乗換えをまちがえて

作:510

「おはようございます、プロデューサー」
「おはようございます」
 口々に挨拶する、わが765プロダクションのアイドル候補生二人。
 萩原雪歩と、秋月律子である。
「おはよう、二人とも。調子はどうだ?」
 俺も笑顔で挨拶を返し、雑談交じりに仕事の打ち合わせを始める。
 ……念の為言っておくが、この二人は別段ユニットを組んでいる訳ではない。
 俺が別個にプロデュースしている二人が、偶然同じタイミングで出社して来たので、
丁度良いのでまとめて朝のミーティングを始めた、というところだ。
 お互いの仕事内容を知る事で、よい刺激を与え合う事を狙っている部分もある
……と言えば聞こえもいいのだろうが、実際のところは単に俺が面倒だからである。
別に他メンバーやユニットのスケジュールや仕事内容をお互い知っていたところで、悪影響がある訳でもないし。

「……さて、雪歩。実は昨日、新曲の話が届いていてね」
 連絡事項がひと段落したところで、俺は机の引出しから一通の封筒を取り出す。書
類用の大型のものだ。
「本当ですか?」
「良かったじゃない、雪歩」
「はい、律子さん。
 ……あの、プロデューサー。どんな曲なんですか?」
「いや、実は俺も詳しくは知らないんだ。
 ただ、昔の曲のリバイバルだとは聞かされてるんだけどね」
 これがその曲のデモと楽譜だ、と封筒を雪歩に渡す。
「あ、ありがとうございます。……あの、早速開けてみていいですか?」
「勿論。俺もどんな曲なのか把握したいしね」
「私もちょっと気になるわね。ご相伴に預かってもいい?」
 表現に些か首を傾げないではないが……まあ、律子が同席する事は別に構わないか。
 いそいそと封筒を開けて中身を取り出す雪歩を、二人で見守る。 


「うーん……」
 ヘッドホンでデモを聴きながら、歌詞を見つめる雪歩。
 普段ちょっとオドオドしててすぐに落ち込んだりする子だが、こういうときは本当に真剣な顔になる。
 基本的にはとても真摯で、仕事に対してもとても熱心な子なのだ。
 一度腹を据えるとがらりと一変する、その真剣な表情には驚かされもするし、同時にとても頼もしくもある。
「……どうだ、雪歩?」
 俺が声をかけると、はい、とヘッドホンを外した。
「恋の歌……なんですね。
 結構自己中心的……と言うか、マイペースな男の子に振り回される女の子の歌、って言うか」
「気に入りそう?」
「はい、結構……可愛らしい歌ですから」
 律子の問いかけに、はにかんで頷く雪歩。
 何にせよ、気に入ったんなら良かった。いい収録が出来そうだ。

「……でも、ちょっと変わった歌詞ですよね。
 ゲームセンターとかって、あまりこういう歌には使われないと思うんですけど」
「……ん?」
 恋の歌。マイペースな男。そしてゲーセン。
 何か引っかかった。
「……雪歩。
 済まないが、曲名を教えてくれないか?」
「あ、はい、そう言えば見てもらってませんでしたよね。
 『恋のディグダグ』って曲なんですけど、ディグダグ……って何でs」
 ごごん。
 雪歩が最後まで言い終わる前に、俺と律子が同時にズッコケて机に突っ伏した。
「……なるほど、それで雪歩か」
「誰よ一体、こんなマニアックな選曲考えたのは……」
「……はい?」 


 この歌については、80年代の終わりごろにさかのぼる。
 当時から今も続くゲームメーカーの一つに、この当時、今以上に大きな力を持つメーカーがあった。
 そのメーカーから発売されていた人気ゲームのうち、幾つかのBGMを集めボーカルをつけてしまおう、
という企画物のCDが発売された事があったのだ。
 これはその中の一曲で……まあなんだ、今更説明の必要があるのかどうか解らない程に有名なゲームなのだが、
穴を掘り進み、地底に巣食う怪獣を退治するゲームが出典だ。
最近になってもこのシリーズは続いてるし、登場人物は別のやっぱり地中を掘り進むゲームでも、
主人公の父親とか雑魚キャラとかで出演を続けている。
 その人気は現在でも根強く……最近アイドル用として、うちの事務所に届いた衣装の幾つかに、
このゲームキャラのコスプレ衣装が混じっていたりするのだが……まあ深くは言うまい。
 ちなみにシリーズ最新作の某2画面の携帯機で、この歌の原曲のアレンジ版を聴けたりするが、この際取り敢えずどうでもいい話だ。
 まあ、その、なんだ。
 雪歩に回ってきた、と言うのは……やはり先日の、「穴掘り名人芸能人ランキング」とか言う
意味不明のランキングに初登場第2位の快挙(?)を成し遂げてしまったのが大きいのだろう。
本人とか事務所とかの意思とは比較的無関係に、こういうキャラとして位置づけされつつあるような気がしてならない。
いや、評価が上がってる事自体は嬉しいのだが。

 ……嫌な予感をヒシヒシと感じさせつつも歌の概略を雪歩に説明すると、
「……や、やっぱり私は穴掘って埋まってる方がお似合いだって事なんですねっ!
 お望みどおり掘ります埋まります、ドリルで掘り進みますぅ〜っ!」
 例によって穴を掘り始めた。右腕に何故か装着されたドリルで。
「うわああ待て待て待て待て、落ち着け雪歩!!」
「回らないから! ドリルアームはあくまで飾り物で回らないから!!」
 二人がかりで説得する羽目になった。どうしてくれる。

 ちなみに歌そのものは本当に結構気に入っていたらしく、宥めすかしてしまえば後はトントン拍子に話が進み、無事にレコーディング

まで終えることが出来た。
「って言うかプロデューサー、この手の歌は普通私に回って来ません?」
「まあオタク向けって意味では、確かにお前の方が適任なのかも知れないが……だったら律子、
『ちょっとマッピー男の子』あたり歌ってみるか?」
「……なんでそういう微妙なところを突いてくるのよ」
「『ワンダーモモ』辺りの方が良かったか?」
「……いえ、あれは最近歌った人いますし」
 歌詞は別物らしいけどな。 



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