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作:アメジスト

千早「久々に日本に帰ってきましたね。プロデューサー」
P  「そうだな、千早・・・」

・・・もう何ヶ月たっただろうか。
日本で千早のアイドル活動の最後を見届けた次の瞬間・・・
千早は俺と共に海外でのアイドル活動を始めた
そして、今日、久々に俺らは日本に帰ってくることになった。

P  「千早、まずどこに行きたい?・・・俺としては事務所に挨拶したいんだが」
千早「もちろん私も賛成ですけど・・・その前に、一箇所だけ、いいですか?」
P  「うん・・・?もちろんいいさ。」

タクシーを呼んで・・・ついた先は、墓場。千早の・・・弟が眠っている場所である

千早「久しぶり・・・私ね、あの後もっと人気になってさ・・・」
供養しながらじっくり話しかけている。・・・俺はそっとしておくことにした。
千早「それでさ、最初アメリカに行ったんだけど、
プロデューサーが飛行機で気持ち悪がっちゃっててさ。」
P  「ちょ、ちょっと千早・・・」
あっさりくずしてしまった。
けどまあ・・・弟に話しかけてる今の千早の気分・・・なかなか見れないものだな
千早「アメリカのテレビでも結構評判もらえてね、
しばらくしたら向こうの社長に少しだけ休みがもらえて、今来たの・・・」
千早がしばらく黙ってる・・・どうしたのかと思うと突然すくっと立ち上がる

千早「泣くことならたやすいけれど・・・」

そして歌いだす・・・相変わらず、うまい。
下手な時からこの歌を喜んでくれてた千早の弟。
きっと、こんなに上手くなってて、すごく喜んでるだろう


千早「・・・行きましょうか。そろそろ」
P  「ん?もういいのか?」
千早「ええ・・・伝えたいことは、伝えられるだけ伝えたつもりです・・・」
P  「そうだな。伝えられないものは千早なりにさっきの歌に全部こめてただろうしな・・・
千早にしかできないその領域まで」
千早「え・・・プロデューサー、うまいこといわないでください・・・」
千早が顔を赤らめながら、荷物を持って歩き出した
千早「届いてくれてたでしょうか・・・私の歌」
P  「きっと届くさ。届いてたら、きっと最高に喜んでくれるだろうな」
千早「・・・そうかもしれませんね」
P  「千早の歌・・・想像できないけど千早が下手な時から喜んでくれてたみたいだしな。
たくさんの人が千早のことが好きになってて、
今その歌を千早が聞かせてくれた・・・この上ないんじゃないかな?」
千早「ふふ。届いてたら・・・きゃあ!」
・・・!??!?!?!?
一瞬何が起きたかわからなくなった。千早が転びだした・・・それもそこそこ急な階段で・・・
話ながらで気づかなかったのか・・・
足を踏み外したかもしくはそこにある缶でも踏んだのか・・・なぜかはわからない・・・けど
転んで最初に手をとるもその急さにバランスが間に合わず
千早は階段に体中をぶつけて転げ落ちていってしまった・・・
ゴツッ・・・
最後に頭をぶつけてぐったりとしてしまった千早を追いかけながら見てしまった瞬間・・・
P  「ち・・・千早ーーー!!!え・・・えっと・・・きゅ、きゅ、救急車!!!」
(トゥルルルルル・・・) 


・・・ここはどこだろう・・・たしか私は階段で何か踏んだ感じがして・・・転げ落ちて・・・
えっと・・・何ここ?えーっと・・・いや、そんなことないはず・・・
あずささんじゃあるまいし・・・そもそもあの人も冗談で言っていた・・・
目の前に川が流れているのが見える。けど、渡る気にはなっていなかった。
とても・・・しかし、川の向こう岸を見ると・・・
千早「・・・え!?」
そこには他の誰でもない、私の弟がそこに当時の姿のまま立っていた。

