「お大事に(いろんな意味で)」

作:しまんばら

「おはよう、アイドル諸君。それでは早速、今日の流行情ほ、ん? プロデューサーはどうしたかって?
 ああ、それなら今朝、連絡があってね。どうも風邪をひいてしまったらしく、今日は大事を取って休暇
 をとらせたよ。まあ、彼もここ最近、忙しか、って既に誰もいないか。小鳥君、お茶を入れてく……小
 鳥君もか……今日も、わが765プロは平和でなによりだ……うん」


お大事に(色んな意味で)



 ベッドからのそのそと起き上がると、ぼんやりとする意識に更に靄がかかる感覚がする。たかだかトイ
レに行くだけだってのに、なんて人間の体は不都合に作られてるんだろうか。いやいや、それもこれも自
分の不摂生が原因だ―――。

―以下、回想―


『ねえプロデューサー、私、喉渇いちゃったから飲み物でも買ってきて。え? 外が土砂降り? そんな
 の知らないわよ。さっさと買ってきなさいよノロマ!』

『兄(c)兄(c)! 水鉄砲発射ー! ヘヘー、見事、怪人πタッチ男に命中ー! とりゃとりゃー!』

『ぷ、プロデューサー、あ、あの、私、なんか穴掘ってたら水道管にまで穴開けちゃったみたいでどどど
 どうしたら……』

『プロデューサーさん、外回りお疲れ様です! はい、キンキンに冷やした麦茶をどう、ってあああ!?』


―回想終了―


……あれ? なんで俺のハートは理不尽だと主張してるんだろう。おまけにロリコン野郎の烙印まで押さ
れてるんだろう。そりゃやよいには一回、ついつい手が滑ってというか何というか。
 トイレを済ませ、ふらふらとベッドに戻る足取りは我ながら酷いものだ。空腹を訴えていても冷蔵庫に
はろくなものがない。栄養を取らなければと思うものの、体のダルさがそのまま面倒くささへと変わるの
は容易だった。ベッドへ体ごとダイブすると、十分睡眠をとっているはずの頭が、意識のスイッチをすぐ
にオフにしてしまった。 

『プロデューサーさん、プロデューサーさん』

「……んぅ?」
 目を開くと、あずささんの顔が目の前にいた。幸いなことに頭は冷静なようで、今朝から風邪でダウン
している状態からして、これは夢なのだろうと当たりをつける。

『大丈夫ですか、プロデューサーさん?』

 どうやら夢の中でも俺は参ってるのか、心配そうなあずささんの顔に、図らずも嗜虐心をくすぐられる。

『どうもダメみたいです……』

 俺の言葉に、あずささんは『しっかりしてくださいっ』と、大げさに声を張り上げる。

『ではせめてその胸で、その胸の中でゆっくりと眠らせてください』

 そう言って俺はあずささんの胸へと顔を寄せようと動かす。夢ぐらいこれぐらいしても良いデスヨネー。

『ではプロデューサー、私の胸の中はいかがですか』

『ん? その声は千早か? でもお前の胸じゃなー。固くて眠れな』

「では永眠させてあげましょうか、ええ」

 あれ? なんか妙に現実的な感じg

 ヴァい! 

「あずささんと千早なら、事務所に帰ったわよ」
「さいですか……」
 ベッドに頭だけ突き刺さっている俺の隣で、律子が看病もとい傍観していた。
「ついでにあずささんはドン引き、千早は文字程度じゃ表現しきれない顔をしてたわ」
「SSで良かったですはい……」
 どうやら本当にアイドルたちが看病にきてたらしく、今も律子の他に伊織とやよいは俺の部屋を掃除して
くれている。小鳥さんも途中までは掃除に参加していたのだが、本棚から漫画を見つけると、部屋の隅で自
分だけの空間を作り出していた。このダメ大人め。
 うっうー、こんなイカ臭い部屋の持ち主にだけは言われたくないですー。
 どうも最近、幻聴だか電波だか止まらない自分の耳はさて置いて、他のメンバーのことを聞いてみる。
「他の面子なら、今は台所借りて、料理作ってるわ。っていうか、よくそんな状態で私たちの状況が分かる
 わね」
「ああ、それな頭がらベッドを貫通してるから、ちょうどリッチャンのパンツが見えるくらいの高さでm


「出来ましたよプロデューサー!」
 真が元気な声と共に一人用の土鍋を持ってくる。どうやら、おかゆを作ってくれていたみたいだ。
「ありがとう、真。あと、出来るなら血まみれの今の俺に少しはビックリしてくれないかな」
「え? でもプロデューサーっていつもそんな感じだし」
 デスヨネー。
「それよりもプロデューサー! このお粥、早く食べてくださいよ。ボクと亜美真美と美希で作ったんです
 よ!」
「あ、ああ……」
 途端に真の手に持っているものが得体の知れないブラックボックスに見えてくる。いや、それでもまだ人
が食べれるものの範疇を超えては、
「あ、勿論、味も保証しますよ。ちゃんと春香も手伝ってくれたんですから」
 アウト。もうダメ。そんなもうコレ食ったらオチまでまっしぐらじゃないですか。けれど、まこまこりん
は嬉しそうに土鍋の蓋を開き、美味しそうなのがかえって生命本能を刺激するおかゆを一口分、蓮華で掬う。
 ふーふーと息を吹きかけ、はい、とこちらに差し出してくる真。ああ、もうオチなんだろうなあ、って悟
る俺は、今回もまたのワのさんに頼ってしまった己の未熟さを悔いながら口を開く。おかゆという何かが投
入されるまであと数センチ、数ミリ。
 しかし、窓の外から突然の轟音が響き、おかゆがカーペットの上に零れてしまう。溶けるカーペット。本
当に何を食わそうとしたんだろう。
 そんなことよりも俺は慌てて窓を開く。すると眼前には水飛沫があがり、階下を見下ろせばアスファルト
の地面から水が噴出している。いや、水というよりもこれは。
 そこへ雪歩が登場。右手にはスコップ。
「プロデューサー! 体調が悪いんでしたら湯治を!」
 うん、まあ、これがオチなんだろうね。


おわり 




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