが信じられないほどのスピードを出して、
電柱に衝突し即死したとの報告が届いたのだった
いつもは安全運転に徹していた彼が・・・・

最初は嘘だと思いたかった。
しかし、無惨な姿に変わっていった彼の愛車、悲痛な声を上げる彼の親族
これが嘘ではないことを示すには十分な光景だった。

その事故の後、萩原は自分がギターのことで口論にならなければ
歌見さんは死ななかったはずだと自分を責め始めた。
そして、最終的には二度とギターは触らないと誓ってしまい、
我々の活動はその日を境に終了した。

そして、私と萩原は今、その歌見さんの命日に彼の墓標の前にいた。

「まだ、あの時のことに対する責任を感じているのか?」

「・・・・」
そのまま俯く萩原
肯定と受け止めるには十分なリアクションだった

「昔にに戻れとは言わない、でも、そろそろ趣味でもいいからギターを握ってみたらどうかね?
 歌見さんもこのままだと報われないだろう?」

「いや、俺はもう二度とギターは触らない・・そう決めたんだ」

この男は相変わらずだ
目を覚まさせるにはあのことを話すしかないのか?
しかしながら、よけい話をこじらせる可能性もある

私は言うかどうか迷ったが、思いきって言ってみることにした 


「自分の娘・・・萩原 雪歩君がギターを弾くことを望んでいたとしてもか?」

「!!」

私がそう言った瞬間、萩原の顔が同様に揺れるのがはっきりとわかった。

「高木、まさか俺たちのこと雪歩に話したのか?」

「いや、我々のことは知らんよ
 話したところで、何の特にもなりもしないからな」

「だったら何故、お前がそんなことを知っているんだ」

「最近になってようやく洒落た自社ビルに引っ越すことができたが、
ついこないだまでは 防音設備もない古い貸しビルに事務所を用意してたものでね」

「雪歩君とデュオを組む女の子の会話が壁を通して聞こえてきたんだよ」
「最初は鼻歌の話題から始まり、その娘の母親の話、そしてお互いの両親の話に発展し、
君が以前ギタリストだったと言う話を母親から聞いたという話題になっていた」
「そして、彼女は言っていたよ 
『いつかお父さんのギターをバックにて歌ってみたい それが私の夢なんだ』って」
「あいつが・・・・・そんなことを」

萩原は非常に複雑な表情をしながらそうつぶやいた
娘を思う気持ちと自分に対するけじめとが対立しているのだろう 


「なぁ、おぎ・・・いや萩原」

「最初、名簿を見た時は驚いたよ。
 まさか、君の娘がうちの事務所に応募してくるとは」

「でも、それだけの理由でひいきするわけにもいかなかった
 そう困惑していくうちに彼女の番になり、
聞いた彼女の歌は優しさを心強さが混合したすばらしい音色だったよ
 それを聞いた私は迷わず太鼓判を押した・・・もちろんそれが公私混合だとは思ってはいない」

「彼女を含める合格者10名に関しては、私自らが基礎技術などを教えていった
 そう、まるで自分の娘を育てるかのように・・・」

「そして、彼女たちを担当しているプロデューサー
 彼は荒削りながら、他のプロデューサーにはない特別なものを感じるんだ
 歌見さんのようにな」

「彼女たちを見ていると・・・思うんだよ、我々の果たせなかった夢
 それを君の娘であり、私の娘のようなものである彼女が実現してくれるんじゃないかって」

「それを全力でサポートしたいと思った時気がついたんだ」
「きっとそれが長年見いだせられなかった、私の目標なんだと」 


私の目標のことを話し終えた後
萩原の反応を待ってみることにした
そして彼は思いがけない言葉を口にしたのだった

「高木・・・・去年までとはまるで別人のようだな」
「えっ?」
「去年までは放心状態だった印象はあるが、
今のお前は、生きる気力に満ちているというかそんな感じがするよ」

多少の語弊が気にはかかりはしたが
大筋が合っていたので、一緒に音楽をやっていた時のノリで
私は答えた
「さすがだな、相棒 その通りだ」

すると萩原もすかさず返してくれた

「お前との付き合いはそんなに浅いものじゃない
 それぐらいわかる」
「そうか ありがとう 萩原」 


「今のお前を見ていたら、俺もこれからの目標を探してみたくなったよ」
「きっとすぐ見つかるさ、君は私よりもずっと単純なのだからな」
「何を言いやがる、俺の方が賢いぞ」
「いいや、私の方が賢い」

(ピピピピ) (ピピピピ)
久しぶりに当時のように冗談交じりで話していると
萩原の携帯がアラームを流し始めた

「ん?そろそろ時間だな」
「時間?」
「ああ、そろそろ戻って仕事をしないといけないからな」
「今日ぐらいゆっくりと休んでみてはどうかね?」
「お前の会社のように繁盛しているわけではないからな」

東京のど真ん中に大きな家を建てている男が何を言っているんだ?
こういうブラックジョークを平気な顔で言うところはかわっていないな

私はあえてそれをスルーすると
「そうか、残念だな・・・じゃあ、次に会うのはまた来年だな?」
と
次はいつ会えるかを確認した

「ああ、でもできれば・・・・お前や雪歩と・・」
「ん?よく聞き取れなかったが?」
「いや、何でもない・・・じゃあな高木
 これからも雪歩をよろしく頼む」
「ああ、またな荻原」
「・・・・萩原だ」

そう言い残して、萩原は去っていった。
しかしながら、その口元はかなり緩んでいるようにも見えた 


萩原を見送った後、私は再び歌見さんの墓標の前に立った
そして彼の墓標に向かって自分の気持ちを伝え始めた。

「歌見さん、ようやく私も見つけられましたよ・・・・
 私自身の目標を」

「萩原の子が、私の指導を受けて、貴方と同じような才能を持つPの力量で
 貴方の・・・いや我々の夢を叶えようとしている
 多分、彼女が頂点に上り詰めた時、きっと彼女自身の夢も叶えられるだろうと思います」

「そして前向きに頑張っている彼女たちを見て一つの決意を立てました
 彼女の夢を必ず叶えさせてみせると!
 もちろん彼女だけではない
 アイドルに憧れる者、トップを目指したい者、他人の前で歌っていたい者
 目標を持って765プロに入った者すべての夢を叶えさせる
 それが私の目標だと気づきました
 これからの余生、その目標のために生きていこうと思っています。
 志半ばで亡くなられた貴方のためにも・・・・・」

『高木君、ありがとう』
「えっ?」
いま一瞬、歌見さんの声が聞こえたような気がした
「気のせいか」
私はその後に会釈をして、その場を去っていった。
次に来る日は来年の命日より先に、
彼女達が頂点をたどりついた報告の為にここを訪れることができることを願いながら・・・・・ 



後日
私は偶然にも萩原雪歩君と彼女のユニットを担当するプロデューサーを廊下で発見した。

そして偶然にもその話し声が聞こえてきた

「ぷ、プロデューサー」
「ど、どうしたんだ、雪歩」
「大変です、お父さんが庭の隅に練習用小屋を・・・」

練習小屋?

私との会話がきっかけかもしれないが、彼女のこと少しずつ認めてはきているんだと理解した
まぁ、しかしながら素直じゃないところは昔から変わらんな 荻原
でも、きっと雪解けも近い・・・・私はそう確信した。

私は私の気持ちを代弁するようなセリフで雪歩君をなだめるPの言葉を聞き
苦笑いしながら社長室へと戻っていった。

FIN 



上へ

inserted by FC2 system