作:春香スレのあの人
登場人物:
AALIYAH:プロデューサーその1、口は悪いがそれなりの手腕を持つ。
ウルトラ短気で子供っぽい性格ゆえに047と度々意見がかち合う。
亜美真美や春香と仲の良い19歳。
047:プロデューサーその2、AALIYAHの後輩に当たる。
礼儀正しいく、節制を弁えるが、AALIYAHにケチ臭いとよく言われる。
それ故かやよいっちや律子と仲が良い。18歳
「…ッ、クソ…」
廊下を一気に駆け抜け、突き当たりの分岐点で脚を踏み込み、左へ急ターンして再びダッシュする。
『プロデューサー、どこだー!』
『あっちへ行ったようね!追うわよ!』
慌てて非常用通路の中に隠れると、二つの足音が近付き、徐々に遠ざかっていく。
最も近付かれた時に冷や汗が吹き出し、シャツが皮膚に貼りついた。
「…やり過ごせたか…?」
恐る恐る扉を開けて、通路の様子を伺う。
誰も居ない事を確認し、移動しようと扉の陰から出たその時だった。
----あ。
どうやら先の二人に気を取られすぎた結果、遅れてきた春香の足音を捉えられなかったらしい。
目の前に居るこめかみ辺りにリボンを付けた少女…春香の両手には「無数の丸い玉のような物」が握られていた。
「げっ、相棒…」
『律子さーん、居ましたよ!』
『でかした春香!今からそっちへ行くわ!』
「じょ、冗談じゃ…!」
春香の横をすり抜け、一気に走り出す。
フラック・ジャケットの背中に「何か」が当たったが、気にしている暇もなく、
次の隠れ場所を求めて突っ走った。
----ああ、くそ、何でこんな目に遭わなきゃならんのだ。
後ろから飛んでくる物体を避けながら、
彼は何故自分がこうも追い掛け回される羽目になったかを思い返していた。
事の顛末は2時間前に遡る。
『あー、君たち、悪いがこの籤を引いてくれないかね?』
そう言ってプロデューサー「AALIYAH」ともう一人のプロデューサー、「047」に箱を差し出してきたのは、
彼ら二人の上司……高木社長だった。
「何だこりゃ、何か賞品でもくれんのか?」
言われるままに二人は箱に手を突っ込んで、中の紙を取り出す。
『外れですね……』
「おっ、当たりじゃねぇか。で、何かくれるんだろ?」
AALIYAHが開いた紙には、紅い字で「当たり」と書かれていた。
『ふむ……では、君が鬼か』
「はぁ?」
訳が分からず呆然とするAALIYAHだが、隣に立っていた047の目線の先を見て、彼は凍り付いた。
その瞳には、カレンダーの2月3日という文字が映っていた。
「……おい、まさかとは思うが……つまりはそういう事、か?」
手入れされていない機械のような音でも出しそうな勢いで社長の方へ向き直る。
『おお、流石に察しがいいな。小鳥君、例のものを』
『はい、ただいま♪』
そう言って手渡されたのは、この時期ならどこにでも売ってそうな鬼の面だった。
ああ、嫌な予感を地で行くこの展開。
『豆まきは1時間半後から、地下のフィールドで行われる。
幾ら豆とは言え、それなりに痛いだろうから、フラック・ジャケットを着ていっても構わんよ。』
「…フィールド?何であそこで?まぁいいや。さっさと終わらせちまおう。」
AALIYAHはくるりと踵を返すと、猛ダッシュで社長室から飛び出していった。
『……相変わらずせっかちだね、彼は。まだ言ってないことがあると言うに。』
『と、言いますと?』
『まぁ、その時になれば分かるだろう。君も用意してくれたまえ。』
----このような極めて理不尽な理由によって、俺は本社ビル地下のフィールドを追い回される羽目になった。
本来は、アイドル候補生たちにトレーニングルームとして使用されていたスペースだが、
今ではそこらじゅうに発泡スチロールやダンボールで作られた柱が立ち並び、
