ある日の陽だまり

作:名無し

 吐く息に白さが混じり、冬が感じられるある日の午後。
 公園のベンチに座り、ぼんやりと何をするでもなく時間をすごす。
 繁華街の、路地を一本隔てたところにある小さな公園。
 遠くでは、子供たちの遊ぶ声。
 本当に何もない、穏やかな昼下がり。

「思っていたより暖かいですね」
「やっぱり、お日様が当たっていると気持ちいいですね〜」
 今日はお休み。事務所に顔だけ出すつもりだった俺は、
偶然さまよっているあずささんに出会いそのまま日向ぼっこに繰り出した。
手近のコーヒーショップでコーヒーを買い込み、事務所のすぐ側の公園へ。
平日の真昼間、公園のベンチを使うのは子供たちか、その親くらいだった。
これ幸いとベンチに座り、ぼんやりと・・・。隣には、あずささんが座っている。
「え、えーっと・・・」
「はい?」
「何で、ずっと俺の方を・・・」
「あらあらあら。ふふっ」
 そう言うとあずささんは、遊ぶ子供たちへと目を向けた。
「楽しそうですね〜」
「ですね」
 懐かしい物を見るようなその視線は、優しさに溢れている。
「あずささんは、どんな感じの子供でした?」
「うーん、そうですね・・・。鬼ごっこは苦手でした〜」
「まぁ、そうでしょうね」
 すぐにでもその光景を思い浮かべることができそうで、思わず笑ってしまう。
「あ、ひどいです、プロデューサーさん。笑うなんて・・・」
「ああ、ごめんなさい。でも、なんか・・・イメージ通りというか、そのままかなぁ、なんて」
「そのままなんて・・・ちゃんと成長してるんですから〜」
「あ・・・はい、そうですね・・・」
 あずささんの顔から、胸の方へと流れそうになる視線を必死で引き止める。
「あ、でも、かくれんぼは得意でした〜」
「かくれんぼ・・・あ、なんだか、それも分かる気がします。
一番最後まで隠れていられるタイプでしょう?」
「一番最初に見つかるか、一番最後まで見つからないか、のどちらかでした」
「帰る時間まで見つからなくて、『あずさちゃ〜〜〜ん』って、探されたり?」
「はい。そういうこと、何回もあって・・・お父さんやお母さんも探しに来たことがあって、
それ以来ないしょの遊びになってしまったんです」
「ないしょの遊びですかー」
 これまたすぐにその光景が思い浮かぶ。なんだか、随分前から知り合いみたいだ・・・。
 子供たちは鬼ごっこを始めていた。いつの時代も遊びは変わらないのかな。
公園を所狭しと駆け回り、そして。
「うわーーーーーん!!」
 あずささんの前で、まるでお手本のような転び方をした子供が泣き出してしまった。
「あらあら。大丈夫〜?」
 あずささんは優しくその子を抱き起こし、軽く砂を払う。
「・・・・・・?」
「あら。私の顔に何かついてるかしら〜」
「おねぇちゃん、あったことある?」
「うーん、初めてだと思うけれど・・・」
「・・・?」
「・・・?」
 お見合いのように、顔を見合わせたまま動かないあずささんと子供。
「うーん、わかんないや。ありがと、おねぇちゃーん」
 言いながら、また鬼ごっこの輪へと戻っていく。
「何だったんでしょうねぇ?」
「テレビか何かで見たことがあったのでは?」
「ああ!きっとそうです〜。何だか嬉しいですね」
「あずささん、子供にも人気出そうですからね。歌のお姉さんでもやってみますか?」
「あ、そういうお仕事、楽しそうですね。ふふっ」 


 少しずつ日も傾き始め、冷め切ったコーヒーも残り少なくなってきた。
「ちょっと陰ってきましたね」
「そうですね〜。そろそろ・・・」
「いしや〜〜〜きいも〜〜〜」
「あら」
 この季節の風物詩がやって来た。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「買ってきましょうか?」
「あ、はい。すいません〜」
 そう言うと、あずささんは少し頬を染めてはにかんだような笑みを浮かべた。
そんな表情を向けられたら、俺の顔まで赤くなってしまいそうですよ。
 俺がベンチを立つとそのすぐ後をあずささんがついてきた。
「待っていてくれても良かったのに」
「一人でいると、なんだか寒くなってしまいそうで〜」
 昔ながらのリヤカーで石焼芋を売るおっちゃん。
ご丁寧に『九里四里うまい十三里』のコピーまで書いてある。
「お!べっぴんさんだね〜。おまけしちゃうよ〜」
「ふふっ。嬉しいです〜」
 大き目の焼き芋をごろん、ごろんと紙袋へ。
「ちょ、ちょっと、おじさん。多くない?」
「なーに言ってんだいあんちゃん。このくらいぱぱっと買えるくらいの稼ぎはあるだろー?」
「あ、いや、そうだけど。じゃなくて、食べきれ・・・」
「余ってしまったら、事務所の差し入れにしてしまいましょう」
 あずささんが、ぽむっと手を叩きながら迷案を出してくれた。
 俺は苦笑しながら、
「そうですね」
と答えるしかなかった。
 ベンチに戻り、早速湯気をゆらゆらと立ち上らせる焼き芋を頬張る。
「あふっ!」
「あらあら。急いで食べるからですよ〜。ほら、こんなところに」
 あずささんは、俺の唇のすぐ下あたりに付いていた芋の欠片を指でつまむと、
そのまま自分の口に入れてしまう。
「甘いですね〜」
「そ、そうですね・・・」
 なんだか、必要以上に緊張してる気がするぞ、俺。
「ふぅ〜。このまま一日が終わってしまうのがもったいない気がします・・・
私はとても楽しかったのですけれど。プロデューサーさんは退屈じゃありませんでした?」
「全然、そんなことないですよ。とても穏やかで・・・何ていうか・・・」
 少し言葉を選んで、
「充実していたと言うか・・・」
(ああ、そうか)
「幸せ・・・でしたよ・・・」
多分、聞こえないほどの小さな声。あずささんに届いていなくても別に構わなかった。
「あ・・・良かったです・・・。私も、幸せ・・・です・・・」
あずささんの声も、風に消えてしまいそうなほど小さかったが・・・何故か俺の耳には届いていた。

 穏やかな一日は暮れて行く。

 ・・・そうそう、事務所に差し入れた石焼芋はなかなか好評だった。 



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