BLUE BIRD

作:名無し

 ♪蒼い鳥 もし幸せ 近くにあっても……♪

 深夜、私はヘッドフォンから聞こえる、自分の歌声で目を覚ましました。
そっとヘッドフォンを外してみると、階下の“アレ”はもう治まったようです。
毎日のように繰り返される、両親の諍い事。その度に、私は自分の部屋に閉じ籠もり、
ヘッドフォンでCDをエンドレスで聞くようにしています。
そうしないと、“それ”が耳に入って来てしまうから……。

 今日はそのまま、うたたねをしてしまったのでしょう。
私は、CDを止めると、灯りを消し、本格的にベッドの中にもぐり込みました。

(メーテルリンクの“青い鳥”は、実は身近に居たというのに、私の“蒼い鳥”は
少なくとも、我が家には居そうにない…。)

 先ほどまで聞いていた歌のせいでしょうか、そんな事を思いながら
私は眠りに落ちて行きました。 


 翌朝、日課のジョギングから帰って来ると、すでに家の中は空っぽになっていました。
テーブルには、母のいつものメモと、お金が…。朝食すら作る気にならなかったという事なんでしょう。
私はシャワーを浴び、トーストとミルクで朝食を済ませると、
再び部屋に籠もり、CDを聞いていました。

 いつもならこうしてCDの楽曲について、あれこれと考えているうちに、段々とそれに引き込まれ、
そのうちに、イヤな事も忘れてさせてくれます。
しかし、今日だけはなぜか、いつものようにCDに集中できません。

(ふ〜っ!)

 私はため息をつくと、服を着替え、家を出ました。

(何か新しいCDでも探そう…。)

 そんな事を考えながら、私は街の方へ歩き始めました。 


しばらくして、私はいつものCDショップの中にいました。
今日は開店直後というのに、なぜか大勢の人々でごった返しています。
私が、クラシックのCDを探そうと、人混みを避けて歩いていると突然、私は左腕を掴まれまたのです。
ハッして、そちらを向くと、その女性は私の腕を掴んだまま
急いでスタッフ専用扉に向かっていたため、後ろ姿しか見えません。

(ひょっとして、万引きか何かと間違えられたのでは!?)

 私はパニックになってしまい、一言も言えないまま、店の奥に連れて行かれました。
やがて、女性はある部屋の扉を開け、私と共にその中に入ると、初めて口を開きました。

「プロデューサー!もう1名、確保しました。」

聞き覚えのあるその声、そのセリフ、何より特徴あるその髪型!
そう言いながら、こちらを振り向いた女性は、誰あろう、秋月律子だったのです。

「り、律子!?」

慌てて周りを見回すと、そこには律子の他にも、ヤレヤレといった顔をしたプロデューサーと、
ニコニコと微笑むあずささん、さらに、バツが悪そうに笑う春香がいたのでした。 


「もぅ!千早まで来るとはね…。」
「あ、あの、これは…。私はただ、CDを…。」
「ハイハイ…。その言い訳は、もう春香が使っちゃったから。」
「あら〜!?千早ちゃんもCDを?じゃあ、道に迷ったのは私だけかしら〜?」
「あ〜もぅ。あずささんが、本当に迷ったのは納得しましたから。」
「あ、あの、律子、春香も。これはいったい…。」
「千早ちゃん…。もうバレちゃってるから。千早ちゃんも、本当は美希の様子を見に来たんでしょ!?」

 と、その時、先ほどのドアが開き、部屋の中に765プロの新人アイドル
星井美希が入って来たのです。

「あ〜っ!千早さんまで増えてる〜!!アハハ。」
「ちょっと美希!アハハじゃないでしょ!まったく。
あんたの初めてのミニライブを心配して、来てくれてるんだからね!」
「まぁまぁ、みんなチカラ入り過ぎ。もっと気楽に行こうよ。あふぅ…。」
「あ、あふぅって…。プロデューサー!何とか言って下さい!!」 


「コラ!美希。先輩が心配してくれてるのに、アクビは失礼だろ!」
「はぁ〜い。ごめんなさ〜い。」
「まぁ、こいつの日頃の言動にも問題があるんだが、それにしても、お前らも心配し過ぎじゃないか!?」
「そうね!いくら新人のイベントとは言え、うちのトップクラスが3人も集まったら
客寄せどころの騒ぎじゃなくなるのが、わかるでしょ!」

