リリィ

作:ラフ・メイカー

とあるビル、765プロでは今をときめくアイドル達11人が珍しく一つの場所に集結していた。

「ですけどやっぱり律子さん、そこは・・・・・。」
「いいや、だから春香は甘いの。だから・・・・。」

話が大いに盛り上がる中、何も知らずガチャリと扉を開けて部屋の中にプロデューサーがはいる。
その字とおり「飛んで火にいる、夏の虫」のように。

「よぉ、みんな・・・・・。」
「そうですよ!!プロデューサーさんのお話を聞きましょうよ!!?」
「・・・・・・は??」

突然自分の名前が出て少々困惑気味のプロデューサーに説明を始める美希。

「あのね、ハニー。実は今皆でコイバナをしていたの。」
「まぁ、女の子だからそんな話ぐらいするよな。で?」
「でも、やっぱりみんなまだ付き合ったりしたこと無いから良く分からなくて、実体験を聞きたいと思っていたんですよ。」

真がかなりテンション高めに美希の話を引き継いで話しをする。
まぁ、女の子に憧れている真は当然の反応だよな。

「てっきり、あずさあたり経験があると思ったのにねぇ・・・・。」
「ごめんなさいね〜、伊織ちゃん。」

あずささんが若干首元に脂汗をかいていた。
どうやら、あまり「あの話」はしたくは無いらしい。
それを律子が敏感に感じ取ったのか、あわてて話を変えてくれる。

「そっ、それで経験豊富そうなプロデューサー殿に話を聞こうって事になってわけ。」
「なんだよ、それ・・・・・。」

おもわずプロデューサーは苦笑する。
アイドル候補生たちが皆期待に目を輝かせてこちらを見ている。
これで後ろには下がれなくなってしまった。
プロデューサーは覚悟を決めて、開いた椅子に座った。

「つまんねぇ話しかないぞ・・・・・。」

急にプロデューサーの声のトーンが落ちて、とてもシリアスな雰囲気になる。
皆その雰囲気を察して、真面目な顔をしてプロデューサーの顔をじっと見始める。

「あれは・・・・・。高校一年頃だったかな・・・・・」 


当時、自分には付き合っている女の子がいた。
彼女は学校や近所では一番美人で頭が良く、かなりモテていた。
そいつと俺はちょっとやそっとじゃない、小学校の低学年の頃からの幼馴染で一番の理解者だった。
当時、中学校二年生の頃から俺はバンドを組んでいて、彼女は俺の歌を楽しそうに聞いていてくれたよ。
そのころの俺は全然、臆病で、いつも愚痴や弱音ばかり言っていた。
だけど、彼女は黙ってそれを聞いてくれていた。

俺が彼女に惚れたのは、中学三年生の初ライブ。
その頃から随分と俺と彼女は仲が良かったが、お互いがお互いの気持ちに気づいていなかった。

輝く学校の備品のスポットライトの下。

学校の安っぽくて低いステージの上、自分の叫びを歌に乗せて歌った。

最初は自分の気持ちが思うように伝わらなかった。
だが、自分のテンションが上がり始めると、だんだん会場のボルテージが上がっていった。
それで結局、ライブは大成功で、生徒のみならず、教師達も体を精一杯動かせて音楽にのっていたよ。
そんな中、何百人といる教師生徒の中で、ひときわ美しく、楽しそうに彼女は俺の音楽を聴いていてくれた。
その頃からかもしれない、知れない彼女に惚れていったのは。
その頃からかもしれない、彼女の傍にいたいと願い始めたのは。

そして、ライブを重ねながら遂に中学の卒業式になってしまった。
そのとき、俺は初めて好きな女性に告白をした。
告白を聞いたとき、彼女は嬉し泣きの涙を零しながら、俺に抱きついてきたよ。
どうやら彼女も告白しようと思っていたらしいが、中々決心できなかったらしい。

