鬼の霍乱

作:510

【無理してでも出社する】

 仕事が控えめだからと言って、休んでいる訳にも行かないだろう。俺は気合を入れて立ち上がる。
 ……うあ、結構だるいな。でも我慢できない訳じゃないと、無理矢理に着替えと洗面を済ませ、家を出た。

「プロデューサーさん、風邪ですか?」
 出社して最初に会った小鳥さんに、開口一番そう聞かれた。
「ええ、ちょっと」
 出社途中のコンビニで朝食と一緒に調達した、マスク越しに返事をする。
 まずいな、予想外に声が酷い。我ながら驚く。
「うわ、酷い声……あの、本当にプロデューサーさんですか?」
「……なんか凄い失礼な事訊いてませんか、小鳥さん」
「あ、あはは……冗談ですよぉ」
 苦笑いとともに、ぱたぱたと手を振る小鳥さん。しかしすぐ心配そうな表情になって、俺の顔を覗き込む。
「顔色もなんだかかなり悪そうですけど……大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫、これくらいなら……ぶえっきしょい!」
 嫌なタイミングのくしゃみだった。
「ほ、本当に、大丈夫ですか……?」
「ええ、本当に大丈夫ですから……」
 心配しなくても結構ですよ、とばかりに手を振る俺。
「と、ともかく……お大事に。無理しちゃ駄目ですよ?」
「はい、ありがとうございます」
 心配げに声を掛けてくれる小鳥さんに感謝して、俺はデスクに向かい、改めて今日のスケジュールを確認した。
 さて、どうすべきか。


【デスクワークを片付けておかないと】

【レッスンの様子を見にいかないと】

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