本気でオンリーユー(Let's Get Married)

作:名無し

 とある日のこと、僕とあずささんは教会の椅子に、神妙な面持ちで座っていた。
今まさに僕らの横を、父親にエスコートされた花嫁が、祭壇の前で待つ花婿の下へと向かっている。
そう、僕らはあずささんの親友、友美さんの結婚式に出席していたのだ。
 ところで、あずささんはともかく、何で僕まで出席しているのかと言うと、以前友美さんの前で
ニセのフィアンセを演じたおかげで、あずささんの元に『プロ太郎』名義の招待状が届いたからである。

 そうこうするうちに式は進み、祭壇の前では花婿が花嫁のベールを上げ、誓いのキスを交わそうとしていた。

「友美・・・、きれい・・・。」

 潤んだ瞳でそうつぶやくあずささんは、心から親友の結婚を祝福しているようだった。
しかし、僕はこの後告げねばならないある事で、頭がいっぱいになっていた。 

 そうして、滞りなく結婚式は終わり、新しく夫婦となった2人は、控え室へと下がって行き、
出席者のほうは、フラワーシャワーで2人を出迎えるべく、教会の扉の外へと移動し始めていた。

「あの、あずささん・・・すいません、タイムリミットです・・・。」
「はい・・・、わかりました・・・。」

 本来なら、この後のフラワーシャワー、ブーケトス、そしてレストランでの披露パーティまで参加する
予定だったのだが、あずささんにはこの後仕事が入っており、どうやっても教会での式に出席するのが
精一杯だった。
一応、前日に断りの電話をしておいたものの、今日は直接、友美さんに『おめでとう』と声を掛けることすら
出来ないまま僕らは教会を後に、仕事場へと車を走らせた。

「お仕事をキャンセルしてまで、パーティに出席したなんてバレたら、友美に怒られちゃいます〜。」
気丈にも式の前に、あずささんはそう言って笑っていたが、車の中のあずささんは、やはり寂しそうな
表情のまま、黙って窓の外を眺め続けていた。 

 そんなあずささんを元気付けようと、僕が考えたある作戦。しかし、これが後々とんでもない
結末を迎えようとは・・・。

 僕らの乗った車はとあるラジオ局へと滑り込んだ。
レギュラー出演しているラジオのDJが今回の仕事である。
幸い今日のゲストも同じ765プロの天海春香という事もあって、リラックス・ムードで
打ち合わせも終わり、
後は生放送の本番を待つばかりとなっていた。
あずささんらがスタジオを離れたスキを狙って、僕は例の作戦を決行すべく、今日紹介される
ハガキの束の一番上に、用意してあったハガキを忍ばせておいた。
その後、誰もいない廊下の隅で、この作戦のもう1つの要であるとある場所へ、電話を掛けて、準備は完了した。
そして、いよいよ本番が始まり、ゲストの春香とのトークが始まった。 

「というわけで、今日のゲスト、天海春香ちゃんです〜。」
「こんばんは〜、天海春香で〜す。宜しくお願いしま〜す。」
「今日はとっても良いお天気でしたが、春香ちゃんは、どこかに出掛けましたか〜?」
「それが〜、今日は1日中レッスンばっかりだったんですよ〜。
そう言えば、あずささんは、どうだったんですか?」
「実は今日、お友達の結婚式に出席していたんです〜。」
「そうなんですか!?じゃあ、このハガキなんか、グッドタイミングですよ!え〜と、ラジオ・ネーム
『プロ太郎さん』からいただきました。」
「えっ!?」
「あずささん、ゲストの春香さん、こんばんは。実は、今日は私の知り合いの女性の大親友(女性)の
結婚式に出席していました・・・。プロ太郎さん、知り合いだなんて、ホントは彼女なんじゃないの〜!?」
「えっ、あ・・・あの・・・。」

 スタジオの中では、少し頬を赤らめているあずささんを前に、春香がアドリブを交えつつ、
ハガキの続きを読んでいた。 

 一方、今から少し前の、とあるレストランでは、本日貸し切りで友美さん達の結婚披露パーティが行われおり、
それぞれの友人達がお祝いの言葉や歌を披露する中、司会者が打ち合わせ通り、腕時計を確かめると、
待ちかまえていたかのように、こう話し始めた。

「それではここで、新婦友美さんへのお祝いメッセージをいただいております。
皆様、しばらくこちらをお聞き下さい。」

 そう言い終わると、店内のスピーカーから、春香の声が流れ始めた。

「彼女は大親友の結婚式に出席できる事を、大変楽しみにしていましたが、あいにく、ある事情で
披露パーティには出席できなくなってしまいました。それでも、結婚式にだけは出席することが出来たので、
親友の晴れ姿は、しっかりと目に焼き付けた事でしょう。そんなわけで、お祝いの気持ちを込めて、
この歌をリクエストします。もし出来るなら、あずささん、春香さんのデュエットでお願いします。
と言うことで、リクエストは、竹内まりやさんで本気でオンリーユー(Let's Get Married)ですが、
あずささん、どうしましょう!?」
「はい・・・、よろこんで歌わさせていただきます・・・。」
「それでは三浦あずさ&天海春香で、本気でオンリーユー(Let's Get Married)、お聞き下さ〜い!!」 

