20年

作:510

 ある日の昼下がり。
 ちょっとヤボ用で席を外してたのだが、デスクに戻ってくると、何故か真が俺の椅子に座っていた。
「真?」
「あ、プロデューサー! 済みません、勝手に座って」
「いや、昼休みだし、別に構わないさ。座ってていいよ」
 勢いよく立ち上がって席を譲ろうとした真を片手で制して、隣のデスクから椅子を拝借する。
「……へへ、済みません、プロデューサー」
 苦笑いして座りなおす真。ちょっと嬉しそうにも見えるのは、俺の気のせいか。
「あ、真、そのテープ」
 見れば、真は片手にカセットテープを持っていた。今朝俺が机に置いた奴だよな、これ。
「あ、はい。ちょっと見慣れないテープがあったもんで」
「ああ、うん、それな」

 ……話せばちょっと長くなる。
 親戚の叔父が引越しするとかで、家の中を整理したのだそうだ。
 そうしたら、昔の……それこそ学生時代からのガラクタが色々出てきたらしい。
 その処分をどうするかと言う話を聞いて、音楽関係の物があったら何か仕事に役立てられないかと思い、
カセットテープやLPレコードなどを譲ってもらったのだ。
 このカセットテープは、その中の一つだ。何でも、20年くらい前のアイドルグループのものらしい。
 ……思ったほど長くならなかった気がする。まあいいか。

「……それで、一応一本持ってきてみたって訳だ」
「へえ、ボクらが生まれる前のアイドルですか……ちょっと興味、あるかも」
 一通り説明してみると、真も興味を抱いたみたいだった。
「ああ、実は俺も興味半分でね。
 80年代って言うと、アイドルの最盛期だったって話も聞くし」
「それじゃプロデューサー、今から聴いてみません?」
「丁度いいな。じゃあちょっと、会議室に行こうか」
 打ち合わせでデモテープにカセットテープを使う事があるから、会議室にはカセットデッキが置かれている。
 取り敢えず今日は会議室の使用予定はないはずだから、ちょっと使わせてもらおう。

 善は急げとばかりに、俺たちは早速会議室に移動した。
「さて、テープを突っ込んで……と。
 A面のアタマからでいいかな」
「そうですね」
 巻き戻しを確認する。
「曲名とか、プロデューサーも判らないんですか?」
「ああ、ケースにもカセットテープにも書いてなかった。
 ……なんだかこういうのって、ちょっと楽しみじゃないか?」
「あー……へへ、ちょっとありますね、ドキドキしてさ」
 二人で顔を見合わせて、ニヤニヤ笑う。
 何かちょっと、照れくさかった。 



「……さて、巻き戻しが終わったみたいだな。
 再生……っと」
 再生ボタンを押して、二人で並んで椅子に座る。
「……ごくっ」
 何故か真が生唾を飲み込んだ。
 明るい調子の前奏が流れ出す。
 ……ああ、何度か懐メロ特番なんかで聴いた事がある。
当時人気絶頂だった、大人数のアイドルグループのデビュー曲だったはずだ。
「なんかHereWeGoみたいな前奏ですね」
「あー、言われてみれば」
 思ったより短い前奏を置いて、早速歌が始まる。
『せーえーらーふっくっをっ♪』
 そうそう、こんな歌詞だった。
『ぬーがーさーなっいっでっ♪』
「ぬ、脱がさ……」
 真はと言うと、最初のフレーズでもう顔を赤くしている。
「ああ、真……覚悟しとけ。この歌、この後こんなもんじゃないから」
「ええっ!?」

(参考として、歌詞の掲載されたURLを提示します。
 ttp://www.dab.hi-ho.ne.jp/~sawasaki/trchp/songs/010_w.htm
 内容をご確認いただければ幸いです)

 そして曲が終わって……俺はカセットデッキを停止させた。
「うーん……」
 俺は腕を組んで、椅子の背もたれに体重を預ける。
 ぎし、と椅子がなり、自然に俺の顔は真上を向く。
「そうか、20年前って結構、こういう歌詞が通用する時代だったんだなあ……」
 しみじみと呟く。いや、本当におおらかなものだ。
「そ、それにしても、これはかなり……その、何と言うか」
 真はと言うと、もう茹蛸みたいに真っ赤な顔だ。
 俺は椅子に座りなおして、真と向き合う。
「いやいや真、『エージェント』も結構、際どさじゃ負けてないと思うぞ?」
「そ、それにしたってここまでストレートじゃないですよ!
 え、エッチを……したい、とか、ば、バージ……って……」
 もごもごと口ごもる。
 ……まあなあ。思わず苦笑いが浮かんでしまう。
「でも確か、このグループって殆どの歌がこんな調子らしいぞ?」
「ええーっ!?」
 いや、聞いた話だから実際どうかよく判らないが。
 俺自身、生まれてるかどうかって時代だし。
「しかもこのグループって、大半が高校生とかだったらしいから、真と同年代だったはずだ」
「ええええーっ!?」
 俺の言葉にいちいち反応して真っ赤な顔で叫ぶ真。
 ……そんなある日の昼下がり。

「……あ、そうだ、今度『セーラー服』カバーしてみるか、765プロ総出で」
「勘弁して下さいよプロデューサーっ! 流石に恥ずかしすぎますっ!!」
 真っ赤な顔で懇願された。
 ……ちょっと可愛いかも知れない。

 ところで、関係のない話だが……うちの事務所的にはやっぱり、「スクールウェアを脱がさないで」になるのかな、この曲? 



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