青き空と音無

作:名無し

2013年 OBC報道局(注1)

 「何かいい企画は無いのか?」
 いつもの口癖と腹にたまった贅肉を携え彼の上司がやってきた。
 「無いことは無いですが・・・」
 彼、フランクリン・ジェームスはやる気の無い声で返事をした。
書類やマグカップ、予算申請書のコピーで散らかった机から一枚の紙切れを取り出し
上司向かってこう言った。
 「どうです?戦争もの。またあのときのように高視聴率狙えますよ。」
 高視聴率という言葉に上司は反応した。そして上司はフランクから紙切れを奪い取り
黙って読み始めた。数分後視線を書類からフランクに移した上司は企画のゴーサインを出した。
そして上司はかつてのベルカ戦争のドキュメントのような視聴率を期待するといって贅肉を
震わせながら笑い戻った。
 「やれやれだ・・・」
 ダミーで用意した企画がこうも簡単に通るとは思わなかったフランクは大きなため息をついた。
 「大陸戦争・・・BLUE SKIES・・・アイドル・・・」(注2)
 フランクは軽くつぶやいた後再び大きなため息をついた。

注1・・・オーシアにあるテレビ局
注2・・・ISAFとエルジアのユージア大陸での全面戦争、かろうじてISAFの勝利に終わる 


2013年 オーレッド、喫茶Engage!

 「っで何が知りたい?」
 客のいない喫茶店で中年男の声が響いた。時刻は午後3時。まったく客がいない。
デイリィーオーレッド、オーレッドで発行されているタブロイド誌でありスポーツの結果から
芸能人のゴシップといったいわゆる大衆紙を地で行く新聞社である。
この中年男はそこの芸能記者、普段は女優のスキャンダルや俳優の下半身を追っていた。
 「大陸戦争の終戦記念式典で歌われた”BLUE SKIES”を歌った人間を探している。」
 手元コーヒーをはまったく手をつけず正面を見てフランクは言った。
 一時の沈黙の後デイリィーオーレッドの記者はつぶやいた。
 「それは知らない、というか分からないんだ」
 「分からない?どういうことだ?」
 フランクは疑念から少し声を荒げた。
 「まあ落ち着けフランク、それがマジで分からないんだよ。俺たち芸能記者の間でも
それは本当に謎なんだよ」
 記者はフランクをいさめるようにやさしく言った。
 「何かヒントは無いのか?名前とか、噂の範疇でかまわん。」
 フランクは疑念の表情から再び探求者の表情に戻し追質問をした。
 「ヒントねえ・・・2つだな。ひとつは歌ったのは異国の人間名前は・・・そうだ
オトナシとか言ったかな、もうひとつは俺の知り合いにあんたと同じことやっている人間がいる。
奴に聞いたほうがいいだろ。」
 「分かったありがとう。」
 フランクはそういうと薄い茶封筒を渡した。もちろん彼がせしめた取材費の中から賄われたものだ。 


2013年ユージア

 「何年ぶりだ?」
 ユージアの空港に降り立ったフランクの第一声は間抜けなものだった。
お世辞にも記者には見えないその格好はまるで観光客にしか見えなかった。
しかし彼は観光客ではない。現に観光地に行くでもなく彼はビジネス街に向かっていった。

 「俺がユージアナウのパク・ソンウだ。あんたか?オトナシを探しているのは?またなんで?」
 会って早々パクは矢継ぎ早に質問をした。
 「ああ、フランクリン・ジェームスだ、よろしく頼む。」
 「っでなんでなんだ?」
 フランクの自己紹介をさえぎるようにパクは再び質問を繰り返した。
 「あの戦争での戦争神経症患者が少ないのは知っているだろう。その少ないって原因が
”BLUE SKIES”にあるという研究結果を主張している学者がいてね。それで歌っている人間に
興味を持ったって次第だ。しかしここまで謎の存在とは・・・」
 「そうだ、彼女、”オトナシ”は謎の存在だ。その”オトナシ”って名前もどこから
出てきたかは分からん。」
 パクはあさっての方向を向きつぶやいた。
 「とにかく取材か・・・当時の軍人あたりからあたるしかないだろ。」
 「了解だ、あぁフランク、その代わり取材費は約束どおりあんたもちだからな。
 こうしてフランクとパクは謎の歌手”オトナシ”の捜索を始めることとなった・・・。 


