兄ちゃん以上恋人未満

作:となめし

この間、真美が兄ちゃんにねだって買ってもらった指輪。
きっと駄目だって言われると思ったけど、しょうがないなぁって言って買ってくれた指輪。
それがすっごく嬉しくて、何度も指に嵌めたり取ったりした指輪。
銀色と金色が真ん中で交差してて、まるで亜美と真美みたいな指輪。
でも亜美には秘密にした。
兄ちゃんと真美の秘密にしたかった。
二人だけの秘密に……したかった。

だけどこないだの音楽番組に真美が出たとき、うっかり指輪をつけたまま出て、
黒いサングラスの司会のおっちゃんに「お、かわいい指輪だね」って言われちゃった。
その時は褒められて嬉しかった。
それに司会のおっちゃんに「誰から貰ったのかな?もしかして恋人?」なんて言われちゃって……
そしたら兄ちゃんの顔が頭に浮かんで……顔が赤くなるの、自分でもわかった。
でも、それがいけなかったんだね。 


収録の次の日に亜美がレッスン室から出てきたとき、真美すごい驚いちゃった。


だって亜美が真美と同じ指輪をしてるんだもん。


二人だけの秘密にしたかった指輪。
司会のおっちゃんに恋人からもらったの?って言われた指輪。
兄ちゃんは、真美が指輪をつけたままテレビに出たから亜美にも買ったんだ。
すぐにそれは気付いた。
二人一役の亜美真美ならしょうがないと思った。
でも、亜美が同じ指輪をしてるのを見た瞬間……胸がキュッて苦しくなって……

「ねぇ真美!兄ちゃんから指輪もらったよ!
……あ、真美ももらったんだね!おんなじかな?見して見してー!」

買ってもらった日以来、何度も何度も指に嵌めて眺めていた指輪。
だから亜美がレッスン室から出てきたときに、遠目からでもすぐわかった。
確かめるまでもない。
それは、兄ちゃんが“真美“に買ってくれた指輪と……同じ。
そして亜美が手に、指輪に触れそうになったとき…… 

「やめてっ!」

と亜美の手を弾いてしまった。

「ま、真美?」

亜美は驚きながらこっちをみてる。

「……っ!」

気付くと、走ってた。
事務所を飛び出して、近くの公園に走ってた。 


ねぇ、兄ちゃんは真美に指輪を買ってくれたんじゃないの?
真美だから買ってくれたんじゃないの?
真美に特別に……買ってくれたんじゃ……ないの?
あの時、真美じゃなく亜美がねだってれば……亜美に指輪を……?

涙が込み上げてきた。
次から次へと、ぽろぽろと。
すごく胸が……苦しい。

だけど、

今までわからなかった、兄ちゃんへのもやもやとしたこの気持ち。
今なら、はっきり分かる。



兄ちゃんは、真美と亜美、どっちが、好きなの?



「ま、真美!どうした!?」

真美の後ろに兄ちゃんがいた。
手を膝に付けて、肩で息をしながら。
兄ちゃんの方へ振り向く。
そして、髪を解いて逆を結ぶ。
これで真美は亜美になった。

「真美……?」

「ううん、亜美は亜美だよ?」

「どうしたんだ?ホントに」

「亜美があの時、指輪をねだってれば……亜美に指輪買った?」

「え……?」

突然の質問に兄ちゃんは戸惑ってるみたい。

「あのさ……兄ちゃん」

今度は髪留めをはずした。
アイドルの亜美じゃなく、亜美と双子の真美でもない。

一人の真美として。

きっとこの気持ちを伝えても兄ちゃんには、まだ早いって言われちゃう。
でもやっと気付いたこの気持ち、我慢できない。

もう「兄ちゃん」じゃ、物足りない。




「兄ちゃん……真美ね、真美、兄ちゃんが……!」




(了) 



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