キミと共に 〜夢ニ堕チ・・・〜

作:229

 駿プロデュースの、
天海春香、高槻やよい、萩原雪歩の3人ユニット「DESTINY」が始動した。
 ミーティングの翌日から、毎日のように、レッスンや営業活動を順調にこなした。
3人ともさすがに元B、A、Sランクのトップアイドルとあって、
今のFランクの段階では、レッスンの必要もないというぐらいの実力であった。

 そして、久しぶりのTV出演をかけたオーディションまで、あと1週間となったある日のこと・・・・
駿は事務所で3人を待っていた。


「おっはようございま〜す!」

「おはようやよい!
 今日も元気いっぱいだな!」

 1番に来たやよいが、駿とハイタッチをし・・・・


「おはようございます☆」

「やあ雪歩。おはよう。元気そうだね♪」

 次に雪歩が来て、
笑顔満点で挨拶をしてくれた。


「(うん!今日もいい日になりそうだな!)」

 しかし、間も無く来た春香だけは・・・・

「おはようございます・・・・
 はぁ・・・・・・」

 見ただけで負のオーラが出ており、
明らかにテンションが下がっている。


「お、おはよう春香・・・・どうした?
 まさか不幸の手紙でも来たか?」

「あ、いえ・・・・なんでもないんです・・・・・・」

「なんでもないことないだろ?
 どうする?今日は春香だけでも休むか?」

「いえ!私は大丈夫です!
 レッスン、よろしくお願いします!」

 春香は明らかな空元気で答えた。


「う〜ん・・・・まあいいだろう。
 それじゃあ今日のスケジュールを発表する。
 昨日言ったとおりだけど・・・・・・」

 今日は、オーディション前ということで、
午前中はボイスレッスン。
午後はオーディションのミーティングを行う予定である。
 新人アイドルにとっての登竜門である「ルーキーズ」は、
合格の枠が1つという特別オーディションである。
しかし駿は、今の3人なら絶対に勝てると思い、
デビュー戦ではあるが、いきなり参加することにしたのである。


「というわけで、これからレッスン場に移動するぞ。
 みんな支度してくれ。」

「はい!」

「はい☆」

「あ、はい。」

「春香・・・・・・」

 駿は春香を見て、明らかに様子がおかしいと思った。
理由を聞けたら聞いてみるか。
と思いつつ、4人はレッスン場へ。

 〜レッスン場にて〜


「よし、今日はオーディションで歌う「GO MY WAY!!」の音程をチェックする。
 でもこれだけは言っておく。多少外してもいいから・・・・」

「楽しくやれ!
 ですね?」

「お、やよい。
 よく憶えてるな?」

「もっちろんです!」

「私もこれだけは憶えてます。
 プロデューサーはいつも、
 オーディション前のレッスンは、
 「楽しく」レッスンさせますぅ。
 だから私は・・・・
 オーディションやTV出演、ライブの時はいつも楽しくできるんですぅ。」

「そうなんです!
 だから私も、全く緊張しないで歌えるんですよ!」

「ほぉ・・・・気づいてたか。
 よし!じゃあ早速やるか。
 まずはやよいから。
 余裕があれば踊ってもいいから。」

「はい!!」

「じゃあ、ミュージック、スタート!」

 駿はラジカセを再生し、曲を流した。


♪GO MY WAY!!! GO 前へ!!! 頑張ってゆきましょう♪


 やよいは歌詞カードを見ず、
しかも振り付けを踊りながら元気よく歌う。
ボーカルの面では、声も元気がよく音も外さず、
ダンスの方でも、ミスは一度もない。
間奏の間に、
駿からビジュアル中心でいくようにと指示が出てきて、
やよいもそれを実行する。
 間奏後・・・・
ビジュアル重視でいったやよいは、
ビジュアル面でも最高の出来であり、
そして曲が終わった。
 駿は拍手しながら・・・・


「素晴らしいぞやよい!
 振り付け付で完璧じゃないか!」

「そ、そうですか?
 えへへ・・・・☆」

「よし!次は雪歩。いいか?」

「はい。」

「よし、ミュージック、スタート。」


♪GO MY WAY!! GO 前へ!! 頑張ってゆきましょう♪


 雪歩も踊りながら歌い始めた。
ダンスのキレは、やよいには及ばないが、最後までノーミス。
ボーカルでも一度も外さず、
雪歩の売りであるビジュアルは、
最高の表現をすることができた。
 曲が終わり・・・・


