王子様と呼ばれても

作:ユルカ

菊地真は、美少女である。

美少年に見える美少女である。

そのため、男性ファンよりも女性ファンのほうが多い……

彼女は自分のイメージを変えたいと思っていたのだが……


「ふぅ……表彰式か……」


真はため息をついた。

プロデューサーからの電話は、

真にとって微妙な告知だった。


―今年度の「ベスト・美少年アワード」に
 真が選ばれたから、次の仕事は表彰式だ。


「美少年か……ハハハ……」


できれば美少女がよかったなぁ……。


「何、辛気臭い顔してるのさ、真ちゃん」

「あ……ヒロミ叔母さん……」

「こらー! だれがおばさんだ、このー!」

「あいててて……グリグリはやめて……」


ヒロミ叔母さん……真の母の妹で、

地声が低いために真はすぐ分かる。

そして、見ての通りおばさんと呼ばれる事を嫌う。 


「もう……きついなぁ……」

「で、どうしてそんな顔してるのさ?」

「えーと学校での話なんですけど……」


真はアイドルであることを誤魔化す為、

芸能界⇒学校

ベスト美少年アワード⇒学校での男子の人気投票

と、言い換えて話をした。


「で、ボクは女の子なのに、
 一位になっちゃっていいのかなって……」

「いいんじゃないの?」

「即答!?」

「だって、王子様なんでしょ?」

「はぁ……ヒロミおば……お姉さんまで、それを……」


王子様。

学校でも芸能界でも真に合う異名だ。

女の子らしく生きたいと考えている真は、

王子様と呼ばれる事にちょっとした反感を抱いている。

そもそも……真の王子様気質は1stシングルの「エージェント夜を往く」で、

十二分に発揮されていたのである。

オリコンの初動順位としてはビックリの1位だったのは、

女性ファンが真を男の子だと間違えて何枚も買っていったからだと言われている。

……そんな事に一切気づいてない父親もすごいのだろうか? 


「そりゃ、王子様、王子様って呼ばれてるけど
 僕の意思は無視!?」

「そんなことないんじゃないの?」

「え……?」

「真をお姫様と思ってる人がどこかにいるわよ」

「そうかな……」


真はいまいち納得していなかったが、

やがて、表彰式の当日を迎えた。


「情けないこと、するな!
 負けた上にひがむなんて、それでも男か!?」


プロデューサーのその言葉を聞いた時、真は理解した。


「(ボクをお姫様だと見てくれる人は……
  一番そばにいたんだ……)」


その後真は、「王子様でも悪くないかな……」と、
思い始めたという……。


(了) 



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