2013年ユージア

ケース1 ISAF陸軍第27師団所属 ジョン・ロッキード上等兵

 「今の生活には満足しているよ。」
 ジョン・ロッキードは広大な農場でそう言った。
巨大な農場の管理を任されている彼はかつて陸軍の兵士として多くの激戦で
戦い続けた歴戦の勇者であった。メダルも幾つかもらっていたがその激戦の数と
比例するように失った戦友の数、そして失った”心”を多く持っているということは
疑問の余地が無かった。
 「そりゃな、戦争が終わったときは強烈な虚無感に包まれたさ。これで戦わずに済む。
そう思えたけど失ったものが多すぎたよ。」
 青い空を仰ぎながらジョンは呟いた。空には鳥たちの舞い戦争の面影などどこにも
残っていない。
 「ではなぜあなたのような兵士が戦争神経症に苦しまなかったのですか?」
 フランクは単刀直入に疑問をぶつけた。
 「分からん。だが、ファーバンティーで聴いたあの歌は間違いなく俺に何らかの
影響を与えたと思うよ。えっとなんだったかな・・・。」
 「”BLUE SKIES”だ。」
 パクは早くその続きが聞きたくジョンの記憶の検索作業を強制的に終了させた。
 「そうだそれだよ。歌っていたのは誰だっけなあ・・・。噂じゃ遠い国の誰も知らない
歌姫とか戦争の生み出した幽霊とか兵士の殺した未亡人とか言ってたな。彼女のほかの歌
も知りたかったんだが。」
 ジョンは昔を懐かしむように言った。
 「そのことを知りたかったんだが・・・しかし何で歌で戦争に向き合い続けた自分が
変わったんだ?」
 フランクの疑問が続く。
 「さぁ?ただあの歌を聴いたとき、あぁ戦争は終わったんだ、と思ったわけだ。」
 「そうか・・・ありがとう」
 「記者さんよ、まあがんばって捜しなよ。役に立たなくてすまんな。」
 落胆の声を隠そうとフランクは努力をしたがうまくいかなかったようだった。 

 「戦争からの解放・・・予想以上に凄かったみたいだな。」
 フランクは助手席でホットドックをむさぼりながら呟いた。
 「そうみたいだな。あの歌を聴いた軍人に同じ質問をぶつけてもおそらく同じような
答えが返ってくるのが関の山だな。あと二人ほど対象者がいるがどうする?
特に一人は大物だ。」
 「もちろん取材はするさ。ユージアまできて手ぶらで帰ったら何言われるかわからん。」
 「分かった。じゃあエルジアに行くぞ。」
 パクはレンタカーのアクセルを思いっきりふみハイウェーを空港に向かって走り始めた。 


2013年ユージア

ケース2 エルジア陸軍首都防衛隊高射砲部隊所属 ジョッシュ・ブローニング中尉

 「戦争のことはもう勘弁してくれ。」
 中年のころの差し掛かったジョッシュ元中尉は覇気の無い声でフランクたちに言った。
ジョッシュ中尉は首都防衛部隊というエリート部隊にいた。絶対に実戦の無い部隊といわれたが
実際には戦争の終盤彼は戦っている。迫りくるISAF空軍部隊に対し対空戦闘を挑んだ男だ。
結果は歴史が語っているが彼を攻めるものは誰一人としていない。
 「俺たちは戦争、というか終戦後の話をしているんだ。終戦記念式典を覚えているか?」
 フランクは少しでも話しに興味を持ってもらえるように戦争から話題をそらそうとした。
 「終戦記念式典?あぁ祖国を蹂躙された記念式典か。」
 吐き捨てるようにジョッシュは呟いた。相変わらず覇気の無い声だがその声には
憎悪のようなものが感じられた。
 「祖国が蹂躙されたとか知らんがそこで歌われた歌について俺たちは調べている。」
 パクが何とか本題に戻そうと努力する一言を投げかけた。
 「っで何が知りたい。」
 ジョッシュは本題に戻すように呟いた。
 「その歌を歌った人間を探している。エルジアにいたあなたなら分かるかもしれないと思い
・・・。」
 「”オトナシ”のことか・・・。私も詳しくは知らないが。」
 フランクの疑問をさえぎりジョッシュは言った。
 「何を知っている?知っている限りのことを教えてくれないか?」
 フランクの言葉が気持ち上擦っていた。
 「詳しいことは知らんが・・・”オトナシ”とい女が歌ったてこと、そして彼女は遠い
島国の人間であるということだ。それぐらいだな。」
 ジョッシュは昔を懐かしむように呟いた。
 「島国?やはり外国人か。それ以外には?」
 パクが質問を続けた。
 「それ以外は知らない。私はあの式典には傍観者であったから。幹部連中なら知っている
かもしれん。」
 ジョッシュの回答はそこまでであった。

