出会い

作:にじょーさん

 偶然、偶然である。その日2人が765プロのビルの前で出会ったのは。
「えっと、萩原さん?おはよう♪」
「あ、天海さん、おはようございますぅ〜」
 最初に挨拶をしたのは、『天海春香』、人懐っこい笑顔を浮かべ、
見る人を安心させるかのような雰囲気をだしている。
 その天海春香に挨拶を返したのは『萩原雪歩』、こちらは春香とは違い、
やや不安そうな表情をし、見る人が守ってあげようと思えるような雰囲気をだしている。
 そして、今ここで2人が出会ったことで、先日のことが夢ではなく現実なのだと再認識することとなり、
これから起こることに不安を募らせると同時に期待に胸を膨らませている。
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出会い

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 天海春香、15歳。趣味はお菓子作りにカラオケで歌うことだが、
将来はステージに立ちファンの前で歌うことを夢見ている。
 そんな彼女が高校1年の3学期末のテストが終わった日に、とあるアイドルプロダクション……
765プロの申込用紙にプロフィール等を事細かく書き、ポストに投函したのだった。
「あぁ、ポストにいれちゃったよぉ、これでもう後戻りはできない……よね。
もし書類検査で落ちちゃったらどうしよぉ」
 不安そうな顔を浮かべながら、首を横にぶんぶんと振り。
「ううん、きっと大丈夫」
 そう自分に言い聞かせながら、笑顔を浮かべ前向きに考えながら、家路についた。


 試験休みが始まり、春香は普段通り過ごそうとしているのだが、やはり結果が気になってしまい、
友達と遊んでいる時も家で居る時もどこか上の空だった。
 試験休みも半ば過ぎた頃にそれは届いた。
「春香〜、765プロって所から手紙がきているわよー?」
 母にそう呼ばれ、慌てて自室から飛び出してくる春香。
「お、お母さん!中は見ないでねっ!?」
 母は苦笑しながら、そんなに慌てなくてもと苦笑しつつ、春香宛の封書を手渡した。
「それで、結果はどうなの?」
 どうやら、家族はもちろん、友達にもプロダクションに応募したことを伝えているようで、
周りの皆も気にかけていた。
「ちょ、ちょっと待って」
 深呼吸を一つしてから、ハサミで封を開け、中身を取り出す。
中身は紙が一枚、それ以外には何も入っていない。ゴクリと唾を飲み込み緊張した顔でおそるおそる、
畳まれている紙を拡げていった。
「えっ!?」
 驚きの声を浮かべた春香の顔には涙が浮かんできて、
驚きの余り声もでないのか、ただ紙を眺めていた。
「春香、どうだったの……?」
 さすがにその表情を見て、母もダメだったのか、と思った。
「お、お母さん、やった!やったよ、私!」
 だが次の瞬間、春香は笑顔を浮かべ、母に『合格』と書かれた、
その紙を飛び跳ねながら見せた。
「良かったわね、春香。これで夢に一歩前進ね?」
「うん、ありがとう、お母さん♪」
 こうして、春香は無事に書類検査に合格した。 

萩原雪歩。15歳。趣味は詩集を書くことと日本茶。
今はとにかく弱気な自分を変えたいと、そう思っている。
 そんな雪歩が、3学期末のテストが終わった時に、友達からあることを聞かされた。
「あ、雪歩―。あなた、自分を変えたいって言っていたよね?」
「え?うん、い、言ったよ?」
 テストも無事に終わり、心を弾ませていた雪歩にそんな声がかけられた。
「そんな雪歩のために、今日学校に来る前に765プロっていう
アイドルプロダクションに応募しておいてあげたわよ!」
 雪歩は一瞬キョトンとなり、次に顔を強ばらせた。
「えぇぇぇ!?わ、私にはそ、そんなの無理だよぉ。それに、お父さんが何て言うか……」
 父に説明を求められている場面を想像しているのか、雪歩の顔は蒼白となっている。
「まぁまぁ、とりあえずは書類検査だし、それが落ちていたら何も無し。
もし受かったとしていても、その時に次の面接行くかどうか考えたら?」
 友達は軽く言っているが、逃げ場さえ無い状況にすると
雪歩は見かけによらずやり通す力を持っていると知っているからこそ、応募したのだ。
「で、でもぉ。やっぱりお父さんが何て言うか……」
「もう!雪歩、そんな性格を直したいのでしょ!なら頑張って見ようよ、ね?」
「うぅ、じゃ、じゃあもし、もしだよ?その書類検査に受かっていたら頑張ってみるね?」


