She want to see snow

作:名無し

空を見ていた

蒼く雄大な空が好きだったし
それになにより今は12月20日
かなり気温も低くなっている



雪が…見たかった…




事務所の窓から見る空はガラスのせいでどこか濁っている。
本当は外に出たかったが、プロデューサーが自分の我侭を聞いてくれているのだから、そんな彼を放っておけるわけが無い。
自分の我侭、『クリスマスに仕事をしたくない』アイドルがそんな我侭を言えるわけが無いのだが、ついそんなことを呟いてしまった。
でも、まさかそれを聞いてくれるとは思わなかった。
もともと何かの収録があったわけではない、レッスンが有るだけだった。
しかし一人のスケジュール変更は他のアイドルのスケジュール全体に影響がある(と、言っても減るだけならあんまり関係が無いが)、
こんな我侭普通は聞いてくれるわけが無い。

「プロデューサー、……なんでこんな我侭聞いてくれたんですか?」

プロデューサーに問いかけるが返事が無い、聞こえなかったのだろうかもう一度訊こうと口を開きかけたが原因はすぐに分かった。
イヤホンで曲か何かを聞いていたのだった。
近づき肩を叩くとプロデューサーが手を止めた、こっちを向きイヤホンを取るのを確認し、もう一度さっきと同じ質問を投げかけた。

「んー、俺にはよくわかんないけど、クリスマスって女の子にとっては大事な日なんだろ?一日ぐらいは良いと思ったからな」

「プロデューサーはクリスマスをどう思っているんですか?」

「うーん、一緒に過ごす人も居ないし仕事があるしあんまり関係ないなぁ」 



12月23日20時ごろ

明日はクリスマスイブ、街を歩けばプレゼントが並んでいる店がいくつもある。
人が多く行きかう街を雪歩は一人で歩いていた。この年頃の子が歩くのには少々遅い時間帯である、
しかもアイドルが歩いているとなるとその危険性は格段にあがる。
しかし今日の雪歩はマフラーで口元を隠して伊達めがねをしていたので誰にも気づかれることは無かった。
街をぶらぶらと歩くだけでも結構楽しいものだ。
ふと一人の女性が目に留まった、プレゼントを買おうとしているのか手袋を見て微笑んでいる、
雪歩にはそれがとても羨ましかった。
自分は一方通行の恋……かは分からないが、自分の思いは伝えてないので今のところは分からない。
しかし、この思いはプロデューサーに届かないだろう。
最近のプロデューサーはやけに春香と仲がよかったし、私と話す時間も少ない。
多分彼がプロデュースしている子の中で一番少ないんじゃないだろうか。

ふと、上を見ると暗い空が広がっている、都会は明るすぎて星が見えなかった。





雪が…見たかった…





温かい何かが頬を伝っていた、それが自分の涙だと気づくととても悲しい気持ちになった。
何かが壊れたように後から後からあふれてくる。拭いても拭いても止まらない。

「…ひっく…………」

だいぶ落ち着いてきたが、涙だけは出続けている。
自分では、この悲しい気持ちをどうすることも出来ないのだ。
まだ泣きたい気持ちだったが外で泣くのは恥ずかしい、とりあえず家に帰るとしよう。


コノキモチハイツウマレタンダッケ


家に帰ってベットにダイブしてマクラに顔を押し付ける。
マクラはどんどん湿っていくが今は構わない。
この悲しい気持ちをどうにかしたかった。 



目が覚めると自室のベットの上、どうやら寝てしまっていたらしい。
枕はすっかり乾いている。
あたりはまだ暗く、どこか不気味である。
カーテンが開いていたが月の光は入ってこない。
ふと、空を見上げた。
最近空を見る回数が増えた気がする。