「う〜ん!
 雪歩も最高だ!いいぞ!」

「あ、はい。
 ありがとうございますぅ☆」

「よし!次は春香。いけるか?」

「あ、はい。」

 と、春香は歌詞カードを持っていることに疑問を持つ駿。


「あれ?春香・・・・
 お前歌詞を完璧に憶えてたんじゃあ・・・・」

 そう。春香は初日の歌詞レッスンで、
やよいや雪歩より、先にパーフェクトに歌詞を憶えた。
しかも本人曰く、

「よくわかんないですけど、
 ミーティングのときには全部憶えてしまいました♪」

とのことだった。


「す、すみません・・・・
 歌詞を忘れてしまいまして・・・・・・」

「う〜ん・・・・まあいいや。
 じゃあ流すぞ?ミュージック、スタート。」

 そしていざ、歌わせてみると・・・・


♪ノンストップで行ってみましょ って思ったらまた赤信号♪


 春香に聞こえないように、やよいと雪歩が駿に話す。

「プ、プロデューサー・・・・」

「うっう〜・・・・
 こんなことってあるんですか?」

「う〜ん・・・・」

 これまでのレッスンで、
春香は、引退して2年程たっているにも関わらず、
ダンスはやよいに並ぶぐらいであり、
ビジュアルは雪歩と同じぐらいの表現力であり、
春香の最大の持ち味である歌唱力は、
千早や美希には及ばないが、
日本ではトップクラスの実力である。
しかし今の春香は、
振り付けも満足にできず、
見た目は楽しそうでもない。
おまけに歌唱力は、
棒読みではないが素人当然のレベルである。
 これを見た駿は・・・・


「ストーップ!」

「あ・・・・」

 途中で曲を止めた。


「春香、ちょっと来てくれ。」

「あ、はい・・・・・・」

「やよいと雪歩は交代で続けてくれ。
 悪いとこがあったら、お互い遠慮なしに教えてやれ。」

「はい。わかりました。」

「あ、はい。」

 駿は春香を連れて、レッスン場の休憩室に入った。
2人はイスに腰掛けた。


「さて、春香・・・・何があったか、
 そろそろ話してくれないか?」

「・・・・・・」

 春香は口を開こうとしない。
すると駿は立ち上がり、春香の前に出てしゃがみ、
肩に手を置き、優しい声で春香に話す。


「春香、悩んだ時は、遠慮なく言ってくれ。
 たとえどんなことがあっても、春香は春香だ。」

「プロデューサーさん・・・・」

 春香は今にも泣きそうな顔で駿を見つめている。


「何があったんだ?」

「じ、実は・・・・昨日夢を見たんです・・・・・・
 それから私の体は、昨日までの私じゃなくなっていて・・・・・・」

「え?
 ・・・・どういうことだ?」

「昨日、夢でもうひとりの私が前に出てきて、
 私を殺そうとしたんです・・・・
 私は必死に逃げたんです。
 でも途中で転んでしまって、
 その、もうひとりの私は、
 もっている刃物で私を刺そうとして・・・・
 でも刺される瞬間、もう朝になっていました・・・・
 その時から体の違和感を、少しだけ感じたんです。
 事務所に向かっている時も、
 いつもより多く転んでしまって・・・・さっきも・・・・・・」

「・・・・それって・・・・・・」

 駿は、数日前に見た夢に似ていると思った。


「プロデューサーさん・・・・
 私は一体・・・・・・どうすれば?」

「・・・・あまり気にするな。
 これからまた頑張ればいいんだから・・・・
 といっても、
 そのテンションじゃあレッスンどころじゃないよな・・・・・・
 今日はミーティングに参加しないで、
 このまま家に帰ってもいいから。」