この一方的なサバイバルゲーム用のフィールドとなっていた。
ルールは、最下層の地下5階から、
ゴール地点の地下1階のエレベーターホールまで辿り着くという、簡単なものだった。
が、何時もとは違い、通路の各所が塞がれてる上、地下階同士を繋ぐエレベーターは機能していない。
おまけに---
『あふぅ、見つけたの!』
『『兄ちゃん発見!撃て撃てー!』』
「うわっ!」
パスパスパスパスッ
反射的に後ろへ飛び退くと、1秒前に俺が居た場所を、美希の持ったハンドガンから打ち出された豆が貫いた。
どうも社長はアイドルたちに「豆発砲専用のエアガン」を持たせたらしい…
大方「ただの豆まきではつまらない」等とでも思ったんだろう。
こんな物を作る余裕があるなら、少しは俺の給料を増やしてもらいたいところだが。
「くっそぅ、これでも食らえ!コンボラッ!」
掛け声と共に、物陰から美希の居た方向へ「すもーくちーず」と書かれた箱を投げ付ける。
炸裂音と共に煙が広がり、3人のむせる声が聞こえてくる。
『あふぅ……酷いよぉ』
「今のうちだ…よし、次の階へ!」
咳き込む彼女たちの前を横切ると、地下2階に続く階段を駆け上る。
「…何だこりゃ。」
地下2階は球技用に作られていたため、天井がかなり高く、他の階の2倍は軽くある。
柱も殆ど無かったはずなのだが…目の前にはガムテープでつなぎ合わされた発泡スチロールの迷路が広がっていた。
-----また七面倒くさい事を…
適当に白い迷路を進んで行き、袋小路に当たったその時、
左の壁に紅い点が一瞬だけ映った。
「!?」
咄嗟に伏せると、光点の位置に2発の豆が飛来し、壁にめり込んだ。
「047か!?」
『ええ、よく分かりましたね?』
迷路の上の方の足場には、スナイパーライフル(PSG-1)を構えた同僚の姿があった。
『余り豆を無駄撃ちするとやよいっちが悲しみますから、これでやらせてもらいます』
「ケッ、相変わらずケチくせぇ奴だぜ」
『おやおや、自分の悪口なんて言ってる暇があるんですか?さっきから聞こえてるでしょう?』
047の言う通り、妙な音が迷路に入った直後から聞こえていた。
今、その音は後方から聞こえるが、振り返っても人の姿は無かった。
「…誰も居ない…?…何だ!?」
突如、自分が通ってきた通路の側壁がバラバラに吹き飛んだ。
そして砕け散った発泡スチロールの穴からは、
「この状況下では最も居て欲しく無かった奴」が出てきた。
「……ょぅ、伊織……」
765プロのじゃじゃ馬、もとい「21世紀最強最悪の暴君」がそこに居た。
その両手には、箱型豆マガジンを付けたミニミ軽機関銃が握られている。
『くらえーっ!』
「じょ、冗談じゃ…!?」
猛烈な勢いで撃ち出される豆が身体にぶち当たる。
これだけの連射力で撃たれると幾ら豆でも洒落にならない。
「ちっくしょー、社長め、よりによって一番厄介な奴に一番強力な奴を持たせやがったな!」
美希と春香、雪歩とやよいは豆ハンドガン(GLOCK17)、亜美と真美が豆サブマシンガン(MAC M11)、
律子とあずさが豆ショットガン(SPAS12)、千早と真が豆カービン(M4A1)で、
流石に軽機担いでくる奴は居ないだろうと思っていたらこれだ。
社長が狙って持たせたとしか思えない。
「…どうしようもねぇ事務所だな、ここは。」
行き止まりの壁を体当たりで破壊し、反対側へ抜ける。
兎にも角にも距離を取らなければ連続ヒットで大ダメージ確定は避けられない。
『逃げるなーっ!』
後ろから豆の乱射が迫る。つーか多分絶対コイツは豆まきを勘違いしている。
どうせ社長や亜美真美辺りに「豆まきってね→、鬼を豆で追っ払うんだよ→」的なことを言われたに違いない。
「のんびりハワイでプールに漬かってりゃよかったものを……」
何でも全力全開なのは結構な事だが、こんな時に限って全力全開を出してくれなくてもいいのだが。
