ある日の昼下がり、事務所にて2

作:4-510

 ある日の昼下がり、事務所にて。
 今日の春香はおかしい。誰かが口にした訳ではないが、765プロの全員が共通の見解を抱いていた。
 何しろ、今日に限って全く転ばないのである。『団結』の歌詞で、「一日一回転びます、イェイ♪」と自ら
ネタにするほどであるというのに。
「……ところで春香、今日は頭のリボンが一つしかないんだな」
「あ、今朝寝坊しちゃって付け忘れたんですよ」
 プロデューサーの指摘に、片手を頭に当ててあははは、と笑う春香だったが、結局、この日は一度も転ぶ事は
なかった。
 そして翌日、ちゃんとリボンを左右につけてきた春香は……
「おはようございまー、ああっ!?」
「……」
 ……出社早々転んでいた。そんな春香を助け起こしつつ、
(もしかして、頭のリボンのせいでバランスがとれなくなってたりするんじゃないだろーか)
 いや、まさかそれはないか、などと極めてどーでもいい事を考えるプロデューサーなのであった。

 ある日の昼下がり、事務所にて。
「そう言えば、やよいは野球好きなんだっけ?」
「はい! 弟とよく遊んでましたし、お父さんがテレビゲームで持ってたので一緒にやったりしてました」
 雑談の途中、ふと野球の話になった。やよいの元気な返事に、ついプロデューサーの頬も緩む。
「そうかそうか。
 それじゃやよい、好きなチームとか監督とかってあるかい?」
「はい、監督はぴぴさんじゃないといけないと思うんです!」
「……は?」
「あと、最近モモが投手に転向してますけど、やっぱり野手じゃないと」
「ナム○スターズ(註1)か!? やよい、あれはゲームの中だけのチームで」
「次回作では我らが765プロのアイドルも出演予定だ」
「マジですか社長!?」
 会話を聞いていたらしい社長が横から一言入れ、プロデューサーは思わず物凄い勢いで振り向いた。

 ある日の昼下がり、事務所にて。
「すぴー」
 美希熟睡。

 ある日の昼下がり、事務所にて。
「それにしても、美少年アワード、なあ……」
「ねえ……」
 プロデューサーと真は顔を見合わせて微妙な表情をする。彼らの前には、先ほどの表彰式で貰ってきた
トロフィーが鎮座ましましていた。
「……それにしても」
「はい、プロデューサー」
「普通なら女性ってことで審査対象にはならないし、百歩譲ってノミネートされてもせいぜいネタ止まりだろ。
 よく受賞まで真で通しちゃったもんだな、この運営委員会」
「よっぽどマトモな人いなかったんでしょうかね、今年……」
 はああ、と二人揃って溜息。
「……もしかしたら」
「もしかしたら?」
 はたと動きを止めるプロデューサーを、覗き込むように見つめる真。ちょっと顔が近い。
「……真、って名前から女だと気づかれなかった、とか」
「い、今更それはないですよぉ、プロデューサ〜……」
 とほほー、と机に突っ伏す真を眺めつつ、それにしたって普通男選ぶよな常識的に考えて、と頬杖をついた。

 ある日の昼下がり、事務所にて。
 会社では昼休みに食事の時間を充てるのが常だ。無論、我らが765プロも例外ではなく、所属するアイドル達も
この時間に事務所にいるならば、勿論昼休みに昼食を摂る。
 今日は、春香と千早が二人で昼食を摂るようだった。二人は談笑しつつ休憩室のテーブルにつくと、早速
手持ちの昼食を取り出した。
 母親の手作りと思しき弁当を広げながら、春香は千早の手元を見る。
「千早ちゃんって、いつもお昼コンビニなんだ?」
「そうね。お弁当、作れないから」
 本当はそれだけでもないのだが、家庭の事情を話す気もない。千早が適当に濁すと、春香は「そっかー」と頷いた。
 千早がコンビニの袋から取り出したそれを見て、ホクホク顔だった春香の目が見開かれる。
「ちょ、ちょっと、千早ちゃん?
 それが……お昼ご飯?」
「ええ、そうよ」
 平然と頷く千早に、春香は目を白黒させる。
「ブロック型のバランス栄養食(註2)と、ドリンク型のバランス栄養食(註3)……た、足りるの?」
「これって結構、お腹に溜まってくれるのよ。栄養面もバランスは取れてるし」
「そ、そりゃバランス栄養食ってくらいだから……でも、これは」
 いくらなんでも。そう言おうとした春香に構わず、千早はさらにコンビニの袋に手を入れる。
「それに、今日はデザートも買ってきたから」
 そう言って千早が取り出したのは、ゼリー状のバランス栄養食(註4)である。
「これも結構重いから、お腹が空く事はないと思うわ」
「そーゆー問題じゃないと思うんだけどなぁ……」
 真顔でもふもふと食べる千早を見やりつつ、不思議そうな顔で春香は昼食を食べた。 

 ある日の昼下がり、事務所にて。
「ねえねえ兄ちゃん」
「ちょっと見てー」
 亜美真美に声をかけられたので、プロデューサーは振り返る。すると、亜美がおもむろに床に仰向けに倒れた。
「ん?」
 それを首をかしげて眺めていると、亜美に重なって真美も仰向けに倒れ、
「幽体離脱ー」
 おもむろに体を起こした。
「……お前らのことだからいずれやるとは思っていたが、存外遅かったなあ」
「「読まれてた!?」」
 うんうんと頷くプロデューサーに、亜美と真美は叫んだ。

