世界で一番

作:410

7.新たな約束

俺は腹部に痛みを感じて目覚めた。腕には点滴のチューブが刺さり、周りには医療器具が。
なぜこんなところにいるんだ・・・ 俺は記憶をたどった。
 「俺は生きている・・・・・・ 美希に会える・・・」
モニタリングしていたのだろう、すぐに医師が看護婦を引き連れて、診察にやってきた。
 「よし、もう心配ない。あとは安静にしていれば大丈夫だよ」
 「ドクター、俺と一緒にいた女の娘は大丈夫ですか? 怪我していませんか?」
 「心配しなくていい、大丈夫だ。君は彼女に助けられたんだ。感謝するんだな。
  君は良い上司と素敵なガールフレンドがいて幸せだな。みんなを悲しませることはするなよ」
そう言い残して医師が出て行くのと入れ替わりに、美希と社長が病室に入ってきた。
 「君、だいじょうぶかね。あぁ、起き上がらなくてもいいぞ」
 「ハニー、ハニー!」
美希の手が俺の手をやさしく包んだ。
 「美希、怪我はないか?」
 「うん、ハニーが命がけで守ってくれたから・・・ 怖かったけどハニーがいてくれたから・・・
  ミキね、ハニーがいなくなったら、って考えただけでもう・・・・・・」
 「美希を残して死ぬわけにはいかないよ。約束もあったしな」
俺は美希にウインクした。
 「社長、ご心配をお掛けしました」
 「うむ。大変だったね。無理をせず、ゆっくり治してくれたまえ。
  美希君は君の事を心配して、ずっとこの病室の外で待っていたんだよ。
  私は先生と相談してくるからね。ちょっと失礼するよ」
社長が出て行き、病室は美希と俺の二人きりになった。
 「美希、俺は美希のおかげで助かったんだ。ありがとう・・・ 眠くないか?」
 「うん。少し眠っちゃったの。あのね、そのときにハニーの夢、見たんだよ」
 「俺も美希と一緒にいる夢を見たよ」
 「ホント?」
 「本当だよ。そうそう、美希、悲しい別れは体験できたか?」
 「うん、すごい悲しかったの。もうこんな胸が張り裂けそうな思いはしたくない」 


映画の役作りには有益だったかもしれない。もう俺が美希に教えることは無いな。
 「美希・・・・・・ 美希のために俺が手伝えること、まだあるかな?」
 「うん、あるよ。ハニーはずぅーっとミキの側にいて、ミキのことを見ていて欲しいの」
 「俺で良ければ、よろこんで」
今なら言えるかもしれない。
 「美希・・・ 俺は・・・ 世界でいちばん・・・ 美希のことを・・・・・・」
 「知ってるの。でも、言って欲しいの。最後まで聞かせて」
俺は一言ずつ、ゆっくりと言った。
 「俺は、世界でいちばん、美希のことを、愛している。これからも、ずっと・・・・・・」
 「うれしい・・・ ミキも、ハニーを世界でいちばん愛しています・・・・・・
  ねぇハニー、ミキにはよーく伝わったけど、ハニーは自分を表現するの、ヘタだよ。
  これからは、ミキがハニーに、愛する人への想いの伝えかた、教えてあげるからね」
 「美希・・・ 美希に伝わったなら、他の誰かに伝える必要はないだろ」
 「あっ、そっか。でも、いいの。ハニーの気持ちをもーっとミキだけに伝えてほしいの」
 「うぉっほん。ちょっといいかね」
 「うわぁ!」
 「社長、まだいたの?」
 「美希君、それはないだろう。邪魔してすまんが、ちょっと聞いてくれんか。
  いま先生に確認したところ、回復が順調ならば今月いっぱいで退院できるそうだ。
  全国のドーム縦断ツアーは12月からだから、それまで2人ともゆっくり休養してくれ。
  美希君は今回の映画出演決定により、世界的に注目を集める存在となった。
  人目につくと困るので、コンサートの準備が整うまでは、2人で隠れていてもらう。
  隠れ場所だが、タヒチにプライベートビーチを備えた会員制ホテルがある。
  じつは、私はそこの会員なんだ。そこならば人目も無く安心だ。
  ステイ費用は私が持つ。まあ、あれだ。私からのお祝いと思ってくれていい」
 「ありがとうございます」
 「社長さん、ありがとうなの」
 「頑張ってきた君たちへのご褒美だ。ゆっくり楽しんで来てくれたまえ」
タヒチの会員制ホテルか・・・ 社長には、まだ謎が多いな。
俺は順調に回復し、無事退院することができた。 


11月、タヒチ
俺は美希から毎日表現レッスンを受けている。
 「はい、ハニー、言って」
 「美希ちゃ〜ん、愛してるよ〜」
 「ふざけないで、もっと心を込めてー」
美希が書いたシナリオを見ると、
 『死ぬまで君を離さない、死んでも君を愛し続ける』
 『俺は君を幸せにするために生まれてきたんだ』
 『俺の子供を君に生んで欲しい』
なんだこりゃ。他にも口に出すのも恥ずかしい言葉が並んでいる。
俺はこっそりシナリオをゴミ箱に捨てた。
 「あれ、ハニー。ここにあったシナリオ知らない?」
 「さあ、知らないなぁ」
ゴメン、美希。

美希の16歳の誕生日前夜、美希が俺のベッドにもぐりこんできた。
 「ハニー、約束だよ。ミキをもらって・・・・・・」
まあ、その、なんだ、詳細は省く。
 「ねえハニー、ミキ、もう16歳だから結婚できるんだよ」
 「美希はお子ちゃまじゃないか。まだ早いよ」
 「む〜。じゃあ、世界でいちばんになったら、結婚してくれる? 約束ね」
 「よし、約束するよ・・・・・・ あのなー、いちばんになれなくても結婚してやるからな。無理するなよ」
 「うれしい、ハニー。でも二人一緒なら、絶対にいちばんになれると思うの。
  それまで、ずっとミキの側にいて、ミキだけを見ていてね」
 「わかってるって。ずっと一緒にいるよ」
 「うんっ、ミキ、とっても幸せ・・・・・・」
その夜は、美希を抱きしめたまま眠りについた。 


翌日、夕暮れのプライベートビーチには美希と俺の二人だけ。
あの夢が現実になった。
 「美希、世界でいちばんを目指して、頑張ろうな。
  まずはドームツアー、次に映画。それから・・・・・・」
小鳥さんからのメールには、国内外から映画やミュージカルのオファーが多数来ていることが記されていた。
 「うん、ハニー。ミキはハニーが一緒なら何でもできる気がするの。
  二人で一緒に、世界でいちばんになろうね・・・・・・ 約束わすれないでね」
 「忘れていないよ。俺はいつでも美希のそばにいるから」
 「ハニー・・・・・・」
二つの影が一つに重なった。

(完) 



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