 「エルジアの幹部か・・・心当たりは?」
 フランクは謎の解明がもう目の前に来ているということをなんとなく感じていた。
 「それならいい話がある。この後取材する相手は現役エルジア軍の将軍だ。
戦争中は非主流派だったがな。そのおかげで戦犯訴追から逃れ今もエルジア軍に在籍
できている人間だ。」
 「それは期待できるな・・・。ファーバンティーの空を仰ぎながらフランクは呟いた。 


2013年ユージア

ケース3 エルジア陸軍 ミハエル・ジューコフ少将

 「ああしている”音無”のことだろう。」
 ミハエルは疑問の確信である”音無”についてついに語った。
 「誰なんでしょうか?その音無という方は。」
 フランクは丁寧に言葉を選びながら疑問を続けた。
 「彼女は遠い島国の歌姫だった。詳しいことはまったくといって知らないがね。」
 「ではなぜそのようなものが終戦記念式典で歌を歌ったのでしょうか?」
 パクも言葉を選びながら言った。
 「あのときはすべてが混乱していた。とにかく一刻も早く式典を執り行わなければ
ならなかった。そのときあの歌とともにあの男と音無が我々の元に現れたんだよ。」
 フランクは次々変化していく状況に冷静に頭を回転させて次の疑問をぶつける準備を
していた。
 「その男とは?」
 「確か高木とかいったな。素性はよく分からないものだが音楽プロデューサーとか言ったか。
だがあれはどう見ても諜報機関の人間といったほうが正しい気がしたが。」
 次々出てくる新事実にフランクもパクも目を輝かしている。
 「その高木という男と音無という女にはどこに行けば会えるんでしょうか?」
 パクがこの取材の核心を突いた。
 「それはおそらくできない。音無はすでにこの世界には存在しない。」
 フランクとパクはそれが何を意味するか一瞬で理解した。
音無はすでに死んでいる。もう会うこともできない。今までの苦労は
もちろん評価されるであろう。しかしそれまでのことだということを感じた。
 「だが、彼女の娘は生きているらしい。名前は・・・確か小鳥とかいったはずだ。」
 「なぜそれを?」
 フランクはすぐに頭を切り替え再び新事実に集中を始めた。
 「あの式典から数年後彼女に一回だけ会ったよ。そのとき娘の存在を知ったよ。」
 ミハエルはそういうとソファーから立ち上がり机に向かうと一通の封筒を持ってきた。
 「そのとき彼女が渡してくれたものだ。実を言うと開けていない。もし彼女のこと
探す人間が着たら渡してほしいと預かったものだ。」
 そういうとミハエルは未開封の封筒をフランクたちの前に差し出した。
 「これは・・・。」
 あまりの事実に言葉を失っていた。
 「そこまで予測していたか。しかし今までにも探した人間はいただろう。」
 パクは冷静にミハエルに疑問をぶつけた。
 「いや、いなかった。少なくとも私までたどり着かなかった。多くの者はある事無いこと
書き立てるだけだったからな。」
 パクは記憶の糸を引っ張り始めた。そういえばこの件に関してはいつもいい加減な
話しかなかったということを。
 「とにかくこれはいただいていいのでしょうか?」
 フランクは恐縮をうにミハエルに聞いた。
 「もちろんだ。そこに何が書いているかは分からない。だがもしかしたら君たちの
求めることが書いているかもしれない。そろそろ私も仕事に戻らないといけない。」
 ミハエルは取材の打ち切りを暗に要求した。こうなればもう取材は続けられない。
フランクとパクは彼のオフィスから出て行くことになった。その手には重要な収穫物、
封筒があった。 