心の中では分かっていた。
空を見ても無駄だと言うことに。
それでも空を見ていた。
ここ数年都会では起きない現象。
そして、ここ数年見ていない景色。


雪が…見たかった…


空を見るたびに涙が出てくる。
かなわないだろう、恋。
見れないだろう、雪。
もし雪が見れたらこの恋もかなうのではないだろうか。
いつしかそう思っていた。


とりあえず今は泣こう。
気がすむまで。 



12月25日10時

「プロデューサー、今日は雪歩のレッスンじゃなかったんですか?」

ショピングモールに向かう車の中、助手席に座る春香からの質問が来た。

「の、はずだったんだけどねぇ。雪歩がやりたくないっていったから休みにしたんだ」

おっとカーブを間違えそうになった。
む、もうそろそろガソリンがレッドゾーンに入る。

「珍しいですね、雪歩がそんなこと言うなんて」

「だよなぁ、まぁそのほうが都合が良いんだけどな」

「たしかにそうですけどね」

なんて、会話をしていると目的地に着いた。
近所で一番大きいショッピングモールである。



「プロデューサーこれかわいくないですか?」

笑顔で張るかが訊いてくる、こうして見ると春香はすごくかわいい。
自分でプロデュースしときながらその魅力に気づいていなかった。
恥ずかしいと言う気持ちと、この子をプロデュースできた喜びみたいなものがこみ上げてきた。

「よーし、春香!!今日は好きなものを買ってあげよう」

「えっ?本当ですか?」

どこか愛くるしい小動物を感じさせる目で見つめてくる。

「あんまり高いものにしないでくれよ」

「はい、分かりました!!」



ただただのんびり、時間は過ぎていく。 



同日18時
携帯の着信音が聞こえる。
ディスプレイにはプロデューサーの文字が表示されている。
自分のもっとも大切な人だが、彼の大切な人は自分ではない。
今日の午前にショピングモールに買い物に言ったのだ、
その時に見た二人--------プロデューサーと春香の空気は、誰が見ても『デート』であった。
私の……手の届かない場所に居る人。
本当は話したくなかったが、決心して通話ボタンを押す。

「はい、雪歩です」
「俺だ、今すぐ出てこれるか?」

「えーと、大丈夫です」

「そうか、じゃあ公園に来てくれないか」





着替えを済ませて公園に向かう、午前よりかなり気温は下がっている。
吐く息は白く指が動かなくなってきている。 



公園に着くとプロデューサーがベンチに座っていた。
近づくとこっちに気づいたのか、笑いながらこっちを向いた。

「おぅ、きたな」

私が一番好きな人。
そして私以外の人が好きな人。
とても、悲しい気分になったがここで泣くわけには行かない。
しかし、こらえる必要は無かった。
涙が出てこないのだ。
涙が枯れてしまったのか、完全にあきらめたのかは分からない。
けど、不思議と涙は出なかった。



「雪歩、コレを受け取ってくれ」

そう言って差し出された赤い袋。
あけると真っ赤な手袋が入っていた。

「Mary Christmas!! そして一日遅れで悪いが Happy birthday!!」

機能唯一プレゼントをくれなかったプロデューサー。
やよいは「仕事で忙しかったんだよ」と言って慰めてくれたが、とても悲しかった。
やはり自分のことなんて考えてないのだろうと。

「覚えてくれてたんですか」

「当たり前だろ、俺が最も愛するお前の誕生日だぜ」







え?





「い、今なんて言いました?」


「好きだよ、雪歩」

「はぅっ」

そういわれた瞬間いきなり抱きつかれた。


プロデューサーの胸はとても温かかった。
何かで心が満たされた。
涙があふれてきた。
プロデューサーはさっきより強く抱きしめてきた。



「雪歩、上を見てごらん」

言われて上を見ると白いものが見えた。








雪が…降っていた… 



12月某日

「春香ぁー」

この声はプロデューサーだ。
お茶を入れている手をいったん止めてそっちをむく。

「はい、なんですか?」

「今度、雪歩にプレゼントをしたいんだけど、何がいいか分からないからアドバイスをしてくれないか?」

やっぱりプロデューサー雪歩のことが好きだったんですね。
あーあ私も彼氏欲しいなぁ。

「じゃあ、今度一緒に買いに行きますか?」

「ああ、そうしてくれると助かる」

まぁ雪歩なら応援してあげてもいいかな。



終 



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