あるPの日記

作:名無し

○月○日 衝撃的な出会い

 春香のドームお別れコンサートから、1ヶ月。
 社長から『次のプロデュースも期待しているよ』とメールを貰っていたことを思い出し、
久しぶりに事務所へ顔を出す。
 もちろん用件は新しいユニットのプロデュースだ。
 しかし俺はメンバーを選ぶところで、無意識にまた春香を選んでいる。
 これじゃ春香のことを笑えないな。
 全く同じ形でプロデュースするのも芸が無いし、誰かとユニットを組ませないといけないか。
 春香とあまり個性がダブらないような子は……おや、この子は?
「おお、星井美希君を選んだか。彼女はうちの期待の新星で、ルックスも抜群の世紀の逸材!」
 なるほど。じゃあ、その世紀の逸材を育てるために、先輩として春香にもいろいろサポート
してもらうかな。
「と、思っていたんだがなぁ。はぁー」
 おや?
「なにを落ち込んでいるんですか?」
「会えばわかる。もう一人は、……聞くまでも無いな。天海君だね?」
 ……完全に読まれてるな。
「天海君はお別れコンサートの後も、毎週欠かさず、ずっと事務所に来ているよ。小鳥君、
天海君を呼んでくれたまえ」
 社長が内線で話し終わり受話器を置くや否や、廊下を走ってくるバタバタという足音が聞こ
えてドアが開いた。
「社長さん、何か用事があると……。あ、……プロデューサーさん!」
 春香の目が丸くなる。そして全力で走り出す。
 お、おい、こんなところで走ったら危な……。あ。
「きゃあっ!」
 派手に転ぶ春香。……相変わらずだな。
「あいたた……ごめんなさい」
 手を貸して起き上がらせる俺に、春香が照れくさそうに笑顔を見せる。
「初めまして……じゃないよな。今日から俺が担当プロデューサーだ。またよろしくな」
「プロデューサー?」
 真剣に首を傾げる春香。少し不安になった俺に、春香は慌てだす。
「うわ、わ、わわわわ私どうしよう〜。せっかくまたプロデューサーさんが選んでくれたのに、
思いっきり恥ずかしいところ、見られて……!」
「気にすることないよ。これからよろしくな」
「は、はい!こちらこそ。相変わらずドジでおっちょこちょいですけど、がんばります!」
 春香から社長に目を向けると、社長は妙な顔で笑いをかみ殺していた。
「言いたいことがあるなら、伺いたいのですが。社長」
「おほん。いや、おお、じゃあ、あとは星井美希君だな。美希君は、この近くにある公園に
居ると思うよ。迎えに行ってきてくれるかね?」
「はい!それじゃ、春香は……」
「私も行きます。新しい人にも、早く会ってみたいし」
 えへへ、と笑いながら付いてくる春香と、思い出話に花が咲いた。
 しかし公園に着いても、それらしい子は見当たらない。
「どこにいるんでしょうね?」
「さあ……とりあえず、あのベンチで一休みしようか」
「あ、はい!どうぞ、プロデューサーさん」
 先に腰掛けた春香が、隣を指差す。苦笑しながら春香と並んで座って、顔を上げた瞬間。

「ねえ、つめてくれる?ミキもそのベンチ、座りたいから」

 運命の出会いであった。 


○月△日 一人勝ち

 今日はオーディション。初戦に選ぶのはもちろん負け犬。
「でもこのオーディション、あんまり名前が良くないですよね」
 春香が苦笑いで言う。
 確かに「MAKE DOG」なんて番組に出演しても、自慢にはならないだろう。
受かった後のアイドル生命も、何となく不安になってくる。
 なにしろ合格しても負け犬、英語でゆったらルーザーだ。初戦でルーザー。初めから負け犬。
 春香の相方に選んだ美希も、不思議そうな顔で控え室に書かれている番組名の「MAKE DOG」を見ていた。
「これ変な番組だね」
 そして相づちを打つ春香を見ながら言う。
「犬、作るの?」
 なぜ春香を見ながら言う。
「つ、作らないよ。それに犬なんて、どうやったらできるの?」
「よくわかんない。ミキ、保健体育苦手だもん」
『1番の爆弾発言、キタねぇ!』
 おいダンス審査員、どこから湧いた。
「でも春香も大変だよねぇ。まだ若いのに」
「だから作らないって!」
 他にオーディションを受けるアイドルたちのプロデューサーが、皆前屈みになってるのは……いや、何も言うまい。
 美希の視線が俺の方へと向く。
 んー、と考え込んで、人差し指を立てた手を振る。
「作るの?」
「誰が作るか!」
「ひょっとして、犬なみ?」
『キャッ!私気に入っちゃったかも!』
 ……犬なみって何なんだ。それにビジュアル審査員。お前帰れ。
 他のアイドルたちの視線が、急に険しくなったのは気のせいだろうか。微かに俺から身を引いているようにも見える。
「プロデューサーさん。私、プロデューサーさんがどんな趣味でも、信じてますから」
 春香が優しい笑顔で何回も頷く。
 信じているならその「だいじょうぶ、私は全部わかってますから。
いろいろ大変でしょうけど、プロデューサーさん、がんばってくださいねっ!」という顔はやめてくれ。
『それでは、これからオーディションをはじめ……皆さん、何をしているんですか?』
 春香似の声のボーカル審査員の登場で、やっと場が治まる。
 やれやれ。これでようやく普通にオーディションが受けられるな。
「では、1番さん。今日の意気込みなんかを話して頂けますか?」
 よし、ここはこう……おい、美希?