2013年ユージア

 「これは・・・使えないな。」
 封筒の中身を読み上げたフランクは開口一番そう言った。
 「確かに。」
 パクも同意する。その中身とは個人のプライバシーと尊厳にかかわること。
そして”音無親子”に関わることであった。
 「この企画は完全に没だな。」
 ファーバンティーの安い喫茶店の不味いコーヒーを前にして今までの徒労を
吐き出すようにフランクは呟いた。
 「大丈夫か?って俺もか・・・。」
 パクも徒労感と疲労感を隠そうとそはしなかった。不味いコーヒーは
熱を失いますます不味い飲み物と化していた。
 「まあこいつはもともとダミー企画だ。またダミーの企画を動かせばいいだけだ。」
 精一杯の強がりを込めフランクは言った。
 「それにやらないといけないことが見つかった。まぁずいぶん先の話だろうが。」
 「フランク、俺はそいつはパスさせてもらうぞ。お前が行ったほうがいい。
俺はそんなに長生きするつもりは無いからな・・・。」
 乾いた笑い声を出しながらパクはフランクにすべてを託すことにした。
 「そうだな、お前はそう長生きしそうに無いな。とにかくこの国での
糞ったれな取材はもうお仕舞いだな。国に帰ってボチボチ続けるさ。」
 フランクは不味いコーヒーに手をつける振りをしていった。
 「そうだな、俺もほかの取材に復帰しないといかん。いつまでもこんなネタは
追いかけきれないからな。後を頼むぞ。
 「ああ。」
 徒労感と明日への仕事への憂鬱感を胸に二人の男はそれぞれの戦場に戻る準備を始めた。 


2038年 遠き島国

 「本当に遠いな・・・。」
 フランクは空港でかつてのように間抜けに呟いた。あれから25年がたった。
その間幾度の戦争があり戦後があった。そして多くの戦後に苦しむものがいた。
あの戦争のように幸せな戦後を送れたものは少なかった。
 世界は今企業間抗争が勃発している。しかしこの地ではそのようことは
まったく感じなかった。平和であった。

 「小鳥さん、OBCって放送局の記者さんが小鳥さんに会いたいって言ってますが。」
 電話を受け取った春香は小鳥に対しそのままの事実を伝えた。
 「OBC?ラジオ大阪の方かしら?それなら千早ちゃんやあずささんのはずだけど・・・。」
 小鳥は首をかしげ自分に思い当たるところが無いかと脳を検索した。しかし思い当たる
ところは無いと判断した。
 「外人さんのようでしたが?」
 春香は受話器を手で押さえながら自分の分析を述べた。
 「それってオーシアのTV局じゃないの?たしかオーシアにあったはずだけど。」
 律子は関連するワードで自分なりの答えを見出していた。
 「外国のTV局?ますます縁の無い話ね・・・。っでなんていう人、私代わるから。」
 「フランクリン・ジェームスさんって人です。あっはいどうぞ小鳥さん。」
 春香は小鳥に受話器を渡した。
 「もしもしお電話変わりました。音無ですが、何の用事でしょうか?」
 「あ、もしもし私OBCの報道局に勤めているフランクリン・ジェームスといいます。
音無小鳥さんでしょうか?」
 「そうですが・・・なにか。」
 フランクは続けた。
 「あのあなたのお母さんいついて話したいことがあります。今からそちらに
伺ってもよろしいでしょうか?」
 フランクはあくまでも丁寧かつ相手の警戒心を解きほぐすように続けた。
 「えっ母のことですか・・・分かりました。ではお待ちしています。」
 小鳥は受話器を置くと事務所のみんなに来客があることを伝え応接室をの
準備を始めた。 


