花の名

作:ファル

その日は朝から雨が降っていた。
秋には珍しくない、長雨である。

「簡単な事なのに…どうして言えないんだろう…」

この時、三浦あずさは一人で悩んでいた。
この女性、自分のプロデュサーを好きになってしまい、その気持ちを
伝えられないでいるのだ。しかし…。

「あずささん。お話があります。」

突然プロデューサーに呼び出され、2人は会議室へ。そこでPの口から
思いがけない言葉が飛び出した。

「俺…あずささんのこと…好きです。」

「!!!」

あずさが言えないと思ったことは、既に伝わっていたのだ。

「一緒にした事は忘れてしまうけど…一緒に居た事は片時も忘れなかった。」

「あずささんが野原に咲く花だったとしたら、たくさんのそれらと変わりないのかもしれない。」

「そこから一つ…あずささんを選んだ俺だけに、その気持ちはある。」

「その気持ちは、あずささんにも分かっていて、同じことを思っているはずです。」

Pも、あずさの事が好きだったのである。
Pは話を続ける。 


「俺が在る事は、あずささんと居た証拠で、俺のこの気持ちは、あずささんも同じ気持ち持ってるって証拠で。」

しかしその直後、またしても衝撃的な発言が。

「だけど…あずささんの気持ち…俺は受け取れません。」

なんとPは自分が好きであるにもかかわらず身を引こうというのだ。

「なぜですか!!!気持ちが同じなら一緒になりましょうよ!!!。」

「俺はあずささんに生きる力をもらった。だから生きてるうちに返さなきゃいけない」

「だから俺のこと…泣く事や笑顔を忘れたときだけ、思い出してください。」

Pはそれで口を切った。しかし納得できないあずさは…

「どうして一緒になれないんですか!!!理由を教えてください!!!。」

Pに対して理由を求めるあずさ。Pは口を開き、説明した。

「皆俺のこと…待ってるんです。だからあずささんに付きっ切りにはなれない。」

「会いたい人が居るのなら…いつでもそれを待ってる人がいるんですよ。」

Pはここで口を切った。すると、あずさは納得し…。

「そうなんですか…。」

落胆した表情を浮かべて席を立とうとした。その時。

「あずささん。俺とあずささんにだけに聞こえる歌がある事。
あずささんに会いたい人がここに居る事だけは、俺が居なくなっても忘れないでくださいね。」

あずさは満面の笑みで振り返りこう言った。

「はい。分かりました。」

その時、外の雨は止み、花から一粒の雫が流れ落ちた。 



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