 今日、このCDショップでは、新人アイドル星井美希のCD発売ミニライブが開かれる予定で、
律子はその裏方の手伝いにやって来ていたのでした。
律子にピシャリと言われ、私も状況を把握すると共に、誤解にせよ
結果的に配慮に欠けた行動だった事を反省していました。 


「どうやら、目ざといファンの何人かが、気付いたようですし…。どうします?プロデューサー。」
「う〜ん。この際、みんなにもバックコーラスとかで協力してもらわないと、お客は納得しないだろうな。
よし!店の方はオレが何とかしよう。律子は美希以外の衣装を何とか見繕ってくれ。
あと、曲の練習とかは…千早、お前に頼む。」
「えっ!?私がですか?」
「あぁ。こういったのは、うちじゃお前が1番だからな。」
「そうだよ千早ちゃん!レッスンでも千早ちゃんと一緒だと、結構緊張するもん!」
「春香まで…。わかりました、やってみます。」
「よし!開演まで1時間ちょっとだけど、頼むぞ、みんな!」
  「「「ハイ!」」」
「じゃあ、衣装を探して来ます。任せて下さい!ちょっとアテがあるんです!」

 そう言って、律子は外に飛び出して行き、同様にプロデューサーも、
店側との打ち合わせに出て行ってしまいました。
残されたのは、4人だけ。私たちもボヤボヤしてはいられません。

「さぁ!それじゃ、まずは美希。とりあえず歌ってみて。」 


 その後、行われたミニライブでは、美希までが律子の持ってきた衣装を着て出演し、
ファンはその衣装のユニークさに驚くと共に、私たちのパフォーマンスに大喝采を送り
美希のミニライブは大成功で幕を閉じたのでした。

 それからしばらく経った後、次の仕事に行った美希とプロデューサーを除く
私たち4人は、すこし離れたとあるカフェで、打ち上げと称し、楽しげにお茶を飲んでいました。

「いや〜、それにしても、盛り上がったわね〜。歌の方も、なかなか良かったんじゃない!?」
「そりゃそうですよ〜。千早ちゃんの練習の厳しさって言ったら…。」
「当たり前よ、春香。即興とは言え、お客の前に立つんですから。」
「ウフフ…。そうですね〜、あの美希ちゃんでさえ、最後の方は目の色が変わってましたし〜。」
「ええっ!?そんなに厳しかったですか?あずささん。」
「まぁまぁ。でも私たちもさることながら、今回盛り上がったのは、この衣装でしょう。
よくこんなの見つけて来ましたね。律子さん。」 


 そう、実は私たちは、その時のお揃いの衣装のまま、街に出掛けていたのでした。
その衣装とは、白いブラウスにグリーンのベスト、胸元には紫のリボン、
黒いスカートに、ニーソックスと、まさに、小鳥さんと同じ事務服だったのです。

「フフフ…。事務員律っちゃんはダテじゃないって事。
今回のメンバーは、服のサイズもバラバラだし、同じデザインとなるとね…。
そこでピン!ときたのが、うちの事務服を扱ってる所が、この近所だったって事よ。
事務服なら、サイズも豊富に揃ってるしね。」
「そうだったんですか。でも、いいんですか?この格好のまま出て来てしまって。」
「大丈夫だって、千早。この格好のほうが、遅いランチを楽しむ
OL4人組って感じで、むしろこの辺りじゃ目立たないから。」

「それはそうですけど…。でも、この格好で家に帰るのはちょっと…。」
「あ〜っ!私も、これで電車に乗るのは……。」
「あらあら〜、困りました〜。」
「う〜ん、しょうがない。とりあえず、一旦事務所に帰りましょ。事務所なら着替えも出来るし。」
「そうですね〜そうしましょうか〜。」 


 こうして、お茶を終えた後、私たちは揃って事務所へと向かいました。
その後、事務所に入った私たちを見た小鳥さんを始め、その場にいた全員が飛び上がり
再び一騒動あったのは、言うまでもありません。

 その日の夜、ベッドに入った私は、なぜかいつまでもニヤニヤが止まりませんでした。
今日はハプニング続きで、とても疲れたと言うのに…。
気の置けない仲間と、同じ目標に向かって、歩んで行く…。
私の歌う“蒼い鳥”とは違うけれど、これを幸せと感じるなら、それは“青い鳥”なのかもしれません。
そして、私は微笑んだまま、眠りに落ちていきました。

おしまい。 






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