「え・・・・
 でもそれじゃあ・・・・」

「大丈夫だ。
 今日のミーティングの内容なら、
 明日教えてやるから。」

「・・・・わかりました・・・・・・」

「ゆっくり、休んでな・・・・」

 その後、午前中に春香を家に帰らせた。
午後の事務所。

 〜応接室にて〜


「プロデューサー・・・・
 春香ちゃんは大丈夫なんですかぁ?」

「なんか今日は調子が悪かったみたいだから、
 このまま休ませることにした。
 明日には元気にきてくるといいけどな。」

「うっう〜・・・・
 春香さんがいなくなると、なんか寂しいです〜・・・・・・」

「そう、ですよね・・・・」

「おいおい。お前らまでそんなんでどうする?
 気持ちはわかるけど、大丈夫だ!
 明日には春香も笑顔でやってくるから!」

「はあ・・・・」

「じゃあ、ミーティングを始めるぞ。
 オーディションでは・・・・」

 その後、駿は、ルーキーズの採点法、
当日のスケジュール、
社長からの、当日予定される流行情報、
それを想定しての当日の衣装など、
オーディションに関連する事項を説明していったが、
やよいと雪歩に元気はなかったように見えた。
春香がいないだけでこうなるんだなと感じた。
 そして夜・・・・


「今日もお疲れ様。」

「お疲れ様ですぅ・・・・」

「うっう〜・・・・
 お疲れ様です・・・・」

「・・・・春香なら大丈夫だって。
 あ!さっきメールで

 『ご心配をおかけしました!
  明日からまたよろしくお願いします♪』

 って、元気なメールがきたんだぜ?心配するな。」


「そうなんですか?」

「本当なんですかぁ?」

「おいおい、俺が嘘でもつくか?」

「・・・・そうですよね!
 プロデューサーは嘘なんかつかないですよね!」

「わかりました。プロデューサーを信じます。
 じゃあそろそろ・・・・」

「おう!お疲れ様。」

 2人は元気を取り戻して事務所を後にした。
その後、駿は自分のデスクで報告書などを書いているときに、つい呟いてしまった。


「・・・・嘘、ついてしまった・・・・・・」

 駿がこれまで、アイドルに嘘をついたのは初めてかもしれない・・・・
もちろん今回のことは、2人に元気になってもらいたいためのことである。
だますつもりではない。だが、どこか罪悪感を感じていた。
 その後、書かなければいけない書類が多すぎたのか、
気がついたら日付が変わり、午前2時になっていた。
事務所には駿1人だった。

「もうこんな時間か・・・・
 今日は久しぶりに事務所で寝るか。」

 駿は事務所の電気を消し、
事務所の内側の鍵を掛け、
事務所内の1室を開けた。
そこはスタッフ専用の仮眠室である。
徹夜になったときに使うように。
と、高木社長が用意してくれたのである。
この事務所になって以来、
駿は、仕事が忙しいときなど、
徹夜した際には結構利用している。


