認めたくない現実に見た夢

作:376

Bランクアイドル、如月千早。
飛ぶ鳥を落とす勢いで、人気が上昇している千早は最早Aランク達成も時間の問題だ。
しかしそれだけにスケジュールも過密となり、千早の負担が大きくなっている。
現在、次の仕事場であるテレビ局へのこの移動時間こそ、千早の僅かな休息時間でもある。
まぁ、早い話が―――、俺が運転する営業車の助手席で居眠りをしているのである。
俺は千早と組んで半年以上の期間が過ぎたが、千早が居眠りをしたのは今日が初めてのことだった。
いつもなら、とりとめのないことを話して呆れられたり、千早と口論になった時には無言でそっぽを向かれたりしているのだが・・・。
それだけ疲労も蓄積しているのだろう、スケジュールを一考せねば・・・。
赤信号で車が止まると、俺は上着を脱いで、体が冷えないように千早にかけてやった
千早はいつもとは違ったあどけない表情で眠っている。
それは、俺に千早がまだまだ少女だということを強く意識させた。
普段はもっとピッとしてんのになぁ・・・。
まぁ、隣で眠る位には気を許していると自惚れてもいいのかもしれない。 


・・・信号が青になった。車を発進させる。
それから少し経ったときだった。

グギギギギギギ!

ヘンな音が聞こえてきた。

グギ、グギギギギギ・・・
これはひどい。
固いモノ同士をこすりあっているような、酷く耳障りな音―――。
周りに目をやっても道路工事なぞしてもいない。
もちろん車内にもそんな音がでるようなモノなど置いていない。
車に乗っているのは、俺と千早だけ。そう、俺と千早だけ―――。

認めたくなかった。
音は今も鳴り響いている。
だがその現実は、俺がショービジネスの裏側に携わる人間だということと、アイドルなど所詮、偶像だということを再認識させた。
その「音」は千早から発せられていた。

グギィギギギギギ〜!

いわゆる歯軋りだ。

グギギギギギ!

・・・それでも千早は天使のqあwせdrftgyふじこlp
あたまがいたい、う、運転に集中できん・・・!
千早の歌声は心に響くが、歯軋りは脳に響く!

グギギギギギ!

♪〜歯軋りなんて聞きたくないぜ! 頭、張り裂けそうで!!
って歌ってる場合じゃない、信号無視しそうになった!
急ブレーキを掛けたにも関わらず、千早はそのままの天使の寝顔で悪魔の音を奏でている。
俺はこの時、この千早の歯軋りを向こう30年以上にわたって聴くことになるだろうとは、夢にも思わなかったのだった・・・。










グィギギギギ!

いまもあのおとがなっている・・・。
おれはだれにしゃべってるんだろうか・・・?

パァッパー!

クラクション! はっ!? 急ハンドル! 
いけない、また事故りそうになった!
あれから俺―――、如月千早のプロデューサーである俺は、今もスリリングドライブを続けている。
千早? ああ、俺の自慢のカーステレオは、今も隣で快調に耳障りなBGMを奏でている。
つか、これだけ荒っぽい運転で、何で目を覚まさん!?
俺はここに千早の大器の片鱗を見た! こりゃもう、Sランク確実ぅ!
・・・イカンイカン! いままでのスリリングドライブと千早の歯軋りでテンションが上がりすぎてたみたいだ。
だいたい何で、普通の道路で命を賭して運転せにゃならんのだ?
と、目の前に検問がある・・・。
探している車種が特定されているのだろう、前の車はほとんど素通りだ。
この程度なら、次の仕事場への到着時間に差し支えはないだろう。
気がつけば、千早の歯軋りは止んでいた。万歳!万歳!バンザーイ!
さて、あとはこの検問を抜けるだけ・・・。
「はい、止まってー!」

何故? 


中年の警官がやってきて、ドアをノックしてくる。
とはいえ、別に悪いことなどしていない(乱暴運転はしたが)ので、素直に応対する。
「何かあったんですか?」
「白昼堂々、女子高生拉致があってねー」
「はぁ」
「目撃者によると、犯行につかった車種は、△○の××だそうだ」
「へぇ、そうなんですか」
俺達が乗っている車と同じだ。ツイてないな。運転免許証を見せる。
「はい、どうも。・・・隣の彼女、どう見ても高校生にしか見えないんだが」
「はい?」
とオッサン警官の指した千早を見ると、何故か少し苦しそうな顔をしながら、ヨダレを垂らして眠っている。
しかも姿を隠すように俺の背広がかけられており、その背広も千早のヨダレで見るも無残な姿となっている・・・。
・・・端から見ると、クスリ使って拉致ってきたようにも見えなくもない。
「・・・お兄さん、ちょっと署に寄ってかない?」
な、何いってるんだ、このオポンチ警官!?
「ちょ、待ってください! 彼女はアイドルですよ! ほら! 今、人気急上昇の! 如月 千早!!」
「・・・知らねーな」
ちょwwwオッサンwwwwwwwwwテレビ見れや!!!
「ちょ、待ってください! ほら、千早、起きなさい!!」
ちょっとそのみりきビームでこのオッサンのハートをロックオンしたってくれや!
「うーん・・・、(プロデューサー、)助けて・・・。」(by夢の中)
俺が助けてほしいわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 



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