・・・思わずわたりかける・・・

弟 「だめ!きちゃだめ!」
千早「え?」
思わず私は既に足元が濡れている。
しばらく、私は精神を整えた
千早「・・・ねぇ、信じたくないけどココって・・・」
弟 「たぶんお姉ちゃんが思ってる通りの場所だよ・・・」
本当に、冗談の中のあずささんじゃあるまいし・・・
弟 「あずささんって誰?」
千早「えぇ!?な、なんで・・・?」
弟 「わかるよ。ここは心だけの場所だもん」
千早「・・・そう・・・。あずささんってのは日本にいたときユニット組んだ人で、
ものすごいペースが遅い人で・・・」
弟 「あはは♪お姉ちゃん何回か怒ったでしょ!」
千早「怒ってはいないけどいらついたことなら・・・」
弟 「さっき、お姉ちゃんの歌聞いたよ。・・・お姉ちゃん本当にすごいよね。
ものすごい上手くなっちゃっててさー」
千早「え?聞こえてた?ありがとう。・・・どんな感じした?あの歌」
弟 「ものすごい悲しー寂しー感じした曲だったよね。」
千早「あの曲ね、私が日本でデビューしてるときに歌った歌で、一番心に響いた歌なの。
そして心のままうたえた曲でもあったの・・・」
弟 「・・・心のまま?お姉ちゃんが?寂しい歌を・・・?
・・・お姉ちゃんそんな感じだったっけ・・・さっき聞いた話も楽しそうで・・・」
千早「そういえば言ってなかったっけ・・・あのね・・・よーく聞いてね」
弟 「・・・うん」
千早「・・・あの交通事故の日から・・・父さんが・・・だって言って・・・
それっきり二人の仲が悪くなっちゃって・・・」
弟 「・・・え?」
千早「しだいにそれ以外のことでもケンカするようになって・・・
次第には本当につまらないことでも・・・気がついたら離婚までして・・・
家族一人が死んで、二人が私から離れて・・・気がついたら私は一人だったの」
弟 「・・・僕のせいで・・・父さんと母さんが・・・」
千早「そんなことはないって。・・・その・・・」
今話せるだけでもうれしいけど。なんと言えば良いか・・・
弟 「いいよ。お姉ちゃんがそういってくれるなら・・・」
・・・そういえば頭で思っても意味ないんだ・・・
千早「・・・ごめん・・・」
弟 「いいってば・・・それよりお姉ちゃん・・・さっきの歌・・・
本当にお姉ちゃん今でもそう歌えるの?」
千早「え?」
弟 「いやさー・・・歌声がさ、最後に聞いたのとおんなじ感じだったから・・・本当に?」
千早「そのはず・・・だと思うけど」
弟 「・・・なかのいいひとでもできたんじゃないのー?」
弟が少しにやけが出て来ている。
でも、今の一言で私は一瞬でプロデューサーのことが思い浮かぶ
弟 「アレ・・・その人、さっきいっしょに来てくれてた人?」
千早「そ・・・そこまでわかるものなの?確かにその通りだけど・・・」
弟 「結構ふがいなさそうな人だねー」
千早「私も最初見たときそう思ったかな。
けどものすごく頼りになる人で・・・この人が私を日本でトップまで行かせてくれてね」
弟 「えー!すごいね!人は見かけによらないね!」
千早「・・・本当にあの人はすごい人・・・海外に進出しようとして・・・
無理だと覚悟してついて着てくれること頼んだら・・・本当についてきてくれた」
弟 「ふーん・・・」(ねーちゃん顔真っ赤だぁ。。。)
千早「えっ・・・あ・・・赤いの?」
弟 「あ、しまったー・・・」
千早「あはは・・・」 


(だ、大丈夫です!もう助かります!)
千早「・・・あれ?」
弟 「どうしたの?」
(本当に・・・千早は・・・千早は助かったんですね!)
千早「プロデューサーの声もする・・・?」
弟 「・・・きっと戻れるよ。・・・戻らないといやでもここに渡ることになるよ。
姉ちゃん早く戻ったほうが良いよ」
(いえ、あなたの処置がなければ・・・あなたの人口呼吸も心臓マッサージもなかなかのものでしたよ)
千早「・・・そう・・・もう少し話したかったけどね」
弟 「大丈夫!今度からは、お姉ちゃんの近くにずーっといてあげるからさ!
絶対にまた歌ってよ!お願いね!」
千早「ありがとう・・・(ニコッ)歌ってあげるから、ずっと見てくれててね。
こっちもお願い・・・。じゃあ・・・またね」



・・・目が覚めた。頭が痛い。体中も痛い。
・・・けどそこはたしかに転んだ墓場の階段の下。もちろん花も川もあるわけがない
夢だったどうかはわからないけど・・・今私はちゃんとここにいる


P  「千早!千早ああ!よかったぁー!」
千早「プロ・・・デューサー・・・?」
たしかに彼が今見える。よかった・・・
医師「後は安静にしていれば、入院する必要もないですよ」
P  「はい・・・ありがとうございました!!」

そして医師たちは帰っていった。寺の中に私を運んでその中で緊急に処置を施したらしい。

P  「千早・・・どうする?安静にしてないと頭の痛みもひきにくいけど・・・」
千早「とりあえず、事務所にだけ行って休むことにします・・・」
P  「わかった。じゃあタクシー拾おう」
千早「・・・ところでプロデューサー。
人工呼吸に心臓マッサージ・・・プロデューサーがしてくれたんですよね」
P  「・・・ええ!?!?」
プロデューサーも私も赤くなってるのがわかる・・・
(お姉ちゃんそんなこというようになったんだー。じゃあ、今度からはずーっと見てるからねー。)
千早「・・・え!?」
P  「え・・・千早、どうした?」
千早(今・・・確かに・・・)
それ以降は私には全く聞こえることがなかったが
その一瞬に聞こえた声はさっき何度も聞いたあの声であった・・・
私は夢でなかったことを確信した。むしろ、偶然が起こした、再会とも思えた。

・・・そして私はすぐに体調も回復して、再びアメリカへ戻る
あのことはプロデューサーには、なんだかどう反応してくるかがちょっと怖くて言ってないまま・・・
人気はどんどん高まって、私はついにアメリカでもドームへと立った

P  「よし、行ってこい千早!」
千早「はい!私の出し切れる想いの限りを・・・皆さんに伝えてみせます!」
私はステージに踏み入れる
(がんばって!)
あの日から私がステージに上がるたび、私の、弟が、がそういってくれている感じもして。
千早(ありがとう)

彼の言うとおり私は孤独なんかじゃないのを再確認する・・・
私の近くにはあの愛する人がいてくれるから
そしてもう一人、いつも今も私のそばで見てくれている私の家族の一人がいるから・・・
誰よりも大切な人が・・・二人も近くにいてくれている今だから・・・。
そして今日も私は歌う・・・このお願いを、聞いてあげるために
ファンのためにも・・・私に星を掴んでほしいというプロデューサーと・・・
私の歌を聞きたがる、弟のためにも

End 



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