王子様のゆびさき

作:某215

1.
プロデューサーがテープの停止ボタンを押す。
音楽が止まると、今までそれに合わせてくるくると回っていた真がそのまま、よたよたと部屋の
隅においてあったスポーツバッグに転がるように駆け寄った。
バッグの中からミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと、そのまま、口元から水がこぼれる
のも構わずにんぐんぐと飲み始めた。
「ぷはーっ、あぁ生き返ったあ」
「こらっ、真。あぐらなんて女の子らしくないぞ」
プロデューサーは真にタオルを渡しながら責める。
ただし、その口元は柔らかく、本気で叱責していないことは明らかだ。
それもあってか、真もそう悪びれずに頭をかいた。
「へへっ、すみませんプロデューサー。つい楽な格好しちゃいたくて」
「ああ、別に。本気で言ったわけじゃない。その格好も真らしいからね」
「…へへへ…」
二人は、文字通り二人三脚で駆け上がってきた。
気がつけば1年近くの間ドタバタと動き回り続けてきて、いつのまにかトップアイドル。
Bランクのアイドルになっていた。

当初は女の子ぽくないと売れないのかと悩んだりした時期もあったが、結果を出すに従って、
素のままの魅力を磨けばいいと気持ちの整理もついてきた。
だから、いまこうやって、床にあぐらをかいてペットボトルを手にし、タオルを首からかけている真は、
とても自然で、キュートだと思う。
「な、何やっているんですか?プロデューサー」
「んー。いや、今度の写真集は、その構図の絵が欲しいなと思って」
プロデューサーは指でカメラのアングルを作る仕草をしている。
「ええっ、こういうのがいいんですか?」
「そうだね。こういう健康的な姿は、そういうCMとかにも使えるし、もちろんグラビアにも使えるよ」
「でも、この格好、かなり男っぽくないですか?」
「ははは…女の子がそういう格好をするからドキッとするんじゃないかな」
「そ、そうかな…」
「はい、じゃあそんなところで、もう一度さっきのパートからやってみようか」
「ちぇ…もう休憩終わりか…」
そうぶーたれつつも真はすくっと立ち上がった。 


2.

真を一気にスターダムにのし上げた「エージェント夜を往く」。
ユニセックスな魅力を持つ真が歌う刺激的な歌詞と、大胆な踊りで注目を浴びている。
レッスンを重ねるごとにそれは完成度を増し、現在ではほぼ完全にモノにしたと思っていい。
しかし、プロデューサーにとってはまだなお僅かな改善点が残っているように思えた。
今日はそこを修正するべくダンスレッスンを行っていた。

問題の箇所は「秘密の うちわけ」という部分の踊りである。
微妙に腰を回しながら、大きく指を回す。
誘うような。逸らすような。
そんな微妙な仕草を表現している。
どうにもそこの部分が固く感じられるように思えていた。
「そこ、指先に気持ちが残ってないぞ!はい、右足出して!」
プロデューサーの指摘にも熱がこもる。
幾度目かの繰り返しの練習の後。
「もう一度休憩お願いしま〜すっ…」
さしもの根性ある真も根をあげてへたり込んでしまった。
無理をさせるつもりはないのでプロデューサーも同じく床に座る。
「プロデューサー、やっぱりアレじゃだめですか?」
「うーん、なんだかまだぎこちなさが残っているんだよな…それがなくなれば完璧だと思うんだけど」
真はこちらをじっと値踏みするような目で見つめてくる。
「じゃあ、プロデューサー、お手本見せてくださいよ」
期待に満ちた目で、お願いをしてきた。
「お手本?」
「そうですよ、前はよく見せてくれたじゃないですか、お手本。それに、今日もスウェット着ているし」
確かに教る側とはいえ、動くわけだから当然汗もかく。
今日はあらかじめダンスレッスンとわかっていたからスウェットを用意していた。

