本当の気持ち

作:龍牙

「あれ?もう朝なの・・・・・」
窓から差し込む朝日で春香は目を覚ます、どうやらいつのまにか眠っていたらしい
昨晩開催されたあずさとのデュオ『マシュマろ〜む♪』の解散ライブの後
思い切ってプロデューサーに告白した春香ではあったのだが
はぐらかされるような答えを返されただけで本当のことは聞けなかった
そしてどうしても我慢できずメールを送ってみたのだが返信はない
「結局プロデューサーさん返事くれなかったんだ・・・」
その真意がわからず思い悩む春香、その顔にいつもの笑顔はない
最初はこの気持ちが何なのか解らず困惑する春香だったが
それが恋だと気づくのは学校での何気ない雑談の最中のことで
親友から好きな人でもできたんじゃないかと言われたのがきっかけだった
アイドルとしての運命を走り出した自分をいつも傍で支えて
くじけそうなときや辛いときいつも励ましてくれた彼の存在
それがいつのまにか春香に恋心を芽生えさせていたのだ
「私これからどうすればいいんだろう・・・・・」
アイドルを続けたいという熱意とプロデューサーへの想い、その葛藤に苦悩する春香
すると突然携帯が鳴り出し我に返った春香は慌てて電話に出る
『もしもし春香ちゃん、あずさだけど今時間大丈夫?』
「はい大丈夫ですよ、どうしたんですかあずささん?」
電話の相手は相変わらずのゆったりテンポで話すあずさだった
『えっと音無さんから連絡があってね、今から事務所に来て欲しいって』
「そうですか、じゃぁ今から事務所に行きますね」
『ねぇ、なんだか元気ないみたいだけど昨日あの後何かあったの?』
「え!そ、そんなことないですって私はいつも通りですよ」
慌てて取り繕うとするもののあずさにはお見通しのようで
『隠さなくてもいいわよ、ずっといっしょに活動してき仲だもの
もし悩みとかあるなら私でよければ相談に乗るわよ』
「・・・・・・・はい、後で事務所でお話します」
そう言って電話を切ると母親に話して出かけ支度をしたのち家を出る
春香は道中の電車で本当のことを言うべきか考え込む
あずさも少なからずプロデューサーを気にしていたのは知っていたし
そんなあずさに嫉妬してしまっていた自分が幾度と無くあったからだ
その迷いを振り切れないままに事務所へと到着する
中に入ると丁度あずさも到着したところだったらしく2人は会議室へと赴く 


席について待っているとあずさが何気なくさっきのことを聞いてくる
「ねぇ春香ちゃん、もしかしてプロデューサーさんに告白したの?」
図星なだけに返答ができず顔を真っ赤にしてうつむいてしまう春香
「多分その分だといい返事はもらえなかったみたいね」
「何も言ってないのにどうしてそこまで解ったんですか?」
全てが本当なだけに驚きを隠すことができない
「ん〜、女の勘っていうのかしら。なんとなくそんな気がしたの
それに春香ちゃんが恋してるのは薄々感じていたし」
自分より年上なだけあってあずさがこういったところには鋭いと思った春香は
昨日あったことを全て話し、最後の方は泣きながら声を詰まらせていた
事情を察したあずさは春香をそっと優しく抱きしめると
「大丈夫、プロデューサーさんだって突然のことでうまく言えなかっただけよ
私だってプロデューサーさんと出会えたおかげで幸せを掴めたんだもの
だから春香ちゃんだって絶対想いが通じるはずよ」
「あずささんもしかして・・・・・・・」
「そう、運命の人にやっとめぐり合えたの。これも2人のおかげよ
だから今度は私が春香ちゃんを幸せにする番なの」
そんなあずさの優しさに触れ、子供のように泣きじゃくる春香
「春香ちゃんは先に公園で待ってて、私がプロデューサーさんと話をするから」
無言でうなづくと春香は事務所を後にして公園へと向かった 


入れ替わるように来たプロデューサーにあずさは単刀直入に問いただす
「プロデューサーさんは春香ちゃんのことどう思ってるんですか」
普段のあずさからは感じられない強い態度に驚く彼だったが
「思うも何も春香のためにはこうするしかないんですよ・・・」
悟りとも諦めとも見て取れる煮え切らない態度のプロデューサーに対し
あずさは怒りをあらわにして詰寄り激しく言い放つ
「逃げるんですか!それじゃぁ春香ちゃんの気持ちはどうなるんです!
確かにこの世界は吉永さんみたいにいいことを書いてくれる方ばかりではないです
他人の不幸を漁って売り物にしているような人がいることだって
ずっとアイドルとして活動してきた私にだって痛いくらいわかります」
あずさは涙目になりながらプロデューサーに必死に訴える
そんなあずさの態度に彼もついに本音を漏らす
「正直怖いんです、もう春香はトップクラスのアイドルなんですよ?
もし・・・もし自分といることでその輝きに傷がついたりしたらと思うと
どうしても受け入れてやることができなかったんです・・・・・」
そう、彼にとっても春香の告白を断るのは苦渋の選択だったのだ
春香を大事に想うが故の辛い決断をプロデューサーはしていた
だがあずさから見ればそれはただ現実から逃げているだけに過ぎず
半分泣きながらさらにプロデューサーに訴える
「なんでそんなに弱気になるんですか!らしくないですよ!
今までだってずっと私たちを守ってくれたじゃないですか!!」
彼ははっとする、今までも危機や困難は無数にあった
それでもずっと3人で力を合わせて乗り越えてきていたのだ
「私は・・・私はプロデューサーさんのおかげで幸せをつかめました
だから今度は春香ちゃんを幸せにしてあげてください・・・・」
あずさは自分が運命の人に出会いアイドルを引退し1人の女に戻ることを告白
その事実を聞きプロデューサーもやっと自分の気持ちに整理がついたらしく
「すいませんあずささん、俺間違ってましたよ。やっと気づきました」
もうその目に迷いはなく覚悟を秘めた強い意志を湛えている
「はい、春香ちゃんは公園にいるはずですからすぐに行ってあげてください」
しかし公園と一口に言ってもそれがどこなのかははっきりしていなかった
だがプロデューサーはとある公園に向かってまっすぐ歩を進めていく 


彼が向かった公園・・・、そこは春香と出合った場所だった
そして最初と同じ場所で同じように春香は発声練習をしている
「春香!やっぱりここにいたんだな・・・」
春香は無言のまま背を向けじっと立ち尽くしている
「あずささんに言われて気づいたよ、俺が間違ってたって
俺は・・・俺はずっと春香の傍にいて守り続ける」
不器用な告白だったが彼なり本当の気持ちを春香にぶつけた
「・・・・本当にずっと傍に置いてくれますか?」
そっと振り返りながら春香は聞き返す
「あぁ、約束する。もう絶対に離れないし離さない、ずっといっしょだ」
彼がはっきりそう言うと春香は泣きながら抱きつく
プロデューサーは嬉しさで泣きじゃくる春香をそっと抱きしめ
自分の全てを賭けて春香を一生護りぬく決意を新たにする

数ヵ月後郊外の小さな教会であずさの挙式が執り行われていた
そこには春香やプロデューサーを始めとした765プロの仲間たちも駆けつけ
皆で新たな道を歩き出したあずさを祝福するのだった
そして最後のブーケトスは偶然にも春香のところへ舞い降りた
受け取った春香が見つめる先には運命を共にすることを誓い合った人がいる
仲間たちに冷やかされながらも嬉しそうな春香とプロデューサー
願わくばこの幸せが永遠に続かんことを切に祈るばかりである 



上へ

inserted by FC2 system