ある日の牛丼屋 -千早-

作:426

「千早…腹減ってるだろ?俺も晩飯にしたいんだけどさ…」
「そうですね。家で食事と言うのは遠慮したいので、何処か適当なお店で食べましょうか」
「うん…それで、なんだけどな。どうやらこのあたりにはファミレスもなさそうだし…」
「ここで良いと思いますよ。入りましょうか?」
「え……おいおい、いいのか?誘っておいて何だけど、女の子に牛丼屋ってのもなぁ…」
「構いません。別に初めてではありませんから」
「え!?マジか?」
「一人で食事をしなければならない事は、何度もありましたから……当時は両親からお金を
渡されて、『これで、外で何か食べてきなさい』って…でも、
あんまりお金も時間も掛けたくなかったので、こういうところで済ませることは比較的多かったんです。
だから、あんまり良い思い出のあるところでは無いのですが」
「そっか……ごめん、嫌な事を思い出させたな。やっぱりやめとくよ」
「プロデューサー!分からないんですか?わたしはここに入りたいと言ったんですよ!」
「え?…でも、今『あまり良い思い出は無い』って…」
「ああもうっ…一人の食事は良い思い出が無いってことですっ!プロデューサーと一緒なら、
味も雰囲気も違うものになるとは思わないんですかっ!?」
「あ。うん…そうだな。すまん(まいったな…俺、責任重大かも)」
「ふふ…実は、かなりお腹も減っていますし、早く食べたいという気持ちもあるんですよ」

彼女の笑顔は、俺への信頼の証でもあるのだろうか……
店の中へと入った俺たちは、注文を済ませてお茶を飲んでいた、すると……

「え……千早、その髪!?」
「あ…おかしいですか?ラーメン屋とか、こういうお店に入るときは、ロングヘアは隣のお客さんへの
迷惑になりますから、アップにしてるんですけど…」

千早のポニーテール。それは全くの不意打ちであり、簡素な服装だからこそ余計に、
彼女を女の子らしく見せた。
細い体に綺麗な黒髪。首元からのぞくうなじが、普段の彼女の印象をガラリと変える。

「なぁ、千早……今度、その髪型でステージに立ってみないか?」
「何を言ってるんですかプロデューサーは…こんな適当な髪型でファンの前に出るなんて、
イメージが下がってしまいますよ!」
「いや、そのりくつはおかしい。そもそもポニーテールが適当な髪型というのはだな…」

そのあとは、頼んだメニューを平らげながら、ずっと髪型について話をした。
俺はついエキサイトしてしまったが、千早も負けじと応戦した。
はっきりと分かりやすく楽しんでいたかは分からないが…良い思い出になってくれると良いな。

如月千早の注文:牛すき鍋定食(けんちん汁追加)、ごぼうサラダ。 



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