「春香・・・・大丈夫かな。」

 駿が春香の心配をしているときに携帯が鳴った。
なんと春香である。


「もしもし?」

『プ、プロデューサーさ〜ん!』

「ん?どうした?
 こんな時間に何かあったのか?」

『実は、昨日と同じ夢を見て・・・・
 さっき目が覚めたんです・・・・・・』

「何?本当か?」

『プロデューサーさん・・・・
 私、どうしたらいいんでしょうか・・・・・・』

 春香は、今にも泣きそうな声で話す。

「・・・・・・こればかりはな・・・・
 明日になったら、少し話でもしよう。だから泣くな。」

『はい・・・・
 すみません・・・・・・』

「謝るなよ。
 とにかく、明日も早いから、そろそろ寝よう。」

『はい。
 夜分遅くにすみませんでした・・・・』

「気にするな。
 おやすみ。」

『おやすみなさい。
 プロデューサーさん・・・・・・』

 携帯を切った。


「でも、どうしたらいいんだろう・・・・
 春香の夢に入れたら、救ってやれるのに・・・・
 なんて、バカか俺は・・・・・・」

 などと嘆きつつも、駿も眠りについた。



「なんだ?ここは・・・・」

 眠りについた駿が見たものは、
上も下も、前後左右すべてが真っ黒の世界である。
重力はあるのか、地上に立っている感じではある。


「とりあえず、
 何もしないで立ち止まるよりは、
 進むしかなさそうだな。」

 駿が前に進んでいると、誰かの声がした。


「やめて!
 もう来ないで!」

「!?・・・・春香の声だ!
 こんなことってあるんだな・・・・
 ってそんなこと考えてる場合じゃない!あっちか!」

 駿は、春香の声がした方向へ進む。
そして駿が見たものは、
恐怖におびえながら泣いている私服姿の春香と、
悪のオーラ全開で全く喋ろうとせず、
しかも黒くて悪趣味な短剣2本を両手に持つ、
トゥインクルブラックに身を包んだ、
もうひとりの春香(以降、闇の春香)である。
 状況は、闇の春香が宙に浮きながら春香に接近し、
春香はなんとか逃げようとしているが、
あまりの恐怖からか、立ち上がることも出来ずに尻餅をついている。


「春香!うぉぉぉぉ!」

 駿は「春香を助けたい!」
ということだけを考え、
春香に急接近して、
春香を抱きしめた。


「え?・・・・
 プロデューサーさん・・・・?」

「大丈夫か春香?
 よかった・・・・」

「・・・・プロデューサーさ〜ん!」

 春香は恐怖から解放されたようで、
駿の胸で思いっきり泣いた。
駿は春香を優しく受け止め、
髪を撫でてあげた。
しかし、問題は解決されていない。
闇の春香がこちらを見ている。
その目は赤く光り、凄まじい程の殺意を感じる。


「で、でも、どうしたら・・・・」

 闇の春香が、宙を浮きながらこちらを見下し、
持っている短剣で、駿とも殺そうとしたその時!


「だぁぁぁぁぁ!!」

 どこか聞き覚えのある声がした。
それは剣を右手に持ち、闇の春香に接近する。
闇の春香は途中で動きを止め、それと対峙する。


「あ、あんたはたしか・・・・」

「ん?おぉ!また会えるなんて、
 なんか縁がありそうだな、俺たち。」

「なはははは・・・・
 今回はあんたひとりか?」

「ああ。これは俺だけが望んだことだ。
 ヴァルキリーに頼んで、なんとか夢の中に入れたんだ。」

 その男は、以前駿の夢にも出てきて、
駿と春香を助けた、「ユウキ」という男である。


「それより早くここを離れろ!
 ここは俺にまかせてくれ。」

「あ、ああ。」

 駿は春香を連れて、
少し離れた場所に移動する。

「プロデューサーさん・・・・
 あの人は?」

「あの人は、
 春香が倒れた時に、
 春香のことを救ってくれ、
 俺のことも救ってくれた、
 命の恩人だ。」

「え?」

「え?って・・・・
 あの時のことを憶えていないのか?」

「はい・・・・その時には、
 意識はなかったんで全く憶えていないんです・・・・・・」

「そっか・・・・
 でももう大丈夫だから・・・・・・」

「はい・・・・」

 駿が春香を優しく抱きしめ、
春香もそれを受け入れる、
2人はユウキに視線を向ける。


「俺が相手だ!
 かかってこい!」

 闇の春香がユウキに接近して攻撃。
ユウキは攻撃をかわした。


「っ!早い!
 久しぶりの強敵って感じ・・・・
 わくわくしてきたぜ・・・・・・
 だぁぁぁぁぁぁ!」

 ユウキも反撃する。
しかし闇の春香は2本の短剣ではじいた。
ユウキと離れたとこで、闇の春香の赤い目が強く光る。

「な!これは・・・・
 体が動かねぇ・・・・・・」

 ユウキは動けなくなってしまった。
闇の春香が駿に接近してくる。
視線からして、狙いは春香であろう。


「!!」

 春香は再び恐怖し、駿の胸に密着した。
駿は春香を優しく抱きしめた。


「どうして春香は、
 こんな目にあわなきゃいけないんだ・・・・」

 闇の春香が春香に接近し、
殺そうとしたその時!


