Repayment of a kindness

作:ユルカ

彼女は俺にこう言った。


「私、可愛くないですから。
 そのぶん頭を使わないとトップアイドルになれないです。
 それでもいいですか?」


彼女―秋月律子は元々アイドル志望ではなかった。

律子は自分がアイドルとして成功するには
マニアックな層の人気を獲得しなければならないと、
はじめから考えていたようだ。


「だが、それでも俺は律子をトップアイドルにする」

「口で言うのは簡単だけどね。それをどうするか考えなきゃ」


ホントに難しい奴だ……。

だが、さすがに自分のことを分析しているのか、
自分の実力がどれほどのものなのか分かっているようだ。

たしかにボーカル力も結構あるしな。

ダンスもビジュアルもなかなかの物だし。


「でも、千早や真や伊織に比べればまだまだですよ。
 それに才能だけじゃこの世界は渡っていけませんし」


それもそうか。

そのために俺たちは努力する。

そして、トップアイドルを目指すんだ!



―そんな事を決意してからもうすぐ一年になる。

律子は……凄かった。

俺の指導以上に律子は努力し、オーディションでは無敵。

SUPER IDOLもあっという間に合格し、

頂点のSランクに今立っている!


だが……今俺の目の前の律子は、
何か言いたそうな目をしている……。


「どうしたんだ、律子?
 Sランクアイドルなんだから、もっと胸張れよ」

「うん……ちょっと話、聞いてくれる?」

「なんだ? 改まって?」

「私さ……プロデューサーに恩返しできてないと思ったんだ」

「恩返し……?」


何が言いたいんだ……律子は? 


「私達アイドルはさ、プロデューサーに育ててもらって
 初めて一人前になれるじゃない?
 なのに、そんなプロデューサーに恩返しできてない……
 私それで良いのかって、そう思ったの」

「律子……」

「ねぇ? プロデューサーなら、どういう風に恩返しして欲しい?」


ど、どういう風にって……


「ちょっと! こういう受け答えが早くないから、
 プロデューサーはいつまでたっても成長しないんですよ!」


ひどい言われようだ。

だが、恩返しなら……。


「恩返しなら……もうとっくにしてもらってるよ」

「え?」

「俺を信頼してくれてここまでついてきた律子の成長が、
 俺への恩返しだよ。」

「な、なな、ななな、なんて恥ずかしい事を口に出せるわけ!?」

「なんだよ。俺は素直に言っただけだぞ」


それにな……


「俺は何人ものアイドルをトップへと立たせるために、
 がんばってきた。それとも律子は、デビュー当時から
 自分が成長してないって思うのか?」

「そんなわけないじゃない! 成長したことについては、
 プロデューサーに感謝してる」

「それでいいんだよ。
 恩返しってのは目に見えるもので返さなくても
 いいんだからな。」

「そうね。ならこれからも、よろしくお願いしますよ!」



恩返しをしようと思ったときに、

その相手がいなくなっていることがある。

「親孝行したいときに親は無し」と言うが、

せめて恩だけは返しておくべきだろう。


恩を返す事ができなかったなんて悔やむ前にさ。


(了) 



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