というか、フラックジャケットでカバーしてない部位に当たる豆が痛い。
まだゴールまでは距離がある。あと50分は走りっ放しになるのだろう。
大方地下4階で振り切った雪歩、あずささん、千早、真辺りも地下1階に先回りしているに違いない…
後ろからは軽機担いだ蹂躙兵器(伊織)が迫ってくるし…
『『兄ちゃん見っつけ→!』』
「馬鹿な、再生(立ち直るの)が早過ぎる!?」
どこかで聞いたことのあるような台詞を叫ぶと、
前方から壁をぶち破ってきた亜美真美の豆を、これまた横の壁をぶち破った際に出た破片で受け止める。
そして相手の豆が尽きた事を確認すると、今度は「FLICKER」と書かれた筒を放り投げる。
「おんみょうだんを(以下略」
『『うぉっ、まぶしっ』』
閃光弾(勿論威力は減らしてあるが)で二人が足を止めている隙に、
壁に空けた穴を抜けて再び走り出す。
現役アイドルとそのプロデューサーの逃走劇は、その後70分に渡り続いた。
----そうして1時間半後
『いやぁ、AALIYAH君、ご苦労だった』
「ああちくしょう、もう二度と俺はゴメンだぞこんなの」
『もうバテたの?……情けないわねぇ……私はまだ動けるわよ……』
「息上がってる奴が良く言うぜ……素直にグロッキーだと言ったらどうだ?」
何とか豆を被弾しつつもゴールまで辿り着けた俺は、
社長室のソファにもたれかかっていた。
その隣では伊織がこれまた汗だくで倒れている。
やはりミニミを担いで走り回るのは彼女には荷が重かったらしい。
『お疲れ様でした』
「ああ、047、今度はテメェがやれ、どうせ殺しても死なない程頑強なんだから」
『…おっしゃる意味がよく分かりませんが?』
「サウスパークのケニー並みに強いだろお前、大丈夫だ、伊織が実家からデイビークロケットでも持ち出さない限り死にやしねぇ」
『何て人聞きの悪い事を…私はいたってノーマルですよ?』
047にかけたカマも何時も通り無駄に終わり、再び身をソファに埋めようとすると、
春香が何かを持ってきた。
『プロデューサーさん、炒り豆、出来ましたよ♪』
「ん、ああ、サンキュー…えっと、確か俺19個だったよな…ほれ亜美、真美、お前らは12個だろ」
『『え→、兄ちゃんだけずるい→、亜美(真美)も19個欲しい→』』
亜美と真美が俺の足元に張り付いてくる。
全くこの二人のバイタリティには恐れ入る。あれだけ俺を追跡しておいてまだ動けるのか。
「やかましい、年の数だけ食わねぇと意味が無いんだよ……まぁいいや、その通りにしなくちゃいけないわけでもない。ほれ。」
『『わ→い!兄ちゃんありがと!』』
----年の数?
大喜びして飛びつく双子をよそに、気になっていた事が一つあった。
社長と小鳥さんの年齢である。特に社長の方は年がら年中真っ黒なせいで、
自分の上司であるにも拘らず、未だにどんな顔なのかすら分からない。
「そう言えば社長、随分と食ってるが、数えてるのか?小鳥さんも」
『……ギクッ』
一瞬だが、豆を食っていた二人の手が硬直した。
『ああ、私か?数えてないな。適当に食べとるよ』
『わ、私もよ…』
ここでもう一度突っついてみる事にした。
「いや、俺が聞きたいのは幾つかって事で…」
『あー、さて、来週のレイレナード社との共同プロジェクトのことなんだが……』
----こいつ、明らかに話題を逸らしやがった!
「待て、ごまかすな。一体幾つだ」
『本社エグザウィルの特設…』
「おいコラ、答え…」
『照明用にエーレンベルクのレーザーを…』
この後、AALIYAHは1時間近くも無駄に食い下がったが、結局社長の年齢を聞きだすには到らなかった。
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