2038年 765プロ事務所

 「私がフランクリン・ジェームスです。よろしくお願いします音無小鳥さん。」
 「え、こんにちはフランクリンさん、私が音無小鳥です。」
 「フランクで構いません。」
 フランクは応接室のソファーに腰を落とし小鳥を見つめていた。
 「フランクさん、それで母のことなのですが・・・。」
 小鳥は早速本題を切り出さした。
 「はい、私はかつてあなたのお母さんについて取材をしていました。
あなたのお母さんの歌についてですがね。その取材中にこのようなものを手に入れました。」
 そういうとフランクは懐から一通の封筒を取り出した。
 「こ、これは・・・。」
 小鳥の表情が変わり言葉が尻すぼみになった。小鳥は封筒を受け取ると中に同封している
便箋を開き読み耽った。
 やがて読み終えた小鳥は顔を上げフランクに向かって
 「これは・・・すべて知っていました。でもこんな形で残っていたなんて・・・。」
 またも小鳥の言葉が尻すぼみになっていく。
 「母との約束なんです。これ。私も知ったのは中学生になった後でしたが。こうやって
ほかの手段でも母は私に伝えたかったのですね。」
 小鳥の声から少し覇気が消えていた。
 「そうでしたか・・・あなたのお母さんの歌、知っているでしょう。あの歌のおかげで
救われた人はとても多くいるそうです。あなたもこの手紙のようには・・・」
 「いえいえ、私は・・・。」
 フランクの疑問にことは大きく首を振って否定した。
 「でも高木社長には良くしてもらっています。例えあの歌が歌えなくても。
それにここの事務所の娘たちがいつかは私の代わりに歌ってくれると信じていますから。
春香ちゃん、千早ちゃん、やよいちゃん、雪歩ちゃん、伊織ちゃん、律子ちゃん、あずささん、
真ちゃん、亜美ちゃん、真美ちゃん、美希ちゃん、みんなあの歌をいつか歌えると
信じていますから。それが母との約束ですから。」
 小鳥は少し涙目になりながらも言葉を続けた。
 「あなたのお母さんとの約束あの”BLUE SKIES”を歌い継ぐことあなたは今でもその約束
を守っているのですね。」
 フランクは静かに疑問を口にした。
 「はい、高木社長にもそのことは認めてもらっています。」
 「あの、少し外に出て話しませんか?」
 フランクは外出を誘った。もちろん初対面の人間でありなおかつ勤務時間中ということも
あり考え直そうかと思ったがフランクがこれが最良の方法と判断し外出を誘った。
 「分かりました。社長に一言言ってきますので外で待っていてください。」
 そういうと小鳥は応接室を出て社長室に向かった。そしてフランクもまた
外へと続く階段に向かった。 


2038年 海の見える公園

 「きれいな景色だ、オーレッドじゃこんな風景にはお目にはかかれないな。」
 フランクは眼下に広がる大海原をみて素直に感想を言った。眼下には大海原が広がり
空からは暖かい太陽の日差しが降り注ぎ心地のよい海風がフランクの体を包んだ。
 「はい、ここはこの町でも一番の安らぎスポットなんです。事務所の娘たちも
ここに来て歌の練習をしたりお昼寝をしているんです。」
 小鳥も心地のよい天気に心をリラックスさせていた。
 「あなたお母さんの歌、あれはとても素晴らしいものだと思います。そしてこれからも
誰かに歌ってもらいたいと私は願います。例えばあなたにもですが。」
 「そ、そんな、私は無理ですよ。もう2××歳ですし・・・。」
 小鳥は少しほほを赤らめながらフランクのからかいとも言える一言に反論した。
 「そんなことないですよ、あなたの登場を待っているファンがたくさんいるでしょう。
私にはなんとなく分かります。それに歳は関係ありませんよ。」
 フランクも笑いながら応戦をする。
 「こんな気持ちのいい景色がきっとあの歌の舞台なんでしょう。
あの歌を聞いた人たちはこれで戦争が終わったと実感したと聞きます。
こういうきれいな風景こそが人間本来が持つべきものでありそしてそれが
平和ということなんでしょう。」
 フランクは綺麗な青空を仰ぎ小鳥に語りかけた。
 「私もそう思います。高木社長と母はこんな景色を見てあの歌を作ったのかも知れませんね。
こんな綺麗な景色、そして青い空を見ていると心が落ち着き安らいでいきます。」
 小鳥はフランクに同意するように呟いた。
 「♪BLUE SKIES GIVE ME SO MUCH HOPE・・・」
 小鳥は周りの風景につられ自然と口ずさんでいた。
 「青空は希望をくれるか。あなたのお母さんは多くの人たちに希望を与えたのですね。」
 「いいえ、希望を与えたのはきっとこの青空だと思います。この青空を表現できる
歌姫を探す、それが私のこれからの使命ですね。」
 小鳥はフランクの質問に答えると空を仰ぎ再び歌を口ずさみ始めた。

 2038年世界にはまだ多くの戦いの火種が残っていた。だがこの青空のように
すばらしい歌、そして時代の偶像とも言えるアイドルたちがいれば世界は変えられるのでは
ないか?フランクは小さな希望を胸しまった。
 そして小鳥と小鳥の母親との約束が一日でも早く守れるように素晴らしき青空に祈った。 



上へ

inserted by FC2 system