やっぱり今年も残念会

作:名無し

「お疲れ様、プロデューサー」
「ああ、律子もお疲れ様」

日が沈んだ頃、765プロのアイドル達が集まって大騒ぎした
クリスマスパーティ(&雪歩のお誕生会)もやっと終わり、
後片付けも終わって大人組(あずささん、春香、雪歩、真)も帰宅した。

事務員組(含む兼任)の小鳥さん、律子と俺(プロデューサー)だけが残っていたのだが、
小鳥さんは用事があるとかで、ニヤニヤしながら経理関係の仕事を俺に丸投げしたまま
さっさと帰ってしまった。いつもの小鳥さんなら昨日のうちに終わらせていても
おかしくないような仕事なのに、パーティーの準備で出来なかったとかなんとか。
これからデートの予定でもあるのだろうか?昨日から妄想して作業が手に付かなかったとか?
結局、事務所に残ったのは律子と俺の二人だけだった。

「…で、プロデューサー殿の今晩のご予定は?誰かとどこかに行くとかあるんですかぁ?」

口調はニヤついているのに顔は笑っていない。絶対に変だ。
でも下手につついてヤブヘビを出すメリットも無いので素直に答えた。

「ちょっと事務仕事が残っているから、それをやってから帰宅だな。特に予定はない」
「本当に?これから仕事して帰るの?それだけ?」
「本当だ。小鳥さんに頼まれた仕事を終わらせたら帰って明石屋サンタでも見て寝る。それだけだ」
「…ぷっ」
「?」
「くっくっく、あはははは!本当に今年も一人なんだぁ!」
「ああ、笑いたければ笑えよ」
「あっはっはっはっは!!はっはっはっはっはっは!!!」
「人を指刺して笑うな!ちょっと笑いすぎじゃないか?そういう律子はどうなんだ?」
「あはははは!はー苦しい。私は友達のクリスマスパーティーに合流する予定です。
 それではごきげんよう。メリークリスマース!」

ひらひらと手を振ってバイバイしている。はいはい、もうどこにでも行っちまえよ。
と本気で思ってしまったが、でも律子はにまーっと笑いながらこっちに来た。
上目使いに俺の顔を覗き込みながら呟く。

「ほーんと、このプロデューサーさんは、なーんで今年も一人なんでしょーねー?」
「どういう意味だ」
「べっつにー、ふんふふーん」
「なんなんだいったい…」 

「さっきは笑っちゃってごめんなさい。そのお詫びといっちゃなんだけど、
 とっても可愛いアイドル秋月律子が、ちょこっとだけお手伝いしてあげます」
「律子、言ってて恥ずかしく無いか?」
「(無視して)はいはい、さっさと仕事を始めましょ。まず仕事の内容と量をまとめて報告してください。
 次にその仕事を3分の1ずつに分けて二人でやりましょう。
 その時の作業速度を見て残り3分の1を割り振ります。いいですね?」
「了解」

こういう時の律子は本当に頼りになるな。でも友達のクリスマスパーティーはいいのか?

「大丈夫、今から遅れるって連絡を入れてきます。
 その間にプロデューサーは作業をまとめておいてくださいね。」

そして律子は携帯電話を持って更衣室の方に行った。
俺は小鳥さんに頼まれた仕事をまとめる。まとめ終わった頃に律子が戻ってきて、
そのまま二人で黙々と仕事を始めたのだった。

……カタカタカタ、カタカタ……。(仕事中)

仕事は小一時間程で終わった。結局仕事の3分の2を律子がやってしまったので
俺の立場が無い。俺が駄目なんじゃない、律子が優秀なんだ!
って俺は誰に言い訳をしているんだ。

律子はコーヒーを入れて来ると言って給湯室に行ってしまった。
まだ急げば友達に合流できるような気がするが、しなくていいのか?
なんて思っていたら突然事務所の電話が鳴った。
この時間に電話とか、嫌な予感しかしないのだけれど
これも仕事だ、しぶしぶ受話器を取る。 

