LONGTIME前夜

作:駆け出しP

「明日は早いから、早く寝ておけよ」

そう言って、プロデューサーさんはドアを閉める。
足音が遠ざかっていく。

「ふぅ・・・」
ベッドに腰掛け、ひと息つく。
事務所の近くのビジネスホテルの一室。
明日のオーディションに落ち着いて挑めるように、と手配してくれた部屋だった。

時計を見る。明日のためにもう寝た方がいいだろう。
明日の準備をしながら寝支度。
「よし、これでOK」
照明を暗くし、ベッドに潜る。
これであとはぐっすり休んで明日に備えるだけ・・・



「眠れない・・・」
思わずつぶやいてしまう。
すでにベッドに潜って3時間は経っているだろう。
いつもはこんなことないのに、今夜はどうしても寝られない。
明日は大きなオーディションなのに。

LONGTIME−長い歴史をもつオーディション。アイドルを目指す者にこの名を知らない人はいない。
狭き門だけど、通り抜けられたユニットはテレビで大々的に取り上げられ、
増えるファンの数は他のオーディションの比ではないらしい。
そんなオーディションなのに、初めて挑戦する機会を得たというのに。

「ふぅ・・・」
落ち着こう。大丈夫。
オーディションも幾つか経験してきているし、今までレッスンを積み重ねてきたんだもの。
明日も今までの積み重ねとプロデューサーさんの指示を信じれば大丈夫。

目を閉じて、イメージみてみる。

そういえば、オーディションに行く前はプロデューサーさん、私よりも緊張しているみたい。
「酵素パワー」とかよくわからないことつぶやいてるし・・・
直前にはいつも「気を引き締めていけ」って・・・
落ち着けるときもあるけど逆におろおろしちゃうことも・・・
思わずクスッと笑ってしまう。

BGMが流れて、オーディションが始まる。

「もっと遠くへ泳いでみたい
 光満ちる白い Island・・・」

小声でそっと歌ってみる。
プロデューサーさんの指示を聞いて、アピールする。

ちょっと頼りない時もあるけど、いつも見守ってくれるプロデューサーさん。
今までのことを思い出すと、自然に力が出ていいアピールが出来る気がする。
体が自然に動く。
私の今までのプロデューサーさんとの日々を思いっきりぶつけよう。
大丈夫、プロデューサーさんとここまで頑張ってきたから・・・ 




遠くで誰かが私を呼んでいる。
それと一緒にけたたましく鳴る音−

「う〜〜ん・・・」
急に視界が開けカーテンの隙間から覗く日差しに気づく。


ドンドンドン! ドアを叩く音。

「おーい、春香っ まだ寝てるのかー!?」

聞きなれた声がする。
枕元には盛大に鳴る私の携帯・・・発信元は声の主。

時計を見る。集合時間は既に過ぎている。



「きゃああああああぁああっ!!!」



思わず飛び起き、昨夜掛けて置いたウエアをもぎ取る。
とにかく急いで、着替え・・・

すってーん!

思いっきり尻もちをついてしまう。
「春香、起きたのか?大丈夫か?」
ドアの向こうからほっとしたような、慌てたような声が聞こえる。
「はいっすみませんっ 今いきますっ」
お尻をさすりながら叫ぶように返事する。
「慌てて転んだりするなよ〜」
諭すような、優しい声。
慌ててるはずなのに、なぜか安心してしまう。もう転んじゃってるけど。

会場までの車の中で散々怒られたけど。
オーディションの指示をマシンガンのように言われたけど。
私のことを精一杯考えてくれるプロデューサーさんが嬉しかった。



会場に到着したのは本当にぎりぎりだった。
扉を開けたら、既に5組のユニットが集まっていて一斉に振り向く。
前にいる、審査員らしい人が眼鏡をくいっと上げてこっちを見る。

「エントリーナンバー6の天海春香さんですね。皆を代表して意気込みを聞かせてもらえますか?」

視線が注がれる。
いつもならわたわたしちゃってプロデューサーさんの言うことをいうだけど・・・
今日は大丈夫。

「春香、ここはこう言っておく・・・」

今の気持ちなら・・・プロデューサーさんと一緒なら・・・私の全力をぶつけられる・・・

「きっとっ!合格してみせますっ!」

ちょっとびっくりしたみたいだけど
「とてもいいお答えですね。今日のオーディション。期待していますよ。」
にっこり笑ってくれた。



開始直前、最後のミーティング。
プロデューサーさんはいつものように緊張してるみたい。
審査員に呼ばれる。

「気を引き締めていけ!」
いつものセリフ。
思わず笑顔になってしまう。



「それじゃあ、いってきます!プロデューサーさん!」 



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