 ある日の昼下がり、事務所にて。
 三浦あずさは方向音痴である。今日も道に迷った彼女を、プロデューサーが保護してきたところだったりする。
「本当にプロデューサーさんには、毎度毎度ご迷惑をおかけします」
 窓際のプロデューサーの席の傍で、あずさが頭を下げる。事務所は南向きなので、この席は日当たりがいい。
「いや、別に全然構わないんですが……そうだなあ。
 あずささん、地図使ってみるのはどうでしょう?」
 そう提案して、プロデューサーは机の引き出しから一枚地図を取り出した。あずさに地図を手渡す。
「じゃあ、向かいのあのビルの位置、わかりますか?」
 プロデューサーが窓の向こうに見えるビルを指さすと、あずさはそれを見て、
「上が北ですからー」
と、地図をくるりと回した。そしてそのまま、765プロのビルの上に書かれた建物を指差す(註5)。
「ここですねー?」
 プロデューサーは頭を抱えた。

 ある日の昼下がり、事務所にて。
「ふっふーん。
 今日も伊織ちゃんのファンたちはいーっぱいお手紙くれたわよ」
「みたいだな。流石は伊織だ」
 プロデューサーは、伊織宛に届いたファンレターのチェックを行っていた。胸を張る伊織を前に読み上げる。
「えーと……『罵ってください』『踏んでください』『伊織様ハァハァ』……なあ、伊織」
「……言わないで」
 こめかみを抑える伊織に、それでもプロデューサーは言った。
「これ、アイドルって言うよりもむしろ女王様」
「せめてお嬢様って言ってよ!!」
 ……その後、にしおか某ばりにボンデージでも着せてみようか、などとプロデューサーが思ったかどうかは、
また別の話である。

 ある日の昼下がり、事務所にて。
 デスクに置かれた企画書を見て、プロデューサーは盛大に吹き出した。
「 萩 原 雪 歩 探 検 隊 」
 ……微妙に語呂のいいタイトルだな。割とどうでもいい感想を抱く。
 それはともかく、と気を取り直して企画書を読む。それによると、世界各地の秘境を雪歩が探検する、という
趣旨のTV番組らしい。そのまんまじゃないか。頭の中でツッコミを入れた。
「ちょっと番組の情景を想像してみる……までもないな」
 ガチで半泣きになっておっかなびっくりになりつつ、何だかんだで踏破してのける雪歩の姿が目に浮かぶ。
 正直見てみたい、見てみたいんだが……説得が大変そうだな、これは。プロデューサーは苦笑いを浮かべた。
 一応話だけは通してみるか、と思いつつ、彼は企画書をファイルに仕舞いこんだ。
 ……ちなみに話を通してみたところ、「地下には潜れますか」という質問が返ってきたとかこなかったとか。

 ある日の昼下がり、事務所にて。
「……そこでそれを、xに代入。後はさっきの定理を使って……」
 教科書を指差して説明するプロデューサーと、
「ふんふん、なるほどぉ……っと。解けましたー!」
 諸手を上げて歓声を上げる春香。その傍では雪歩が小鳥から、真が律子からそれぞれ指導を受けている。
テスト期間が近いらしく、春香・千早・真・雪歩・律子の高校生組が集まってテスト勉強に勤しんでいた。何故か
プロデューサーや小鳥も駆り出され、勉強を見てやる羽目になってしまっている。芸能活動に専念するあまりに
赤点でも取られちゃ洒落にならないし、と溜息混じりに家庭教師の真似事をする二人である。
「しかし律子、お前3年だったよな。進路は決まったのか?」
「普通に考えれば、765プロに事務員として就職か、家業を継ぐかのどっちかでしょうね。尤も、今はアイドル
やってますし、それを続ける可能性もあるでしょうけど。
 ……少なくとも、進学は出来ないかな。アイドルやってると、受験勉強なんてやってる暇ありませんし」
 これプロデューサーのせいですからね、と冗談めかして言う律子に、プロデューサーは苦笑いを浮かべる。
「あれだな、いざとなったら芸大に一芸合格するしか」
「……プロデューサー? 芸大は芸術大学ですよ?
決して芸能大学なんてものはないですからね?」
「……冗談だよっ」
 ネタにマジレスを返されて、苦虫を噛み潰したような顔になるプロデューサーであった。 

 ある日の昼下がり、事務所にて。
「そう言えば小鳥さんのご年齢って」
「17歳です(註6)」
「……流石に、事務の仕事やってて17はないでしょう」
「……やっぱり?」
 懲りない二人だった(註7)。

 ある日の昼下がり、事務所にて。
「あれ? 社長は?」
 ふと気になったプロデューサーは、小鳥に尋ねてみた。
「普段は社長室ですね」
「そりゃそうか」
 小鳥の返答に、納得顔で頷くプロデューサー。
 実に身も蓋も無い会話で締められた。

註1:言わずと知れたファミリースタジアムシリーズの作中オリジナルチーム。
  歴代ナムコキャラが総出演する。ちなみに最新作にアイマスキャラが参戦するという噂は一切ない。

註2:キャロット味。比較的食える。

註3:ココア味。酷い。

註4:アップル味。筆者の記憶が確かなら、これのみ味の選択肢がない代わりに一番マトモな味。

註5:自分の向きと地図の向きを照らし合わせていないため起きる現象。ついでに地図の方位も確認していない。

註6:17歳教。井上喜久子を教祖とする宗教。
  ……あれ? 玄関にだれk

註7:前回参照。 



上へ

inserted by FC2 system