I'm in love with her

作:ユルカ

「♪壊れる〜く〜らいに〜抱き〜しめて〜」

「う〜ん……どうしたんだ千早?」

「何がですか?」

「自分でも分かってるだろ?
 声にハリが無いぞ」

「……はい」

「何かあったの? 千早さん?」

「なんでもないです! 続けましょう。
 プロデューサー」

「いや、休憩を入れよう。
 この曲は重要な曲だから、
 万が一でもこけちゃ困るんだ」

「分かり……ました……」


如月千早と星井美希。
この二人がデュオでデビューしたのは
今から10ヶ月ほど前の事だ。
歌唱力の千早と、ビジュアルの美希。
破竹の勢いでBランクまで上がってきた。
そして、Aランク、Sランクを取りに行くための5枚目のシングル。
それが今練習している「relations」である。 


しかし、歌詞を見たときから千早の様子がおかしい。
俺はもう一度歌詞を読んで……ひょっとしたら……と思った。
だが、俺が駆けつけたとき、そこには先客がいた……。


「千早さん、大丈夫?」

「……私……あの曲歌えないかもしれない……」

「え!? なんで!?」

「曲のように……されたことが無いから……」

「ミキ、よくわかんない……」

「誰にも……家族にさえ、壊れるくらいに抱きしめられた事なんて……私には無いの……」

「え……」

「この8年間……ずっと愛された事なんて無かった……。
 だから……愛してほしいなんて歌うこの歌……私には歌えない……」

「じゃあ、千早さんはハ……プロデューサーさんのこと、どう思っているの?」


何を言い出すんだ、美希は!?


「それ、どういう意味ですか?」

「プロデューサーさんだけじゃないよ。
 ファンのみんなにも、愛してもらってないとそう思ってるの?」

「あ……!?」

「私たちのファンも最初はプロデューサーさん一人だった。
 そのプロデューサーさんに、愛してもらってないと思ってるの?」

「そんなわけないじゃないですか!!」


千早が声を荒げる。 


「そう……プロデューサーは私を受け止めてくれた。
 いつでも私たちのそばには……プロデューサーがいてくれた……」

「ハ……プロデューサーさんは仕事だけじゃなくて、
 ミキ達の体調の事やプライベートの事もちゃんと考えてくれてた。
 これで、愛されてないんなら……一体なんなの!!」

「ごめんね……美希。私ちょっと、弱気になっていたみたいね……」

「大丈夫、今なら絶対に歌える!」

「行きましょう!」


どうやら……俺の出番は必要なかったみたいだな。

俺はそっとレッスンルームへと戻った。


「あ、そうそう千早さん」

「何ですか?」

「ミキはハ……プロデューサーさんのことが好きだから、
 千早さんと勝負だね!」

「えええっ!?」

「ハ……プロデューサーさんもはっきりすればいいのに」

「わ、わ、わた、わた、わたしはっ!!」

「だから、争奪戦だよ。ハ……プロデューサーさんはミキのものなのっ!!」

「……わかりました。負けませんよ」

「ミキも、負けないの!!」


その後、本当に争奪戦が発生したかは……
また別の話だ。

(了) 



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