いおりん誕生日おめで(略

作:名無し

「伊織、誕生日おめでとう」
誕生日プレゼントを忘れた罰として、俺は今「一日うさちゃんの代わりの刑」を受けている真っ最中だ。
ソファにだらんと座る伊織の左下腹部に後頭部をあずけ、俺は体を床に投げ出している。
伊織の細い左腕は、俺の首に巻きついている。
初春の陽気の中、少し汗ばんだ彼女の温もりに身を任せていると、不意に伊織が俺の首を軽くしめてくる。
すると俺はうさちゃんの代わりとして、こう言わなければならないのだ。
「伊織、誕生日おめでとう」
その言葉を聴くと、伊織は腕の力を弱め、俺はまた彼女の温もりの中に溶け込む。
伊織は何も言わないし、俺は彼女の求めに応じてただ壊れたおもちゃのように同じセリフを繰り替えすだけだ。

どれだけそのような行為を繰り返してきたのだろう。
ただぼんやりと眺めていた窓からは、赤い光が差し込まれ始めている。
「ねえ」
長い沈黙を破り、伊織がつぶやく。
彼女の少し汗ばんできた温もりと、相変わらず首に巻きつけられた左腕の息苦しさにあてられたせいなのか、なんとはなしに返事をせずに
いると、伊織はもう一度口を開く。
「ねえってば」
「伊織、誕生日おめでとう」
回らない思考の中、俺は答えた。
「そうじゃなくて・・・暑いわ」
少しあきれたように、伊織は言った。 



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