「ミキ、犬の世話には自信があるの!」

 オーディション結果:☆30で合格 


○月□日 本当は今日はやってない

「つかれたの。……あふぅ」
「ありがとうございまし、た」
 低テンションのレッスン後の挨拶が、レッスン場にこだまする。 
 零細芸能プロダクションに集うアイドルの卵たちが、今日も徹夜明けのような疲れきった顔で、背を向けて走り去っていく。
 wktkを知らない心身を包むのは、赤と黄緑のジャージ。
 レッスンのノルマはサボらないように、追加レッスンは欠かさないように、真っ青なままレッスンするのがここでのたしなみ。 
 もちろん、レッスンをサボった上にノーマルでテンションを下げるなどといった、
はしたないスパイラルなど存在していようはずもない。 

 表現力レッスン場。
 2004年設立のこのレッスン場は、もとは「はげしくですね!」のためにつくられたという、伝統あるヴィジュアル育成場である。 
 色だけに面影を微かに残している箱○独自仕様で、パックマンに見守られ、
半人前アイドルからブレイクアイドルくらいまでは一極育成も可能なヴィジュアルの園。
 時代が移り変わり、プラットフォームがアケから箱○へ改まった今日でさえ、
レッスンし続ければ「かわいくですね」がテレ顔付きで出荷される、
という仕組みが未だに残ってはいるが「はげしくですね!」が消えたレッスンである。 

 「はげしく、ですね!」が無いと表現力やる気がしない……


△月○日 三日坊主突破で最終回

 昔、「リチャードの自転車ブック」という本を読んだ。
 そこにはこう書いてあった。
 『自動車と正面衝突しそうになったら、屋根をめがけてジャンプしろ。屋根にのってしまえば、轢断されるよりはる

かに助かる可能性は高い』

 仕事の帰り、俺は春香と美希と、三人で道を歩いていた。
 ランクDに上がって仕事が大変になったことでへばる美希を、春香が笑顔で元気づけている。
 意外といいコンビかもしれないな。
 不意に美希が立ち止まり、車道を眺めた。そのままふらふらと車道へ向けて歩き出す。
「危ない!」
 春香が悲鳴を上げた。眩いヘッドライトが美希に迫っていた。美希は茫然と立ち尽くしている。
 反射的に体が動く。うおォン!俺は戦う人間原子力発電所だ!レッツランニング!
 体を硬直させた美希を抱きすくめ、宙に舞う。
 無限のような時間の後、背中に衝撃を受ける。俺は……うまくやれたんだろうか。
「プロデューサーさん!美希!」
 春香が駆けてくる。
 そして転ぶ。
 膝をすりむいたようだが、構わず起きあがり、こちらへ走ってくる。
「プロデューサーさん、だいじょうぶですか!?」
「春香こそ……大丈夫なのか?」
 俺は倒れたまま、ぎゅっと目をつぶって身を固くしたままの美希を春香に預ける。
 美希にケガはなさそうだ。良かった……。
 春香の腕の中で、美希が恐る恐る目を開いた。その目が驚きに見開かれていく。
「なんで……なんで助けてくれたの!?」
「えっ?なんでって……」
 今度は春香が目を丸くする番だった。
「た、助けたのは私じゃないよ。プロデューサーさんが……」
「ひどいケガ……今救急車が来るから!」
「これは、転んでひざをすりむいたけで……」
 気が動転している美希には、春香の声は聞こえていないようだった。
 遠くから救急車のサイレンが聞こえる。
 春香……美希。もう俺がプロデュースできることは無いかもしれないが、二人ならきっとうまくやれる。
 二人とも、しっかりな。


×月□日

 結局怪我は、ほどほどの打撲と骨折だけだった。
 2周目だったらかすり傷で済んだかもしれない、と医者は不思議な診断をした。
 すぐにでも退院したかったが、何かのご都合主義で俺は今日もベッドに縛り付けられている。
「プロデューサーさん、お見舞に来ました」
 昼過ぎに春香が久しぶりに訪ねてきた。
 春香は美希と二人だけで、アイドルを続けている。
『プロデューサーさんがびっくりするくらい、売れっ子になって待ってますから。だから……』
 あの日、春香は頬を染めてそう言った。
 春香の後ろから、美希が屈託の無い笑顔を俺に向けた。
「プロデューサー、元気?」
「ぼちぼちな」
「そうなんだ。ミキはハニーとがんばってるから、ゆっくり休んでていいよ」
 美希はにっこりとハニー……春香へ微笑みかける。
「ね、ねえ美希……そのハニーっての、やめない?」
 春香も微妙に引きつった笑顔だが、まんざらでもなさそうだ。
「だってハニーはハニーだもん。ミキの一番大切な人♪」
「わ、私は女だから……大切って言われても」
「性別なんて関係ないよ。ミキ、ハニーのためならなんでもするから、ずっと傍に居てね」
「性別が一番大事だよ〜。プロデューサーさん、早く元気になって助けてくださいー!」

 今日も765プロは平和でした。
 ちなみにオチは特に無い。 



上へ

inserted by FC2 system