Now let's get married
No need to wait and waste our time
Why do we have to carry on this way?
No one can keep us apart
So,let's get married right away

 こうして、僕の作戦は大成功を収めたかに見えた。いや、この時点では間違いなく大成功そのもので
あずささんもラジオとは言え、祝福の気持ちを伝えられたことですっかり安心し、この後の本番中も、
いつも以上にはしゃいでいるように見えた。そして本番終了間際、なんと当の友美さんからメールで
さきほどの返事が届いたのである。

「あずささん!実は、最初に紹介したプロ太郎さんへ、御結婚なさった彼女の親友の方からメールが届きました〜! 

三浦あずささん、天海春香さん、そしてハガキのプロ太郎さん、お祝いの歌をいただき、ありがとうございました。
今は感激のあまり、涙でメールの文字がよく見えません。ですので、お返事に時間が掛かってしまいました。
ところで、せっかくいただいたお祝いの歌ですが、
歌詞の内容は、どうもプロポーズのように取れます。そうなると、すでに結婚した私達へと言うより、
プロ太郎さんへ、我が親友が送るプロポーズの歌みたいに聞こえるのですが、歌っていただいた
三浦あずささん、天海春香さんは、どうお感じでしょうか!?とのことですが・・・。」

「あ・・・あの・・・そんな・・・」
「いや〜、言われてみたら、その通りですね〜。何だかちょっぴり恥ずかしい気もしますけど。
あれ!?あずささん・・・あずささん・・・!?」

 思いも寄らぬ友美さんの逆襲に、すっかり撃沈されてしまったあずささんは、この後真っ赤になったまま
ボーッとしてさっぱり仕事にならず、僕は僕で、自ら仕掛けた地雷をモロに踏んづけてしまった自己嫌悪で・・・OTL。
かろうじてイマイチ状況を把握していない春香が、フォローしてくれたおかげで、何とか無事エンディングを
乗り切る事が出来たのだった。
 番組終了後、スタッフへのお詫びもそこそこに、僕らは逃げるようにラジオ局を後にした。 

「春香、本当に助かった!感謝してる!!」
「えへへ、そんなこと無いですって。でも、あそこで、ご本人からあんなメールが来るとは
思いませんでしたね、あずささん。」
「え、えぇ、そうね・・・。」
「あれ!?あずささん、どうかしたんですか?まだ顔が赤いような・・・。」
「あ、あ〜っと、そうだ!この先に遅くまでやってるケーキ屋があるんだ。今日のごほうびに、
何でもおごっちゃうけど、どうだ!?春香。」
「え〜っ!いいんですか〜!?やった〜!!」

 その後、車の中では春香とあずささんのケーキ談義の花が咲き、どうにかその場を繕う事に成功した。
そして数種類のケーキを手に、ニコニコ顔の春香を駅まで送った後、再び2人っきりになった車内には、
妙に気まずいと言うか、むしろ気恥ずかしい雰囲気に満ちていた。
それをごまかすかのように、僕たちはとりとめのない会話に終始していた。

「春香ちゃん、大喜びでしたね〜。」
「そうですね。ただ、あいつ最近ダイエットがどうとか、言っていませんでした!?」
「そう言えば〜・・・。」
「こりゃ明日から、ダンスレッスンを増やさなきゃ。」
「あらあら、うふふ・・・。」

 そして間もなく、車はあずささんの自宅マンションに到着した。 

「着きましたよ、あずささん。今日はお疲れ様でした。」
「プロデューサーさんこそ、お疲れ様でした。」
「それじゃ、また明日、事務所で。」
「あっあの、プロデューサーさん、あの・・・ケーキ・・・。」
「いえ、気にしないで下さい。あずささんには、日頃頑張って貰ってるお礼です。」
「いえ・・・その・・・。」

 あずささんは、ケーキの箱を持ったまま、下を向いてモジモジしていた。
もっとも、僕の方もまともに、あずささんの顔を見られないでいたのだが・・・。

「あ、あのっ!」
「はっはいっ!!」
「い、いえ、何でも・・・そうだ!じ、事務所に行かなきゃ!じ、じゃあ、また明日!」

 それだけ言うと、返事も聞かずに、僕はあわてて車を発進させた。

「ケーキ・・・2人分・・・あったのに・・・」

 僕が走り去った後、あずささんが、こう呟いたのを教えて貰ったのは、それから数ヶ月後のこと。
奇しくもあの教会の控え室での事だった。
ちなみに、その後の披露パーティで、僕らが765プロの面々や友美さん夫妻の前で、
例の歌をデュエットさせられたのは、言うまでもない・・・。

終わり 











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