「はあああああ!!」

「え?」

 女の声がした。
だが何故だろう・・・・
と駿は思った。
声が春香に似ているのだ。
それは闇の春香を通り過ぎ、
気がついたら闇の春香は多くの深手を負って、
膝をついてそのまま消えていった。
 駿が目にしたのは、
スノーストロベリーに身を包み、
見た目はほとんど同じで、
目が金色の春香(以降ハルカ)である。


「ふう♪
 間に合ってよかった☆」

「あ、あなたは・・・・?」

「名乗るものではないです♪」

「へ?」

 とプロデューサーが言葉を発したその時、
ハルカは指で音を鳴らし、
プロデューサーはそのまま消えていった。


「プ、プロデューサーさん!?」

「大丈夫♪
 あの人は今頃、夢から目覚めて起きているから☆」

「は、はあ・・・・」

「あなたもそろそろ起きた方がいいわ☆
 でもその前に・・・・」

 ハルカは、春香を抱きしめた。
すると、春香の体が少し光った。


「え??」

「お・ま・じ・な・い♪」

 と、しゃべるとまた指パッチンし、春香も消えた。


「・・・・久しぶりだな
 ・・・・・・ハルカ・ヤマト」

「ユウキさん・・・・」

「ずっと、
 女神ルーシェのとこにいたのか?」

「ええ♪」

「一緒に来るか?
 ヴァルキリーも歓迎するだろう。」

「はい☆」

 そしてユウキとハルカも、
真っ黒の世界を脱出した。



「春香〜!」

 急に視界が消えて、
駿は驚きながら目覚める。
回りを見渡すと、そこは事務所の仮眠室だった。


「・・・・あれは・・・・・・もう一人の春香、なのかな・・・・・・
 まあ、こればかりは、考えようがないからな。」

 駿はこれ以上の詮索をやめることにした。
時計を見ると、朝の6時になっていた。
駿は仮眠室を出て、
あくびをしながら、事務所の内側の鍵を外した。
そして洗面所で顔を洗い、
自分のデスクに戻り、
昨日できなかった書類の書き込みなどを始めた。
 しばらくすると、
音無小鳥が出社してきた。


「おはようございます。」

「あ、おはようございます。
 小鳥さん。」

「そういえば、プロデューサーさんは徹夜でしたね。
 ご苦労様です。」

「ありがとうございます。
 やることが多くてね〜・・・・
 2時ぐらいに一度寝ましたけど。」

「あまり無理をしてはだめですよ?」

「わかってますよ。」

 小鳥が出社してから少し経つと、
社長や孝志、他のスタッフも出社した。
 時刻は8時前。
すると会社の電話が鳴り、それを小鳥が応対する。
すると、駿のデスクにある事務所の内線が鳴った。


「はい?」

「プロデューサーさん、春香ちゃんからお電話です。
 外線1番です。」

「春香?
 わかりました。」

 駿は言われたとおり、
外線1番のボタンを押した。


「おはよう春香、
 どうしたんだ?」

『あ、おはようございます!プロデューサーさん。
 実はさっき、乗る電車が事故に遭いまして、
 このままだと遅れてしまいそうなんです・・・・』

「マジで?しょうがない・・・・
 じゃあタクシーでも拾って来てくれ。
 俺が経費で落せるか話してみるよ。
 領収書忘れるなよ。
 ・・・・そうだ。今日もレッスンだから、
 そのまま昨日と同じとこに来てくれ。」

『はい。わかりました。
 すみません・・・・・・』

「気にするな。
 じゃあレッスン場でな。」

『はい。失礼します。』

 駿は受話器を戻し、再び受話器を取り、
今日行くレッスン場に電話し、
春香がひとりで来るというのを伝え、受話器を戻した。
次に小鳥のところに行き、春香のことを伝え、
社長からの了承を得た。
駿は再び自分の仕事に戻る。
 そして8時半になり、
最初にやよいがやってきた。