 雪歩は頑張ってみると宣言をしたものの、やはりハラハラした試験休みを過ごしていた。
 試験休みも半ば程過ぎた日、雪歩は父に呼ばれた。
「雪歩、なんだこの765プロダクションというのは?」
 どうやら、私が先に郵便受けから抜き取る前にお父さんに見つかっちゃったみたいですぅ。
「雪歩?なんだと聞いているのだ」
「え、えっと、学校の友達が勝手に応募しちゃって……」
 父に睨まれ、びくびくしながら辛うじてそう答えた。
「そうか、じゃあこれは雪歩にはいらないものだな?」
 父が、その封書を破ろうとした時、言いようのない感覚に捕らわれた。
 このまま、破られたらもう自分は変われない、一生かけても変われる事なんてできない!
「ダ、ダメですぅ!」
 そんな思いからか封書の端の方は破れてしまったが、父の手から封書を奪い取ることができた。
「私はっ、私はこんな自分を変えたいのですぅ!だ、だからこれは私自身で決めたことですっ」
 普段の雪歩からは考えられない、強い意志、行動。それらを見た父は、フッと微笑を浮かべた。
「そこまで、言うのなら儂が言うことは何もない。だが、やるからには中途半端はゆるさんぞ」
 雪歩に背を向け、去って行く父。それを見て、改めて封書を見た。
「変わる、今はまだ無理かもしれないけれど、きっと……」
 呟きながら、封書を開けて折り畳まれている紙を見ると、『合格』の文字が見えた。 

2次審査は面接である。面接と言っても765プロは人手が足りない状況なので
面接官は社長のみ。つまり、2次審査と言う物の実質これが最終審査でもあるのだ。
「音無くん、今日の面接は何人かね?」
 訊ねたのは765プロの高木社長、そして訊ねられて、
机の上の書類を読んでいるのは事務員である音無小鳥さんである。
「えっとぉ、今日は天海さんに萩原さんの2名ですね。確か書類検査の写真を見て、
これは良いって言った後にプロフィールを読んで採用を決めたはずでは?」
 そう、この2人は既に採用が決まっているのだった。
だが返信用の封書でそれを伝えてもあっけなすぎるということから、
形式上の面接もすることにしたのだった。
「写真の顔を見ただけでわかるよ、きっとこの2人は世間をアッと言わせるアイドルになる。
私にはそれがわかる」
 うんうんと1人頷いているのを見ながら、小鳥さんは苦笑を浮かべていた。
「それにきっと、この2人なら今の765プロをも変えてくれるさ」
 今現在の765プロはアイドルプロダクションとは名ばかりで所属している
アイドルは数名いるもものなかなか仕事に恵まれず、
さらにアイドルがいてもそれをプロデュースする人間も足りてない状況である。
「それで社長?当分2人にはアイドル候補生としてレッスンを受けてもらいますが、
プロデューサーはどうするのです?」
「う、うむぅ、それが今一番の悩み所だな、
2人には3月いっぱいはレッスンを受けてもらうこととして、4月には新しいプロデューサーを雇わないとな……」


 試験休みの最終日に2人の面接は行われた。
その前日まではまだ書類検査を通過しただけだというのに、
春香も雪歩も友達たちに採用が決まったかのようなテンションに包まれ、毎日のように遊びに誘われていた。
「あぁっ、遅刻しちゃう!」
 そう言いながら走っているのは春香で、どうやら昨日の夜は緊張のあまりなかなか寝付けなかったようだ。
「765プロ……765プロっと、あ、あった!あれかな?」 春香の目に止まったのはビルの3階にある765プロの文字。
だがそれは窓にガムテープで書かれている文字、
信号待ちでそれを眺めながら少し信じられないと言った感じであった。
「外見だけで判断しちゃダメだよね、うん!行ってみよう」
 時間もなんとか間に合い、ホッとした時。
「「きゃっ!」」?
 765プロの文字を見上げながら歩いていたので、
前から歩いてくる人に気がつかず、そのままドンッとぶつかり、2人とも転んでしまった。
「いたたた……あぁ!ご、ごめんなさい!私ったら前も見ないで歩いていたから!だ、大丈夫ですか?」
「い、痛いですぅ……うぅ、ご、ごめんなさいぃ〜、前も見ずに歩いていたので、だ、大丈夫ですかぁ〜?」
 同時に2人が謝るので、2人共顔を合わせた。
(うわ、可愛い子、この子がアイドルにだったら思わず守ってあげたくなるなぁ、人気もでそう)
(うぅ、すっごく可愛い人ですぅ、きっとこんな子がアイドルなんですぅ)
 まず、最初に立ち上がったのは春香だった。
「え、えっとごめんね?立てる?」
「あ、はい、す、すいませんでしたぁ」
 春香が差し伸べた手に掴まり、立ち上がった雪歩。お互いに身だしなみを整え、改めて向き合う。
「ほんとにごめんね?痛いところとかない?」
「い、いえ、こちらこそすいませんでしたぁ」
 お互い謝りながら、765プロの事務所があるビルの入り口に向かって歩いた。
(あ、あれ?この子も765プロに?も、もしかして本物のアイドルだったとか!?)
(うぅ、この人本物のアイドルさんだぁ、きっとこれからの面接官だから、
うぅ……そんな人とぶつかった私はきっと不採用ですぅ)
 そして、同時に765プロのドアをくぐり抜けた。
 一歩部屋に入るとそこは事務室のようで、小柄な女性が1人電話応対をしていたが、
2人に気が付いたのか、電話をしながら少し待っててとジェスチャーをしてきた。
2人は物珍しそうに部屋を眺めながらその場で待っていた。
「えっと、天海春香ちゃんに萩原雪歩ちゃんね?」
 電話が終わったのか、小柄な女性が2人に近づいてきて尋ねた。
「私は765プロの事務を勤めている、音無小鳥よ。これからよろしくね?」
「は、はい!よろしくおねがいします!」
「お、おねがいしますですぅ!」
「じゃあ、社長が待っているから、着いてきて」 

