ある日の牛丼屋 -あずさ-

作:426

「プロデューサーさ〜ん、あの…そろそろ、お食事にしませんか〜?」
「あ、ええ…そうですね。今日はハプニングでロケ弁出なかったみたいだし」
「えーっと…それで、お願いがあるんですけどぉ…そこの牛丼屋さん、
一緒に入って欲しいんですよ。……ダメですか?」
「え!?いや、俺はかまいませんけど…いいんですか?ここで」
「実は〜、この前友美と電話で話したときに〜、友美の家の近くに出来た、
牛丼屋さんのお話になったんですよ〜」
「ふむふむ…で、友美さんに『あずさは絶対行っちゃダメ』とか言われました?」
「……どうして分かるんですか?プロデューサーさん、超能力者…」

話を聞いたわけじゃないけど…多分察するに、友美さんの気遣いなんだろうなぁ。
あずささんみたいな人は、牛丼屋のメイン客層である40代以上の男性に、多いに人気がある。
じろじろ見られたり、執拗にサインを頼まれたりするのは目に見えているから、
行ってはダメ、と言う事なんだろう。俺だってあずささん一人で入って欲しくは無い。

「まぁ…男くさい店ですから、あずささんには似合わないということですよね…。
でも、今日は客も少ないし、俺が一緒だから大丈夫です。行きましょうか」
「うふふ〜、プロデューサーさん、頼もしいですね♪オーディションの時も、
それくらい自信たっぷりだったらいいのに…」
「うぉ……あずささん、今の言葉地味に傷つきました」

店に入ってカウンターに座った俺たちだが、さすがに少ないとはいえ、
男性客は全員あずささんを見てるな……あと、店員も。

「あの〜、プロデューサーさん…この椅子なんですけど…」
「どうしました?……って、うおっ!?」
「普通に座ると、胸の辺りが窮屈で……カウンターに乗せてしまうのは、はしたないですよね…」
「ダメです、絶対ダメです!腰を引いてください、それなら座れるでしょう」
「ええ…何とか〜。あ、でも、バランスが悪くなって…あら、あらら…」

座ったまま後ろに倒れそうになるあずささんを、俺は咄嗟に後ろから支える。
うわぁ、オーバーリアクションであずささんの胸が揺れて…
おいおい、客どころか店員まで調理の手を止めてこっち見てるぞ。

「はぁ〜…さすがは男の人が行くようなお店ですね〜。椅子に座るところから、
レッスンが必要だとは思いませんでした〜」
(……いや、さすがにそんな女性はあずささんだけだと思うけど)

それから、俺は必要以上に周りを気にしながら飯を食うことになった。
少ない客と、店員にまでサインを頼まれるし…やっぱりここの客層には
人気あるんだよな、あずささん。
彼女は喜んでくれたから良かったけど、俺は飯を食った気がしなかった…
ともみさんが、絶対ダメ!と言った気持ちが良く分かったような気がする。

三浦あずさの注文:炭火焼き鳥丼並、ポテトサラダ(ダイエット中につき) 



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