「おはようございま〜っす!」

「おぉやよい、
 おっはよ〜!」

 いつもの元気な礼をしながら挨拶するやよい。
すると次は雪歩が入ってきた。


「おはようございます。
 プロデューサー。」

「おう。
 おはよう。雪歩。」

 ファンなら胸がキュンとするぐらいの笑顔で、
雪歩は挨拶した。


「よし、じゃあレッスン場に行くか。」

「はい。あれ?
 春香ちゃんは?」

「春香は、電車がトラブったからタクシー使って、
 ひとりでレッスン場に行くことになった。
 だから先に行くぞ。」

「わかりました。
 でも春香さん・・・・
 大丈夫でしょうか?」

「昨日のことか?
 声の感じからそんな風には聞こえなかったから、大丈夫だろ。」

「本当ですかぁ?」

「ああ。
 じゃあ今日も頑張ろうぜ。」

「「はい!」」

 2人の声がシンクロした。
3人はレッスン場へ。
 レッスン場の中のスタジオに入ると・・・・


「あれ?
 春香さんがいますよ?」

「あら?マジだ。」

 春香はすでに着いており、
しかもトレーニングウェアを着ていた。


「おはよう春香。
 早かったな。」

「あ、おはようございます!プロデューサーさん♪
 拾ったタクシーの運転手さんがとっても速かったんで、
 少し前に着いちゃいました。」

「そっか。じゃあ先にレッスンするか。
 2人はトレーニングウェアに着替えてくれ。」

「はい!
 わかりました!」

「はい☆」

 やよいと雪歩は更衣室へ着替えに。春香は駿に、タクシー代の領収書を渡す。


「じゃあ春香、
 昨日と同じレッスンをやるか。」

「はい♪
 いつもいいですよ!」

「あれ?
 歌詞カードは?」

「それなら大丈夫です♪
 早く始めましょう☆」

「あ、あぁ。
 じゃあ、ミュージックスタート。」

 駿はラジカセの再生ボタンを押し、「GO MY WAY!!」が流れた。


♪GO MY WAY!! GO 前へ!! 頑張ってゆきましょう 一番大好きな 私になりたい♪


 この瞬間、駿は唖然とした。
というより、見とれてしまったといった方がいいだろう。
今日の春香は歌詞カードを見ず、
しかも振り付けまでしている。
その実力は、歌唱力、ダンス、ビジュアルにおいて、
駿が見てきた中で、すべて1番と思えるぐらいのレベルであった。
 そして曲が終わった。


「・・・・・・」

「あれ?プロデューサーさん?
 どこか悪いとこありました?」

「いや、完璧だ・・・・。
 今までで最高じゃないか!」

「え?本当ですか!?
 嬉しいです♪」

「昨日の違和感はなかったのか?」

「はい!というか、
 今朝起きた時から急に力がみなぎって・・・・
 しかも今日は一度しか転んでないんですよ♪」

「一度って、あるんかい・・・・
 でもすごいなぁ、思わず見とれちゃったよ・・・・・・
 そういえばあの時、俺がいなくなったあと、何かあったか?」

「夢の話ですか?
 えっと・・・・プロデューサーさんが消えた後、
 急にあの女の人に抱きしめられて・・・・
 その後に私も起きたんですよ。」

「結局正体はわからずじまいか・・・・」

「でもあの人、
 歌のお姉さんに雰囲気が似てたんですよ。」

「歌のお姉さんって・・・・
 春香が小さい頃に出会ったっていう?」

「はい。
 まさかとは思うんですが・・・・」

「そっか・・・・
 でも、春香が無事で、本当によかったよ・・・・・・」

「でも、プロデューサーさんが、
 私の夢に来てくれて・・・・
 それが一番嬉しかったです☆」

 春香は駿を抱きしめた。


「な!春香!?
 やよいと雪歩がきたらどうするんだよ!?」

「大丈夫ですよ☆
 それとも、いや、ですか?」

「・・・・・・いやなもんか・・・・」

 駿も春香を抱きしめ返した・・・・
しばらく2人の時間が流れ・・・・・・


「失礼しますぅ。って、
 ええええええええぇぇええええええええええ!!!?」

「は、春香さん!?
 プロデューサー!?」

「ん?・・・・うぉ!?」

「あ、あわわわわわ!
 私ってば、な、何をしてるんだろう!?」

 2人はやよいと雪歩が入ってきたことにびっくりし、急いで離れる。


「はわわ、アツアツですね・・・・・・」

「で、でも・・・・
 ちょ、ちょっとうらやましいかもぉ・・・・・・」

「う・・・・さて!
 そろそろレッスンに戻るぞ!
 ほら!準備準備!」

「は、はぃい!」


 駿と春香は赤面しながら強引に進める。
その後、ボイスレッスンは順調に終わり、
事務所にてミーティングをし、
その日も無事終了。
 ちなみに、駿と春香は、やよいと雪歩に、
レッスン場で抱き合ってたことは、
社長に黙ってくれと頼んだのは言うまでもない。

上へ

inserted by FC2 system