小鳥さんに案内された部屋には既に社長が座っていて、笑顔で2人をイスに勧めた。
「やぁやぁ、よく来てくれたね、2人とも。うむ、では早速で悪いが、一つだけ聞かせてくれ」
 小鳥さんが部屋のドアをパタンッと閉め、少しの間静寂が訪れた。
2人とも真剣な顔になり、社長の言葉を待った。
「2人とも、もしこのまま採用されてたとしてもだ、うちで働くかい?
見ての通りうちは弱小と言っても過言ではない、
2人ならもっと別のプロダクションのオーディションにも受かるかもしれない」
 社長のその言葉に2人は驚いた顔になった。
「こ、この子765プロのアイドルさんじゃないのですか!?わ、私てっきりここのアイドルさんだと……」
「えぇぇっ、わ、私なんかアイドルなんかじゃないですぅ!アイドルって今、私の目の前に居る人の事ですぅ!」
 お互い顔を見合わせ、驚き顔からさらに信じられないと言った顔つきになっていく。
「なんだね?2人は知り合いじゃないのかね?小鳥くんが一緒に案内してきたから、
てっきり知り合い同士だと思ったよ。」
「い、いえ、さっきビルの前でぶつかって、そのまま一緒にここまで」
 春香がそう言うのを隣で雪歩は首を縦に振っていた。
「そうか、では、自己紹介もまだだったのか、いやはや済まないな、
私の早とちりで。それで、自己紹介は後になってしまうが、さっきの質問はどうかね?」
 再び真剣な顔になり、まずは春香が話し出した。
「わ、私は歌うことが大好きで、なによりはやくステージに立って歌いたいです!
なので、もし採用を頂けたら、765プロでアイドル、やりたいです!」
 社長をまっすぐ見、どこまでも純粋な瞳を輝かせている。
その瞳には誰にも曲げられない程の力を感じ、社長も感嘆の息を零した。
「わ、私はこれまで、なにをやってもダメな子で、弱気で、泣き虫で……でも!
そんな自分を変えたいから!是非ここでアイドル、やらせてください!」
 春香と同じように目を輝かせ、そしてその意志を貫き通すという力を感じ、社長は大きく頷いた。
「うむ、よく言ってくれた、2人とも。ようこそ、765プロダクションへ」
 その瞬間、2人はアイドル候補生として765プロに迎えられた。



 結局その日は採用が決まっただけで、終業式が終わり春休みに入ってから再び事務所に集合となった。

偶然、偶然である。その日2人が765プロのビルの前で再開したのは。
「えっと、萩原さん?おはよう♪」
「あ、天海さん、おはようございますぅ〜」
 そして、今ここで2人が再開したことで、
先日のことが夢ではなく現実なのだと再認識することとなり、
これから起こることに不安を募らせると同時に期待に胸を膨らませている。

 2人揃って再び事務所に訪れると最初に来たとおり、小鳥さんが出迎えてくれ、休憩所に案内してくれた。
「しばらくすると社長が来ると思うけど、それまではちょっとここで待っていてね?」
「はい♪」
「わかりましたぁ」
 あの面接が合った日もあまり話せなかった2人だったが、今日会ったらまず言うことは決めていた。
「私は、天海春香、春香って呼んでね♪」
「わ、私は萩原雪歩、雪歩って呼んでくださいぃ」
 そして、2人の手は固く握手で結ばれていた。



 これが後にトップアイドルとなる『Pastel R@inbow』の出会いであった。 






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