その後、俺は普通の公立高校、彼女は名門の私立の高校に進学した。 


ある時、俺たちが路上ライブをしているとき、とある酔っぱらいのおっさん達が俺たちに絡んできた。
俺たちの歌や演奏にイチャモンをつけて、おまけに唾まで吐いてきやがった。
たちまち俺と酔っぱらいは怒鳴りあいの大喧嘩になった。
後々に聞いた話だが、その酔っぱらいたちはたまたま出張できていた、音楽界では権威らしい。

いくら酔っぱらいとはいえ、そんな連中に口で勝てるわけも無く、そのまま家に帰った。

俺は相当イラついていたのか、俺は次の日遊びに来た彼女に昨日、一日分の愚痴や弱音を彼女にぶちまけた。

一日分、お前らにはその量を想像できるかい?

ところが彼女は笑った。本当に幸せそうに笑った。
ヘラヘラ笑っているのが我慢できなくて、大声で怒鳴り散らした。
そうすると彼女は幸せそうな笑顔を浮かべながら、キレまくっている俺の鼻の先をツンとつついた。
幸せそうな顔をして「可愛い人ね」と言った。

「あなたはそんなに強くないんだから、強がっちゃだめでしょ?」

その時俺は理解した。こいつにはどんなに叫んでも、怒鳴っても、歌っても勝てる気がしなくなってしまった。

俺の心の中にあるポケットに詰まった愚痴や弱音を集めて彼女に叩きつけた。
それでも彼女はそれをただしっかりと受け止めてくれ。

それから俺は吹っ切れたように、様々なイベントで歌いまくって、ひたからアピールした。

初ライブのときより少しだけ高いステージの上。

ちょっとだけ豪華なスポットライトの下。

そして、東京でライブ活動をしているとあるミュージシャンに「部屋が何件かあるから上京してこないか?」と誘われて、
バンドのメンバーも行きたそうだったが、家庭の都合上で行くことができず、俺だけが高校を辞めて、上京することになった。

当然、彼女も一緒について行きたそうだったが、親に猛反対されて断念させられた。 


終電を告げる放送が鳴り響くなか、周りの人間たちは一斉に走り出す。

右手には彼女の左手。

「もう離さなきゃ・・・・」そう思いながらも中々彼女の手を離せず。ズルズルと改札口の前まで、手を繋いで行ってしまった。
そしてとうとう手を離し、改札口を抜ける。

最後に一つだけ言いたい事と確かめたいことがあった。
「最初で最後の人」
それは言わないで行こう。数年たてば良い思い出になるだろう。
元々、俺と彼女なんかは不釣合いだったんだ。

だが、どうしても確かめたいことがあった。

それを確かめるために、振り向いて、彼女の顔を見たら泣いてしまう、と、思いながら彼女の顔を見るために振り返った。

やっぱり君は笑っていた。別れのそばで笑った。

そうすると、今までの気持ちが一気に吹っ飛んだ。

そして、その笑顔を見て、考えるより先にこんな言葉が出ていた。

「また、会えるかな?」

確かめるように俺は尋ねた。
彼女は、美しく、儚く頷いた。 


「・・・・・・・と、まぁこんな感じだ。」

話しおえて、アイドルのコ達の顔を見てみると、みんながなんか泣きそうな顔をしていた。

「どこがつまらない話なんですか?」
「とっても、感動しました。」

みんなが口々に褒めてくれて正直驚いていた。

「はいはい!これで話はお終い!!さっさと仕事に戻れ!!!」

アイドルのコ達はなんだかブーブー口々に文句を言っていたが、そんなこと聞こえないフリをして、営業に行くように急かした。

(なぁ・・・・・。あの改札口で言わなかったあの言葉今、言っていいかい?)

誰も居なくなった部屋で一人佇み、こう小さく呟いた。

「最初で最後の恋人・・・・・。」 



上へ

inserted by FC2 system