「お電話ありがとうございます。こちらは765プロです。」
「あの…765プロってこちらですよね?」

高校生くらいの女の子の声。背後でパーティー中のような
盛り上がっている声が聞こえて来る。
誰なのか何の用なのかさっぱり予想がつかない。
一応いたずら電話ではないようだけど、なんだろう。
とりあえず丁寧に応待する事にする。

「はい、そうですが」
「律子のプロデューサーの人っていますか?」
「はい、それは私ですが、どういったご用件でしょうか?」
「律子の仕事についてお話があるんですけど。」

今から年末年始の仕事を増やされるのは正直勘弁して欲しい。
今日オフになるようにスケジュールを調整したおかげで
以後は年始までパンパンにスケジュールが詰まっている。
今言われて仕事を入れるのはどう頑張っても無理だ。
しかし電話の内容はそういった類のものではなかった。

「今日みたいな日まで律子をこき使うのはやめてもらえませんか?
 せっかくの特別な日に、そんな事務所で仕事を手伝わされる
 女の子の気持ちが貴方にあっヒトミ!(ガチャガチャッ)」

…えーと。何が起こっているのかさっぱりわからない。何故突然説教が?
向こうでひと悶着あったらしい後、違う女の子が電話に出た。

「はいはいお電話かわりましたー。私はヒトミって言います。
 さっきはアカネが変な事言っちゃってごめんなさい。
 私たちはりっちゃんの友達で、今クリスマスパーティーやってるんです。
 ただ、もうそろそろお開きなので、今から来ても間に合わないってりっちゃんに伝えてください。
 あとはりっちゃんに「頑張れ」って伝言をお願いします。」
「わかったよ。必ず伝える。」

何を頑張れなのかはよくわからないけど。 

電話を切ってしばらくして、律子が湯気の出ているマグカップを2つ持って戻って来た。
二人で静かにコーヒーを飲みながら、アカネとヒトミって娘から電話があった事と、
パーティーがもうすぐ終わる事と「頑張れ」を伝えたら、
「頑張れ」の所で律子はブッ!とコーヒーを噴き出した。
今はうつむいてブツブツ言いながら机を拭いている。

「というわけで、誰かさんのおかげで私の今後の予定も無くなっちゃったわけですが」
「責任は取るよ。去年と同じような残念会になるけどいいか?」
「ふっふっふ、望む所です。食べ物も飲み物もさっきの残りが
 いっぱいありますし、夜中までつきあってもらいますよ?」

それからは、一度片付けたケーキやピザやチキンの残りをまた机に並べて
二人だけのパーティーを開催。夜が更けて日付が変わるまで、いつもよりも
ちょっとプライベートな話で盛り上がった。途中からはやっぱり仕事の話と説教
になっていたけど、それも二人らしいと言えばそんな気もする。

「律子、今日は楽しかったよ。ありがとう。」
「いえいえ、どういたしまして。また残念会ってのもシャクだけど、いつでも付き合ってあげますよ」
「あのな律子」
「へ、なんでしょう?」
「…来年もこんな感じに過ごしたいな」
「私は嫌ですよ、また事務所で残念会なんて…」

それはどういう意味だー。

「…来年は回らないお寿司屋さんにでも連れてってくださいね」
「ははは、値段を見て俺が目を回しちゃうから無理だな」
「誰がうまい事を言えと」

律子を送っていく帰り道、律子と並んで歩く二人の距離は、
今までより少し近くなっている気がした。 







おまけ(帰り道での出来事)

「あーさむいさむい、てがつめたくてこごえちゃうよー」
「…何を言ってるんだ律子?」
「てがつめたくてこごえちゃうよー あたためてほしいよー」
「……。」

…ぎゅっ(握る)
ぎゅぎゅっ(握り返す)
ガシッ(手を繋ぐ)
ぐにぐにぐにぐに(ぐにぐにする)

「あ、プロデューサー!」
「なんd(ガン!)はう!」
「…もう、しょうがないなあ…。」

Pが電柱に激突してしまったので、それまでのいい雰囲気もすっかり吹っ飛んじゃいましたとさ。 






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