美希、半分覚醒

作:ユルカ

「なんで、あなたはそんなにやる気がないんですか!!」

「あふぅ……だって〜眠いんだもん」

「プロデューサー! 美希に何とか言ってやって下さい!」


ここは、都内のボイスレッスン場。

現在、俺のプロデュースするトリオユニットのレッスンの真っ最中である。


誰よりも厳しいレッスンを望んでいて、今怒っているのが、如月 千早。

千早に怒られていてもマイペースなのは、「あふぅ」とあくびをする、星井 美希。

そして、そんな二人を無視して黙々と練習しようとしている、菊地 真。

ユニット名? 画面の前の諸君、脳内補完でお願いする。


「むぅ。どうして千早さんは真くんを怒らないで、ミキばっかり怒るの?」

「真はきちんと練習してるからです。美希。
 この曲は歌唱力が決め手なんだからあなたもしっかりやってください!」

「わかった……」


美希の不服そうな顔。

千早の言う事はもっともだが、本気になる理由も分かる気がする。

このユニットの3rdシングルは「蒼い鳥」。

1stシングルの「まっすぐ」。2ndシングルの「relations」。

それぞれが歌ってみたい曲を選んでもらったときに、どれを1stシングルにするかもめて、

結局ジャンケンになり、千早はジャンケンに負けて3番目になってしまった。

故に、待ってましたとばかりに力が入るのも分かる。

逆に、美希はお気に入りの「relations」を、TVで歌うチャンスが少なくなって不満気だ。

なお、真は「乙女心バリバリ! な曲が歌えて嬉しいですよ!」と、喜んでいるので不満はないようだ。 


とりあえず、レッスンも終了したところで、事務所へと帰る。

社長からは「次週、レコーディングをしたまえ」という指示を受けたが……

果たしてうまくいくのか…?


……俺がこのメンバーでプロデュースしてからそろそろ半年になろうとしている。

現在Dランクの彼女達だが、まもなくCランクに届こうとしている。

アイドルランクの階段を上るための、新曲「蒼い鳥」のはずなのに……、

美希と千早の仲が悪いのはまずいだろう……。

俺の幸せの蒼い鳥はどこに? 誰か教えてくれぇ……。


次の週、俺は落胆した。

真しか事務所に来ていない……。


「あの、プロデューサー……」


あ〜。俺の指導が悪いせいだ。

あと性格の不一致で、その相乗効果でドタキャンかよ……。


「ちょっと、プロデューサー……」


ああ、どうすればいいんだ……。

真だけでレコーディングするわけにはいかないし……。


「プロデューサー!!! ボクの話、聞いてくださいよ!」


へ? ああ、すまん。で、何だ?


「美希と千早なら、とっくにスタジオ入りしてますよ」


えええええ!? どういうことだ?


「掻い摘んで話すとですね……」 


―プロデューサーが到着する2時間前


「おっはよ、千早さん」

「おはようございます、今朝は早いのですね」

「……千早さんに頼みがあって……それで早く来たの」

「頼み……ですか……?」

「うん。ミキをばっちりしごいてほしいの!」

「は、はぁ!?」


普段では考えられないような素っ頓狂な声を出す千早。


「しごくって……」

「もちろん、歌う事だよっ」

「……どういう心境の変化です?」


千早が鋭い目で美希の方を見る。


「ミキね、千早さんが「蒼い鳥」を歌ってるところを見たんだ」

「私が……歌っているところを……?」

「「蒼い鳥」だけじゃない。「まっすぐ」も「relations」も」

「ぜ、全部聞いていたのですか……ちょ、ちょっと恥ずかしいですね」

「それ見てミキね、千早さんが歌う事が好きならその手伝いをしてあげようって思うの。
 でもね、今のままじゃ足を引っ張るだけだから、千早さんに指導してもらいたいの!」


美希の言葉に、千早は2、3度瞬きをしてこう言った。


「……私の指導で、本当によろしいのですね?」

「ミキ、覚悟なら出来てるもん!」

「なら、先にスタジオに行きましょう。言っておきますが……私は厳しいですよ?」

「うん! ミキ、歌うの!」


と、そこに真が入ってきた。


「おはようございま……って、あれ? 二人ともどこへ行くの?」

「真、私……先にスタジオ入りして、美希の特訓に付き合ってあげるから
 プロデューサーに伝えておいて貰えます?」

「真くん、あとはよろしくね〜」

「……どういう心境の変化だろう……?」


―以上、回想終了。


「と、そういうわけなんです」


それじゃあ、俺たちもスタジオへ行くか…。


「はい!」 


スタジオでは、美希と千早が一生懸命に「蒼い鳥」を歌っていた。


「あおいーとりー、じーゆうとこーどく、ふたつのつばさでー。」

「何か違うのよね……美希、もう少し響かせるように」

「蒼い鳥〜、自由と孤独〜、二つの翼で〜」

「そう、そんな感じで。じゃあ次は……」


あんな表情の二人を見るのは初めてだった。

真面目に取り組もうとかなり真剣な表情の美希と、

厳しい表情をしながらもきちんと指導している千早……。


「二人とも、よくがんばってるな」

「プロデューサー(さん)!」

「ボクも忘れないでね」

「じゃ、レコーディング開始だ!」


一発OKだった。

千早の指導のおかげか美希の声もずいぶん通った気がする。

……しかし、何で美希は千早に特訓してもらおうなんて気になったんだ?

プロフィールに「必死になるのとかはちょっと苦手だから」とか書いていた気がするが。


「美希、どうして急に千早に特訓してもらおうなんて思うようになったんだ?」

「え、えっとね……ミキのお姉ちゃんを見て……思ったの」


美希のお姉さん……?


「うん。お姉ちゃんね、先生志望なの。それですごく努力してるんだ」


美希とは真逆だな。


「そうなの」


ん? 認めるのか?


「認めなきゃいけないの! ミキ、「自分は何でも出来る」って思ってた。
 でも、千早さんや真くんやプロデューサーさんに迷惑をかけることは、出来てないってことだよね。」


う……それは……。


「ミキ、それで思ったんだ。「迷惑をかけないようにするには、少しは努力しなきゃダメなんだ。」って」


美希……。


「だからね、プロデューサーさん。ミキ、これからちょっとは努力するね!」


ちょっとかよ……。


今思うと、美希がこの時見せたやる気は、
眠れる才能の一部だったと、あとになってからつくづく思うのだった……。


(了) 



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