たしかに、教える側がちゃんとしたものを見せられないと手本にもならないだろう。
「じゃあ、『その名は』のところからやってみるか」
「はい!お願いします、プロデューサー!」
真がテープのスイッチを入れる。
ステップを重ねつつ、腕を、腰を動かす。
無心を装っているが、やはりこれは女の子の踊りだなあと、心奥底で思いつつ、踊り、歌詞を口ずさむ。
サビの前まで終わり、振り向くと真がびくっと肩を飛び上がらせた。
「どうした?」
「いっ、いえっ、あのっ、なんだか、とってもすごく可愛く踊ってみえたんで…」
顔が真っ赤になっていた。
「あ、あんなに可愛い踊りだったんだ…」
「そんなに可愛い風に踊ったかな?じゃあ、二人でもう一度半分のテンポで動きを確認しようか」
「はっ、はい!」
ミラーを前にし、真の後ろにプロデューサーが立つ。
まるで抱え込むような形になる。
1/2の速度で再生された音…通常ならつい笑ってしまいそうな曲調だが二人は真剣そのものだ。
「そう、ここで、腰元を意識!」
プロデューサーの手が真の素肌の腰元に触れる。
(あっ……)
その、先ほどまでは少女もかくやという踊りを見せたプロデューサーの手。
暖かく、しかし節ばった手の感触が、ダイレクトに真の芯に響く。
「そう、いい感じだぞ」
無理やり手で腰を動かすようなことはない。あくまで腰元に意識を残すような、
添えるような手。
今まで真が感じなかったような…胸の奥というよりも、お腹のあたりからわき上がってくる不思議な
気持ちに動悸が乱れる。
「よし、いい感じだぞ真」
「はっ…はいっ」 


3.

幾度目かの繰り返しを経て。
「あ、あの…プロデューサー…ボク…もう…」
いよいよ真も限界のようだ。
別の意味で限界なのだが、そんなことには露と気づかずプロデューサーは真を解放する。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
プロデューサーにはさすがに長時間のレッスンで、普段から鍛えている真も疲れたのであろうと
みえる。
顔を真っ赤にして目がうるんでいるところまでは気づかない。
「今回のレッスンで流れるような動きになっていたぞ。これなら大丈夫だ!」
「は…はい、プロデューサー、ありがとうございます」
「それにしても…真って腰が細いなー」
そっちの話題になったでぴく!と体が反応してしまう。
「そ、そうですか!鍛えていますからね!へへ〜…」
「ああ、支えていて思ったよ。でもや柔らかくてやっぱり女の子らしいなって思った」
「…そ、そうですか!はは…ははは…そうだ!プロデューサーのお腹も、触らせてくださいよ!」
「な、なんだあ?」
突然の話にプロデューサーが身を引く。
「ボクのお腹ばっかり触って、ズルいですよ!プロデューサーのも触って、おあいこです」
そういいながらにじり寄ってくる。
よせといいつつも半分は真のなすがままにされ、シャツをめくりあげられた。
「うわー…」
「なに、なにか変か?」
「いえ、思ったよりお腹が割れててビックリしました!先生並ですよ!」
「先生っ…て、空手の?」
「はい!あっちはホントのムキムキですけど…プロデューサーはなんだか必要十分って
感じですね…触ってもいいですか?」
「ん…?あ…ああ」
触るぞと言っておきながら顔を赤らめて許可を求めてきたので曖昧な返事になってしまう。

ぴとり。
真の指が自分の腹に当てられる。
小さく、細く、そして、綺麗な指だ。
男であるプロデューサーの手とはまったくなにからなにまで違う。
「う、うわー…やっぱり固いですね」
真の指がぎこちなく自分の腹を這う。
「うわ…くすぐったいぞ、真…」
なぜか声が掠れ気味になってしまう。
「ダメですよ…じっとしていてください。ボクのお腹をさんざん触っておいて」
「…………」
真の目が一瞬肉食動物系になり、プロデューサーは黙る。
真は…その、あまりにも女の子らしい指でプロデューサーの腹をさんざさすり、まさぐり、
つまんだりした。
「ほら…もういいだろ真」
「あっ…」
いい加減へんな気分になってきたプロデューサーが真の手を掴む。
それが、ちょうど手を握り締めるような格好になっていた。
プロデューサーの手の中で、くたっと包まれてしまう真の指。
(……こんなに、か細いものなのか…)
「あの…」
元気いっぱいで力強く見える真の拳も、それを解きほぐして包んでみれば、その指の
一本一本は…とてもたおやかなものだった。
「プ…プロデューサー…」
つい、その手の小ささに驚き、さすってしまう。
自分の雑なつくりの指の腹で、滑らかな真の甲から指先にかけてをゆっくりと撫でる。
「ひゃうっ!プ、プロデューサー…!ボク…ボク…」

へっくしょん!

それで、夢から覚めた。

「…ああ!真、冷える。そのままじゃ冷えるぞ、早く着替えてこい」
「あっ、ハイ!じゃ、じゃあ、また後でプロデューサー!」
真はバッグをひったくるとスタジオから逃げるように駆け出していく。
この後の予定もまだあるのだ。
今度のグラビアでは、真の指先を強調するような構図を考えながら、プロデュー
サーも自分の荷物をまとめると着替えるべくスタジオを出た。

−終− 



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